捕獲成功

「お前、最近また野生児に戻ったな」 「…んだよ」 大岩の上でぼんやりしているところを急に話しかけられ、銀時は顔をしかめた。 河などもってのほか、川でも言いすぎなくらいの流れ。ただし深い箇所なら大人でも身体がすっかり沈む。さらさらと絶え間ない水音が耳に心地よい場所である。 そこに降ってきたのが高杉の声だった。長い付き合いもあってか人の嫌がるタイミングも的確に捉えてやがる、そう思えてならない。 そんな銀時に追い払う暇を与えまいとするかのように、彼は素早く銀時の隣を陣取り無言で座り込むのだった。 子供らしからぬ、何を考えているやら、辛い思いをしただろうから、等など。松陽に拾われやっと人の子らしい生活を始め暫く経った頃、他所の大人たちが銀時のことを好き勝手に評していたのを子供ながらに感じ取ったものだ。そんな面白くもない記憶を呼び起こされたのは昨夜で、きっかけは同胞の少年たちとのささいな会話だった。 彼らに悪気はないと理解しているつもりだが、どうにも調子が出ないのだった。 「銀さんに何か用?」 「別に」 「…あっそ」 実際どこまで知っているのか、高杉はからかいも慰めもしてこなかった。 実のところ何も知らないのかもしれない。表情を盗み見るも、銀時には何も読み取れなかった。 肌がやたら滑らかそうで触れたくなったが、それはやめた。 暫くして銀時が川面に向けて小石を投げ始めると、彼も似たようなことをした。 「あれ。一緒に入れば?」 次第に沈んでいる自分というものも馬鹿らしくなってきて、銀時は数メートル先を顎で示した。そこでは瀞の淵に立った桂が腰を折り、何事か叫びながら頭を川面に突っ込んでいる。 「煩えからなァ」 「じゃあ後で銀さんが一緒に行ったげるわ。お前一人であんなことやったら流されちゃうでしょ」 「要らねえ。あそこ狭いだろ」 「そうなの?てかヅラあれ、腰とか背中、痛くないのかねえ」 「アイツ昔から身体柔らかかっただろ。…銀時、テメェこそよろけて落ちるだろうなァ」 「いやいや俺なんかより。高杉くん脚曲げて痛え痛え泣いちゃうもんね?」 「…いつ俺がんなこと言った?」 「高杉さ、身体固くてオナれないんだろ。それで猥談入ってこないとか?銀さん練習相手になってあげるけど?」 「!………何言ってんだお前」 にやつくのを堪え、銀時の頬は小さく痙攣した。どうも彼はこういった話題が不得手らしいが、その反応こそこちらの悪ふざけを加速させると何故気付かないのだろう。 「何でそんな頑ななのよ。イイコぶったってさあ。流石に、したことなくはないだろ?いやあ、真面目な話、抜いてはいるよな?たまにはさ」 「チッ。心配して損したぜ」 「あ、やっぱ銀さんのこと心配だったんじゃねえか」 「その様子じゃ何も問題ねえな。…何だ?こっち来んな」 「あはは。そうだわ、そのへん年頃男子にしちゃコイツこそ人間味ないのに」 「あー…、お前」 途端、高杉の表情が呆れたようなものになる。 ああこいつのこういうところが嫌だ。銀時は、急に嫌な気分になった。 「こいつの」について厳密に言うとそれも正しい意味ではないから嫌だ。 何というか、そうだな。銀時は考える。高杉は俺を特異な奴としない…つまり辛い過去を背負ってきて可哀想だとかそういう見方をしない。それでいて突っかかってくる。けれど意外と笑顔もよく見せる。 コイツと居ると腹の奥がむずむずして気持ち悪いような気がして。 「あー。あーあー。ストップストップ、じゃあ、一番、最近で抜いたのいつ?」 「こんな昼間からする話でもないだろ」 「夜聞いたら答えんの?」 「しつこいな。…何だ、やんのかお前」 「はあああ?そっちがその気なら?別に?相手してやってもい」 「コラー!!!」 取っ組み合い開始の直前で場外から飛んできた怒声に驚き、銀時は握った拳を緩める。そんな銀時の胸倉からも、高杉の手が離れていった。 