定期報告 - milk

中に力を入れると自分に跳ね返る刺激も強い。 自然と中がきゅうと締まり良い所に当たるがそれでも微妙に足りなくて、次第に自分で動いてしまう。 「んっ、銀、良いだろ…?」 締める、動く、すると更に締まる。快感も強くなるので己の首を締める事になるが止められない。中身を吸い上げる感覚で、こめかみにうっすら冷や汗を感じながら下の穴周辺に力を入れる。 高杉は、足りない快感が我慢出来ない癖に時折こうして頑張る。ひっそり眉を顰める銀時を見つめ優越感に浸るのが大好きだからだ。 馬にされている方は、下の感覚はもちろんだが視覚的にも堪らない。 「し、しん…高杉。頑張ってゴシゴシしてるのかわい…はは」 必死に笑ってごまかす。 こういう時にしか下の名前を呼べないのに、何となく最初は口に出すのを躊躇してしまう。自分の脇腹あたりを掴んで恥ずかしそうに下を向きながら頑張る高杉。次第に動きが激しくなるにつれ任せっ放しも可哀想になってくる。感じているのを隠せない姿がいじらしい。 「し、晋助っ。ゴメンね、銀さん動くからっ。お願いもう無理、やらせてっ、ねっ」 「おま、今日は動きたくないっつったろ!黙って、んっ、任せとけ、って…あ、ダメぇ!」 それでもあっという間にナチュラルな攻守交代成功。腰を押さえ引き寄せて、強く突き上げてやると細い体はすぐダレて覆い被さってくる。 任せろと意気込んだ癖に一気にこのザマだ。基本的に一度入れてしまうと一気にゴロニャン…と蕩けてしまうのが毎度毎度ちょっと可愛い。どうにかこうにかカワイイ穴に何かしら、そう、指一本で良いので突っ込んでしまえばこちらのものなのだ。そう弱みを握られているのは分かっているのだろうか。 願わくば、他所では文字通り指一本触らせないで欲しい。 「おい晋助サボんな。銀さんも少しは頑張るから。ねぇ、任せろって言ったのは誰だっけぇ」 …いやいや実は良いんですけどね、全然。 今夜は夜更けに万事屋を訪ねてきた高杉くんを元気に迎え撃ち、してやりたかったが銀さんも気ままに1人ふらりと飲んで帰りたい夜もあるのでね。 小雨の中をほろ酔いで帰宅したお陰で爆発した自慢のシルバーヘアと冷えた足にうんざりしてシャワーを浴び、体を拭っていたら予告なしの侵入者。 ガラガラと、平然と戸を開け高杉が入ってきたのだった。 驚いて浴室からそろりと玄関を覗き、胸を撫で下ろした。ああそういや合鍵。渡したっけ。 「おかえり高杉くん」 「お邪魔」 「そこはただいまって言えや馬鹿」 「…一戦どうだ」 「直球ですね?高杉くん発情期すぎるだろ。銀さん今夜はもう無理。腰も何も動きたくないんです。朝しよ、朝」 「…フン」 苦笑しながらも特に怒りもせず、俺と入れ替わりに浴室に入っていった。今夜は神楽が志村家で良かった。 グラス1杯のいちご牛乳を飲み、歯を磨いて布団に潜り込む。遅えなアイツ。期待してしまう自分に少しイラッとする。 たまには俺も活字を読む。何やかんやで高杉の風呂あがりを待つ形で、枕元のジャスタウェイを点灯させて週刊誌を読んでいた。その内ウトウトしてきて… 「書を読めよ」 布団越しに乗り上げて来た高杉の、耳元に響く甘い声に起こされ今に至る。 「あらぁ?まさかね、高杉くん降参かしら。あらぁ、残念だわぁ」 少し挑発した方が頑張ってくれると踏んでやってみる。するときちんと打ち返してくれるのが、幼馴染を兼ねた恋人と言うもののメリットである。 「ペラペラペラペラと、ふ、ッるせぇな…」 俺の腹に突っ伏していた高杉は少し上体を上げ顔を寄せてきた。目が潤んでいる。 待ってましたと俺は唇を少し尖らせた。よく下手だと文句を言われるので今日こそは見てやがれ俺の超絶エロテク舌さばきで蕩けるが良いわァ!と口には出さず、しかし無意識にペロリと唇を湿らせ瞬時に準備態勢をしていたのに…顔をずらされた。