そのまま揃って声のした方を向くと、両手を腰に当てた桂が睨んでいる。濡れた髪を顔や身体に張り付かせたその姿は、妖怪じみて見えた。 「河童みてえ」 「アイツが一番人間じゃねェ」 「まあ、そうね」 「喧嘩はやめなさーい!………お前ら何がおかしい!!」 「…フ」 その姿のまま重ねて怒鳴られるとますます滑稽だった。先に吹き出したのは高杉の方で、銀時もつられて笑った。終いにばんばんと互いの背を叩きあい、腹を抱えて笑い転げた。 「んー、まあ仲直りしたなら許す!つうか、たかすぎー、そこの手拭いくれー!」 「ん?おう…」 笑いすぎて滲んだ涙を指で拭いながら高杉は立ち上がる。あっさり置き去りにされるようで、銀時は少しつまらなく思った。 「なんだ、やっぱ入ってくんの?」 「ん」 尻についた砂埃をぱんぱんと祓う手、逞しくなってきた腕。それらは勿論銀時くんには遠く及ばないがね、と思うのに目を離せず、そのまま脇などを凝視してしまう。 その間に彼は腰帯の隙間にねじ込んであったらしい手拭いを取り出し、それを口に咥えて服を脱ぎだす。 舐めるような銀時の目線を知ってか知らずか、彼はそのままどんどん脱ぎ捨てた。そして終いには素っ裸になった。 「おま……ヘンタイじゃないですか…」 「今どこにも女は居ない。…残念だな」 「え。…びっくりした。今お前のこと見直したわ。確かに残念すぎる」 「な」 「…ねえ、つかお前、下の毛薄くない?前も言ったかもしんないけど」 「見んな。んなこたねェだろ。…馬鹿が」 咥えていた自分の手拭いを腰に当て、桂に渡す方は首に掛けて行くらしい。 無意識のうちに銀時は自分の股間にそっと手を当てていた。 「おっ、高杉も来るかぁー?ここの水メッチャ綺麗だぞおー。陽が当たるから今ならあったかいぞぉー」 「そりゃ良い、…っ!、冷てェ」...

July 14, 2020

しみ

攘夷~原作銀高 高杉くんお誕生日おめでとう企画2017 その宿営地には三ヶ月ほど留まった。 冬になると、存外雪深い土地だった。 ぽーん、ぽーん、ざす。 久しぶりの青空だ。 銀時は、広い雪原に点々と残された人の足跡を辿り、軽やかに跳ねていた。 雪から反射する陽光に、目が眩んでくる。 だだっ広いその場所は、何年も前は水田だったらしい。 つまり、少しくらい駆け回ったところで誰に叱られることもない。 「遊ぶなら、あそこに行くんだぞ」ため息交じりに桂から告げられた言葉に、銀時は小躍りしたものだ。 そんな姿を見つめるもう一人の幼なじみの目が酷くやさしかったのを、銀時は知らなかった。 飛び石ならぬ飛び足跡踏みを続けながら、銀時は秘密基地を目指す。 足跡を踏み外さずに辿り着けたら、きっと良いことがある。 しかし、一歩と一歩の間隔が意外と広く、正しく踏み続けるのは骨が折れた。 「俺のより短い癖に…っと」 「銀時テメ…何で俺が宣言したと思ってやがる」 「出掛けてくる、ってしか聞いてないね」 秘密基地あらためほら穴に着くと、予想通り先客から文句を賜った。 ただ、それも最初だけだった。 奥の暗がりには、もう彫られた字も読めない位ぼろぼろに綻びた大小の墓石が転がっている。 彼のほっそりした背中に続くと、墓石たちの数歩手前で小さなランタンの炎が揺らめいていた。 確かに、銀時がここで先客を訪ねるのは初めてだ。 時には静かな場所が欲しい。そんな意見に大いに同意し合ったが、探し当てた場所が重複していると知るや、高杉は随分不満そうだった。 そこで、片方が行くと知ったら他方は身を引く、として話は落ち着いていた。 「来て欲しそうな顔してたけど」 「チッ。…しねェよ」 「用事で遅くなるっつって出てきたし、あんま早くも帰れねえんだよね」 「…フン」 遠く冷たい青空、ところどころ眩しく光る、一面の雪。 並んで腰掛け、暗いほら穴から外を眺める。 銀時は、自分が今いるのは何処の世だろう、と不思議な気分になった。 目がちかちかしてきたのでほら穴の奥を振り返ると、意外なものが、居た。 「これ、高杉作ったの?」 「……」 手のひら大の雪うさぎが、墓石の一つの上に、居た。 返事は無い。 喧嘩の吹っかけも悪ふざけもする気はないと示すため、銀時は視線を外に戻し、真っ直ぐ前を見続けた。 「目。赤い実、なんだっけ」 「…南天」 「ふうん」 「銀時。今日は、駄目だ」 ああ、やっぱり。 銀時は、ここに来て良かったと確信した。 「あいつ。メガドライブやってなかったって。そらそうだろ。俺らのさ、内輪ネタなんだからさ、あんま言うと変に思われるから止めとけよ」 「……」 「本当はもっと、お前の取り巻き?鬼兵隊?の奴らと仲良くやりてえんだろ。はは、お前、俺らしか友達いなかったもんな」 「んなこたァ…」 「あいつ、でも言ってたよ。俺も、ちゃんと高杉さんのこと分かってますからーって」 「……っ」 銀時には、幼馴染が肩の緊張を解いたのがよく分かった。次いで、その肩は震え始めた。 鼻をすするような素振りが見えたが、少し迷い、銀時は結局黙っていた。 二人はそれから暫く、風の音、互いの呼吸や時折身動ぎする音を聞いて過ごした。 「ん…?あー、お前、また」 銀時が思わず口を開いたのは、隣から煙が流れてきたからだった。 「滅多に無ェ楽しみだ」 「心配してんの」 「っケホ」 「ほら、馬鹿でも風邪引くだろ」 「るせえ。…銀時、てめェ先帰れ」 「寂しくなっちゃう癖に」 「良いから、行けって」 「おかしくない?ここ先に見つけたの銀さ、…?、うぉ!」 「あァ?」 何かに驚いて動きを止めた銀時につられ、高杉も掴みかかる手を下ろした。 見ると、二人のいるほら穴から十米ほど離れた位置に、白鳥の群れが降り立つところだった。 まだ灰色の羽の、若い個体もちらほら見える。 その中の一羽と目が合った気がして、銀時は息を呑んだ。 しかし、それだけだった。 銀時たちを警戒するでもなく、餌をねだって寄って来る様子もない。...

September 29, 2017
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すきま

こっそり抜け駆けでやっている鍛錬から戻って来ると、洗面所で幼馴染達と鉢合わせた。 いつの間に夏は終わったんだろう。 朝の廊下は静かで、きりりと冷えていた。 周りを見回すと他には誰もいない。言うなら今だと思った。 「あのさ」 訝しげな目を向けてくる高杉。それでいて、縋るような色も感じた。 「お前らさあ、結局どうしたいんだよ。一回はっきりさせよ、ほんと。俺も普通に困ったりすんだからさ」 俺だって、普通に苛つきもするのだ。 最近は特にとばっちり感が酷かった。なので思い切ってきつい声を出してみた。 実は僕達ホモくんで、愛し合っていて、付き合ってます。 自信を持って言えない。まだ、それと自覚できない恋心や独占欲の上に成り立つ関係なのは分かっている。俺も同じなのだ。 何時かはしれっと、互いに女の恋人を紹介し合うのかもしれない。 でももう少しだけ、今は。分かってる、分かってるんだ。 「昨夜また聞かれたんだって、辰馬に。他の奴もさあ、モヤモヤはしてると思うよ」 だって声たまに聞こえるもん実際。小声で付け足すと、高杉の肩がびくりと上がった。 「宣言しちゃえば。なあヅラは。…ドヤ顔うぜ」 嬉しそうな顔すんな。どうせ話題にされるのも一興、とでも思ってるんだろう。 「じゃ高杉。…嫌だよねえ」 みるみるうちに仏頂面になり、そっぽを向かれてしまった。 まあそうだわな。ヅラの神経がイカれているのだ。 お前の気持ちは間違っちゃいないと思うよ。 「付き合うも何も。実はいま重要なのは其処では無い。俺はな銀時、苦言を呈したい」 「何よ。てか俺ェ?!何で?!」 「お前の一物が立派すぎて、此奴のケツが少々我儘になってしまったのだ」 黒髪をぱさ、と振って勢い良く高杉は隣のヅラに顔を向けた。 