あぁそうですか。ちょっと恥ずかしい。 去った黒髪は俺の胸元へ下がっていった。 「おまえ、乳毛も白いよな。そして長い。ピロピロしてる…」 言いながら猫のように胸を舐めてくる高杉。んぁ、雄っぱい気持ち良い。ありがとうそれだよそれ、と頭を撫でてやる。 「じゃりじゃりする。処理しないのかよ…」 軽いストロークで腰を動かしながらしっかり文句を垂れるのも忘れない。 俺のものにコメントを垂れるという事は、他の案件も知ってる疑惑じゃねぇか馬鹿。つまり、処理してるような奴やなんかと。 大人しく部屋で飼われているような奴じゃないと分かっていても、こうして時々仄暗い独占欲を掘り起こさせられるのが、一丁前に、時々かなしい。 だからと言ってどうも出来ないし、こんな気持も一種のスパイスだったりするので今夜も取り敢えずスルーだ。それでもいつかは泣かせなきゃいけない。ああ字が違うか、鳴かせなきゃ、泣き叫ばさなきゃぁ。 縛る。監禁。ううん。…しかし結局、もろもろ面倒くさいってのが、ほんとの本音。 「…ん、感じてやがる、クク。色は綺麗でもちゃんと男の乳毛なんだよなァ」 高杉はよく銀時の乳首も吸ってやるが、実は吸いすぎると毛が喉まで来てたまに引き攣る。 万斉は眉毛を整えるついでに毛抜きで抜いてたが、あれはお洒落なんだろうか。自分や銀時より少しだけ年若いから、その分感覚も変わるんだろうか、なんて考える。 「そんなに銀さんの可愛い乳毛がお気に召しませんか、ハイハイごめんなさいね」 小さく口を尖らせる銀時。 「んなこた無えよ。可愛いさ。(ウェッてなるけどな、たまに。)」ウェッて。 「…何か言った?」 「いや別に」 睦言の最中での大変失礼な思案を悟られないよう、高杉は唇を右から左へと滑らせ、まだ乾いている方も舐めてやる。既にウェッ…トにした方を親指の腹でゆっくり押し潰しながら撫で回してやると、銀時は首を反らせて溜息をついた。 その表情に満足しつつ、自分もじっとしているのが次第に辛くなってきて、高杉の腰も次第にゆっくり円を描いた。 …我慢出来ない癖に銀さんを焦らすんだから。さてさて、雄っぱい責めに関しては、今夜は及第点にしておきましょうね。 今度はもっと頑張りましょう、にっこり。不謹慎だが、松陽先生の優しい笑顔を思い出す。 高杉をこっそり見つめると、人の乳首を舐めながら時々こっそり舌を出してペッとしていた。その姿が嫌いな餌を出された小動物みたいで笑う。 見ると、確かに自分の乳首の周りには毛がぴろりと伸びている。そろそろ切るか…。因みに高杉の乳毛はどうだったかしらん。 名残惜しいが自分の胸から晋助の頭を優しく引き剥がす。両耳の後ろに掌を当てて顔を上げさせると、目は閉じていた。 「ふは」 息をつく唇からペロと一度小さく舌が出入りして、ムラムラした。 「はい、高杉くん。検診ですよぉ」 脇腹を掴んで体を起こさせると乳毛は無い。いや待てよとよく見ると少しは生えていた。と言っても銀時の乳毛とは材質が違ってふわふわだ。 ホヤホヤ系、産毛って奴だろうか。そう言えばそうだったかも知れない、と言うか彼の乳毛にいま気付く。そもそもこれは本当に乳毛なのか? 自分のものの材質的に、てっきり男には二次性徴で乳毛が生えてくるかと思ってたよ。さてはこいつ二次性徴不完全か。はだけ杉で乳首冷やし杉だからか。 ぷっ。んな事あるか? 唇で優しく高杉の乳首を擦る。触れるか触れないかの距離で小刻みに左右に顔を動かすと感じるようで、くすぐったそうに首をすくめる姿にキュンとした。 乳首の上で唇を左右に動かすのと同じゆっくりしたスピードで、腰も撫でる。 ちょうど腰骨の真ん中辺り、少し体温が高い窪み。そこを通る時に指でフェザータッチ。コレ良いだろ。銀さん分かってるよ、本当はもっと酷くして欲しいんだろ。...