「ヅラっ!」 そう、あの夜はとても善かった。 顔を真っ赤にしてヅラに掴みかかる姿に、俺まで頬が熱くなる。 それなら早く呼んでくれれば良いものを…遠慮してやっていたのに。 手段は変わったが、また三人で楽しめる遊びを知り俺は満足していた。 自分が倒れそうになったらヅラの胸に飛び込めば良いし、愛でたければ高杉を抱き締めれば良い。 あの夜のお陰で、何となくどちらからも決して拒否はされない確信を持っていた。 だから、二人の気持ちを見守るつもりだったのだ。 三人で遊んだ夜の話は、辰馬にはしていなかった。 「晋ちゃん。俺のちんこ、忘れらんなかったの?嬉しいな」 ヅラの襟首を掴んでさっさと場を去ろうとする背中に急いで手を伸ばす。 まともに会話出来る程に機嫌が戻るまでは日が掛かった。 やっと最近また喧嘩するようになった所だ。 俺の言葉に動揺したのか、難なく捕まえられた。 「ね。ヅラじゃ、足りない?」 甘く聞こえるよう精一杯お澄ましして、ゆっくりとその耳に囁く。 「失礼しちゃうわ、全くもう!」 高杉の手が外れて自由になったヅラは、引き摺られ掛けていた姿勢を直し腕組みをした。 言葉とは逆に何故か嬉しそうだ。 「気持ち悪ぃな」 「特に緩んだ訳でも無いがな、以前は俺が入れれば直ぐ蕩けていた奴が一丁前に、倒れなくなった。それなら締めて俺を喜ばせてみろと言えば、それは聞か…っぶ」 ヅラの言葉は、鬼の形相をした高杉の手に塞がれて止まった。 そう怖い顔されてもなあ。色々見ちゃってるから何とも。そりゃヅラの口も止まらんわな。 「笑うな銀時!」 「いてて、ごめんって」 「き、気合入れろっつうなら触るなってんだよ!いつもいつも手が煩え!気が散るんだよ!」 必死に吠える姿がクる。 その頬を両手で包み此方に向かせると驚いた目。間近で見る程に綺麗な顔しやがって。 見慣れているから好きなんだろうか。 俺には美男子の馴染みが二人もいて本当にありがたいことだ。 「ヅラ…もうちょっとさぁ、聞いてやった方が良いんじゃない、色々と」 「高杉にか」 「そうよ。頑張ってはいるんじゃない?一応さ。前までヅラとだけだったでしょ、んで俺としてから、何か変わっちゃったと」 「…その通り」 「やっぱさ、戸惑うもんなんじゃない。もしかしてさ、此奴が慣れない中で頑張ってる所をヅラお前、変なタイミングで急かしたりしてんじゃね?」 「……」 黙る高杉、目を丸くするヅラ。やっぱり。 「なあ。その、また皆でやってみねえ?」 いや邪魔なら別に良いんだけどさ。 ほんとほんと、気にしないで。 「なら俺は銀時にして欲しい」 「え。お、おお」 即答ってお前。今の一言はちょっと勇気が要ったんだぞ。 「ダメだ高杉、お前はまた贅沢になる」 「ヅラてめぇ…!」...

October 25, 2016

仲間でしょうが

正直あいつらが疎ましい。 何くれと高杉に世話を焼く桂も、そんな存在がいかに有難いか分かっているのかいないのか、当たり前に桂の好意を受け取る高杉も。 二人の間には、自分には入り込めない血の繋がりのような何かを感じる時がある。 疎ましい以上に胸にある強い感情、これが何かと言われると難しい。 いま知る中で最も近い言葉で言うなら、羨ましくて、腹立たしかった。 ある晴れた夏の昼下がり、銀時はどうにも落ち着かなくて一人海を見に来た。 カモメに混じって白い鷺が水面すれすれを飛ぶ。 海面から一度離れて浅瀬に立ったと思うと、見ればその嘴には小魚が二匹挟まっていた。 上手く取るもんだ。一度に咥えて欲張りな奴…想像したら喉の奥が苦しくなった。 その夜。 軍議も良い具合にまとまり、その分きっちり疲れもした。のんびり酒でもと桂の部屋を訪れると中から掠れた声が聞こえる。 どきりとして障子に手を掛けたまま耳を澄ませ、ふと理解したのだった。 二人の空気から何となく、全くの寝耳に水という訳でもなかったが、やはり衝撃だ。 いよいよ置き去りではないかと寂しく思う自分と、これは大層面白いと胸を高鳴らせひっそり笑う自分。 何故笑うか? 兄弟の様な結び付きには負けるが、あの二人それぞれから自分に向けられる気持ちも確かに感じているからだ。 桂からは信頼、高杉からは普段の喧嘩腰で隠された羨望。そして淡い恋慕、のような。 それならそれで関わり方を考える余地がある。 能天気で好奇心旺盛で、銀時は十分に健全な少年だった。 桂に教えられた遊びは、正直嫌いじゃない。 ただ余り嵌ってしまうのも恐ろしくて、取り敢えず始めは嫌がって見せることにしている。 先月要所を奪ってからというもの、戦は落ち着いていた。 戦況の好転とは逆に体調を崩して暫く養生していたが、今朝からはすこぶる調子が良い。 そこで幼い子を持つ母親よろしく世話をしてくれた桂に、体慣らしをしたいと嘯き、初めてこちらから誘ったのだ。 驚いた顔をされ、高杉は内心慌てた。昨夜まで病人面の面倒見てやってた奴相手にそんな気分になれってのも酷だよなと苦笑し、冗談で終わらせるつもりだったのだが。 夜になり、軍議に顔を出して必要な事だけ伝えると後は銀時と桂に任せた。 向こうの交渉を待ってる暇があるなら彼処でもう一発やろうぜ。配置は任せる、まとまらなきゃたたき台で良いんだ、出来たら見せてくれ。 今なら勝てると思っていた。押せる時に押さなきゃ駄目なのだ。 広間を出て暫く縁側でぬるい風に当たった後、桂の部屋に勝手に布団を敷いて寝転んだ。 「確かにお前には才があるがな、いつも鬼の言いなりだと皆の肝っ玉は冷えまくりだ。たまにはあのように任せてくれると安心する。…臥せっている間に大人になってしまったか」 やれやれと肩を回しながら桂が部屋に戻ってきた。自分の拙い誘い文句に対し驚いたものの、そうか待っていたぞ、と優しく微笑んでくれた桂が。 「叩くと言っても、交渉はしてみるだろう?その時は頼むぞ、高杉」 「任せとけ」 楽しみだ。笑いを漏らしながら布団の上で膝立ちになり、桂に腕を伸ばした。 屈みこむ桂に抱き締められ、その滑らかな髪にこっそり頬ずりをする。 久しぶりだから、と何時にも増して優しく触れられ焦れた。 座したまま後ろから桂に抱かれ、肌蹴た夜着の隙間からやわやわと唇と指先で撫でられ小さく唸っていた。 裾から脚の間に差し入れられる手が冷たく感じる。太ももをなぞり上げ、やっと褌まで来たと思うと指先でそっとなぞるだけ。 仕方ないから後ろに首を傾けて唇を強請る。そこに桂のものが当たると同時に、褌の結び目が解かれる。やっと。 うっとりと続きを待ち侘びていると急に桂が声を出して驚いた。 「銀時、来ないのか」 「…良いのかよ」 耳を疑ったが、障子の向こうから返ってくるのは確かに銀時の不貞腐れ声だった。 「勿論だとも」 言いながら桂は夜着の中から取り出した手で顔を撫ぜてきた。その流れで髪を整えられ、逆に乱れかけの夜着は襟元を掴み一気に腰まで降ろされる。 いま気付いたが、首元が何箇所か、ちりりと微細に痛むのだった。 障子が開いたと思うと、不機嫌そうな目の銀時が立っていた。 羞恥心から目を逸らすと、彼はふっと笑った、気がした。 廊下の向こうをそっと確認してから障子を閉め、銀時は自分たちに身を寄せてくる。 なあ食える木の実ってこれだっけ、そんな会話をした幼い頃の日のように、ごく自然な仕草だった。 彼を待つ間、桂は高杉にしてやったのとは逆に、自分の夜着の襟元を直していた。そうして美しい髪も、大して乱れてなどいないが手櫛で片方に纏めて流した。 狡い奴。自分は清廉に見せながら、俺を弄ぶ。 お前が大切だと囁く割に、その俺をいつも乱れた存在に見せたがるのだ。 只ならぬ空気が耐えられず、目線を落とし畳のささくれを何となく見つめていた。 すると細い指に顎を掬われ、間近に迫った銀時の顔を見つめる事になる。 「これが自慢の秘蔵っ子って?まだまだお師匠さんには程遠いんじゃねえの」 低く話す銀時の目が冷たく感じて怖い。なに、何の話だ。 「ふ、侮られては困るぞ」 片方は優しく舐めながら、もう片方の乳首は指でぎりりと抓り上げる。 桂の白い手は存外容赦が無い。 暴れようにも、左手は正面に座り直した桂に指と指を絡められ、右手は桂と交代で己の背後にぴたりと張り付いた銀時に強く押さえ込まれている。 「成長したと、きちんと銀時に見せるんだぞ、でないとお前のここは千切り取ってしまうからな」 出来たらご褒美、との言い方も迷ったが、これだけ怯えている高杉は桂にとって珍しかった。 可哀想に。憐れみながらもぐしゃぐしゃに虐めたくて、胸が高鳴る。 微かに首を上げ、怯えた上目遣いでこちらを伺われると堪らない。 桂はさっと真横に伸ばした腕を振り、高杉の頬を掌で叩いた。ぱん、と良い音がした。 「早くしろ高杉。悪い子だ、それでは大きくなれん」 涙で滲んだ両目が見開かれる。ああまた、そんな目を俺に向けるな。 奥歯の向こうで唾液がきゅうっと溢れて、背中で髄液が沸き立つのが分かる。 自分の美しさが最大限に引き出せる様に、桂はゆっくりと笑いかけた。...

September 25, 2016

奇襲作戦の成功を祝い!と皆でガンガン飲んで自室に戻ったらそのまま寝落ち。したのだろう。 これまたアルコールの所為で夜中に変に覚醒して目覚めた。 口塩梅が悪く、洗面所で蛇口から水をたらふく飲みそのまま顔を洗った。着物の胸が濡れて面倒だ。どうせならと浴室へ。 ふらふらながらもきちんと体は洗えたらしい。記憶に無いが体からは一応の清潔さを感じた。いや、確かに洗った…よな。浴室のオレンジ色の光の中、何か歌を歌いながら頭を下手くそにごしゃごしゃやる自分の指の記憶がある様な。 桂のせいで、風呂ではよく後ろを洗う癖が付いた。 日々の調教のお陰でと言うのも変な話だが、いくら「お前なら何でも良い」等と言われようが無理矢理だろうが、汚い状態の自分の体など触られたくない。何より自分が嫌だ。 そうやって身についた入浴癖を発揮した後、大人しく部屋に戻り安心して眠っていたらしい。 問題は更にその後。 隊士達と盛り上がる高杉を遠巻きに見て気を揉むも、事情を知るだけに黙っているしかできない。 今夜は好きにやらせようと苦笑で己を抑えていた桂の気持ちなど、心配される当人は知る由も無かった。 宴もお開きになり、姿が見えず何処ぞで誰かに醜態を晒してはいまいかと心配して部屋を覗いてみれば、高杉は気持ち良さそうに眠っていて拍子抜けした。 意外に利口だったな偉いぞ、と1人微笑んで目元にキスをした。 脱いで途中まで畳んだものの酔いに負けたのか、崩れた服の山。 着ている浴衣は肌蹴て胸元の筋肉が覗く。顔を寄せると石鹸の香りがした。 む…。こんなに無防備に潰れる癖に風呂?一体どこでナニをして来たと言うんだ。桂は眉根を寄せる。 眠る高杉は、お前の調教の賜物だよとも答えられない。半開きの赤い唇をなぞり、首筋にぺたりと手を置いた。 高杉は幸せそうに熟睡したまま。首の皮膚は熱くて柔らかい。 「ん…」 微かに指先を立てすぅとなぞると鳴かれた。 少し尻込みして手を止め、恐る恐る顔を覗き込むと眉間は安らかだ。こういう時、眉間に皺が寄っていると彼は起きてしまう。 いつもこう素直に酔い潰れてくれるならありがたいんだがな。 好奇心を止められず、慎重に腰骨へ手を伸ばす。そおっと、ぺたり。 股関節に手を置くと、浴衣の生地1枚の向こうは何と素肌のようだ。 お前はすぐ風邪をひくから気を付けろとあれ程…嘆息してしまう。 股関節の窪みに沿って人差し指を滑らせるとまた小さく鳴いた。それでも無防備なもので、顔は変わらず夢の中。 幸せそうな寝顔を晒しおって。この呑気な眠り姫を如何してやろうか。桂の中でむくむくと悪巧みが育った。 すすすと浴衣の裾の割れ目を広げると予想通りに真っさらな身体が現れる。 中をこんなに解放していたら、俺は落ち着かなくて眠れないと思うのだが。 ひんやりとした夜気に晒され、おかしいとは感じないのだろうか。その体は控え目ながらも大の字を描いているので全てが丸見えだ。 流石に寝込みに手を下す予定は無かったが、一応の準備物は持ってきて正解だった。 よし。人は就寝中でも皮膚感覚を拾えるか?桂くんの特別実験を始めようと思う。 小瓶を開け、薄荷の香りの軟膏を指先ですくった。ふにゃりとこちらもお休み中の物を反対の手で固定し裏側に塗る。 大切な場所にこんな刺激物を塗られたら痛くはないだろうか。すぐかぶれるとか腫れるとか…うむ、そういった事はこいつには無かったな、なら大丈夫。 様子を伺うと、まだ高杉の眉間は平和である。ならばと自身も布団にうつ伏せ、高杉の物をそっと持ち上げ奥を覗き込む。 そうだ、穴に塗って勝手に解しておいてやろうか。しかしそうするにはもう少々大胆に大の字になっていて欲しかった。 弾力ある高級つやつや肉でちょっと…見えないな。これを掻き分けるのはリスキーである。 仕方ないから起き上がり、取り敢えず陰茎との間につつぅと塗った。 ひと塗り、起きない。鈍感すぎる。…いや皮膚感覚がねんねなのか。 「ふぇ…?」 身じろぎした高杉の目が細く開いた。まずい、実験は中止とする。 「…んだよォ…」 煩そうに呟き、腕で目元を隠してしまう。 分かってる?ねえ高杉くん、おっ広げなの分かってる?まあ俺にはそれこそ好都合だがな。お説教モードに切り替えるとする。 「酔っ払いも程々にしろ見苦しい。ノーパンもやめろ。いやお前はノーフンか」 スースーする大切な場所より何より桂の小言から逃れたくて仕方ないので、高杉は「るせっ…」と悪態をついた。正直、それだけでも億劫だった。 安眠妨害反対。背中で大いに語りつつ寝返りを打ち、手探りで捕まえた布団を被って再び目を閉じてしまう。 手持ち無沙汰に布団の膨らみを見つめた後、桂はにやついた。 どれ可哀相だから少し寝かせるか。その間に俺も湯を頂いて来よう。 高杉の私室を出て静かに襖を閉めると浴場に向かった。これは色良い実験結果が出た。 誰だって、どうしても今したいという時はあるだろう?俺にはよくある。 そしてそんな時に限って満足な返事を貰った試しが無いのだ。 晋助どうだ、俺は眠い軟膏無いだろまた今度。 そう無下に振られる対策が見つかったという訳だ。 無人の浴場を独り占めして体を洗いながらウキウキしてしまう。ヘアケアも忘れない。 あの様子なら今夜はイケるな。 他所でみっともない姿を晒した罰だとか何とか、付け入る隙は大いにある。 あまり力は残っていないようだったが何をするか分からない獣だからな。縛る物はあったろうか。 浴場を出て一度自室に戻ると高杉が悦びそうな品々を適当に見繕い、嬉々と彼の部屋に向かった。 次に起こせば間違いなくむすくれるから、部屋に着いたらすぐ腕は封じてやろう。いやそれとも…。 そおっと襖を開けると先ほど被った筈の布団は押しやられ、ぱちりと開いた目が薄明かりを受け光っている。幼い頃のように甘えを潜ませた目だ。 「ヅラぁ、眠れねぇ。あ、暑いんだ」 ピンと来て、これはしめたと心の中でほくそ笑む。 「…そうかと思ってな。いつもいつもお前は飲み過ぎだぞ、みっともない。添い寝してやるから大人しく寝ろ」 しれっと隣に横になり浴衣を優しく直してやる。道具はまとめて風呂敷に包んで来て良かった。 とは言えこちらも企みを悟られない様に実は必死である。 自分の体ごと被せてやった布団の上からぽん…ぽんと腹の少し下辺りをゆっくり叩く。勿論わざとだ。 「何かしただろ」 闇の中で高杉がこちらを向くのが分かる。 「…寝なさい」 手を止め、桂は天井に顔を向け真っ直ぐ伸びた。本当に寝そうになってくる。...

August 1, 2016