August 7, 2016

若いと色々

万斉とまた子が引っ付いたようだ。 2人共、別段その前後で働きが落ちたでも無いから良しとして、高杉は見て見ぬふりを決め込んでいた。 言いたきゃそうしてくれれば良いし、もちろん言ってくれるなら喜んで祝福もしてやろう。 ただ面倒事だけは勘弁だと薄っすら思った。 もし今後の2人に何かあって喧嘩別れでもして隊内の雰囲気が悪くなったら…どちらかが隊を抜けると言い出したら…。 はたまたずっと仲睦まじくやってくれたとして、子供が出来たらまた子はすぐ休ませるべきだろう、無事に子育てが終わったら隊に戻ってくれるだろうか…。 ま、その時に考えりゃあ良いか。 過激派攘夷党の大将とは思えない程の高杉の意外な親心やおせっかいを知ってか知らずか、それなりに2人の仲は良く続いているようであった。 春の日に鬼兵隊の皆で花見をした。その頃には隊内でも何となく全員が察しており、ほとんど公認の空気になっていた。 高杉も初めに感じていた心配事などすっかり忘れ、手際よく準備をしてくれる2人を満足そうに見やったりしていた。 「少し酔っちまった」 人の輪から外れて寝転び、空を見上げこっそり夜桜を楽しんでいると、心配した2人がやってきて代わる代わる高杉を覗き込む。 大丈夫大丈夫、歩いて帰れるから迷惑かけねぇよ。そうだな、ちょっと水くれよ。 ふわりと舞い落ちる桜の花びらを前髪に受けながら赤い顔で微笑う高杉を、万斉とまた子は困ったように笑って見つめ返した。 この時の2人の目に欲が薄っすらと灯った事に、本人は全く気付かないのであった。 高杉は、以前は若気の至りか万斉に時々抱かれていたが流石にもうないだろうと一種の安堵を持って桂との逢瀬を楽しむ日々だった。 だが花見の夜から後、万斉は逢瀬帰りの高杉を良しとせず、また思い出したように高杉の部屋に来るようになった。 最初は戸惑ったが、どこか必死な様子で一晩に何度も強請ってくる万斉の姿を見るとつい許してしまう。 事実とは的外れな楽観さや優しさでもって受け入れてしまうのが高杉という男の意外な性質である。 些細な喧嘩でもしたのだろうか、仕事の憂さ晴らしだろうか、こんな無体を強いたい事も…男だしなァ、あるかもなァ、俺を身代わりとはいい度胸だぜ…しかし来島にこんな事されちゃ困るなァ。 俺で我慢しようってんなら、まぁ、仕方無ぇかなァ…。 茶屋で抱き合い別れたものの蕎麦で一杯をやりたくなったので、桂は家路の途中で方向を変え、高杉の船を訪ねた。 派は違えどお宅の高杉くんとはプライベートでは熱い思い出ほとばしる旧友の桂だ、と伝えると、門番は興味深そうに高杉の私室前に通してくれた。 しかし彼は襖に一度手をかけたものの一瞬動きを止めて不快そうな顔をした、ように見えた。 不思議に思いその様子を見つめていた桂を振り返ると、今は開けないほうが良いかも知れません、と早口で囁いた。 後は桂をそこに残したまま、彼は去ってしまったのだった。 逢瀬から船に戻った高杉が呑気に私室で煙管をふかしていると、久しぶりに万斉がやって来た。今日はもう疲れた、とやんわり伝えたものの万斉は引かない。 仕方ないから、早く終わってくれよと願いつつ「一回だけ、な」と受け入れてやった。 そんな夜に限ってだ。 最中にまた子が高杉の部屋を開けてしまったのだ。悲しい顔はさせたくなかったのに。妹分どころか娘みたいに思っていたのに。 ここに来てやっと事の重大さを感じ、己の楽観さに深く後悔した。 見るな、すまねェ…うわ言のように繰り返す高杉をよそに万斉は手を離さなかった。 「また子、いらっしゃいでござる。今夜こそ手伝ってみるか」 後ろから万斉にホールドされたまま、その言葉の衝撃のせいで何も行動を起こせなかった。 その間に襖を閉めて部屋に入ってきたまた子は頬を赤らめ高杉の正面に跪き、細い指を伸ばしてきた。 「な、ダメだ来島、悪かった、俺が。俺が、万斉を唆したんだ。それだけだ、もうしねぇ。信じてくれ」 辛うじて動く右手で小さな金髪頭を押しのけようとすると後ろの万斉に腰を深く抑え込まれて脱力した。そんな高杉にまた子は小さく微笑む。 「お目めが赤いっス、晋助様。大丈夫、また子しっかり練習したし、もうハタチなので本当に大人ッス。お願いです、一回だけで良いからさせてください」 「…っく。お、お前は自分の女に何をさせようとしてんだ。止めろ、止めさせろ、馬鹿、ばか」 自分を捉える非情な部下を振り返り、震える声で訴えるもサングラスの奥の瞳はらんらんと輝いている。 「晋助、拙者の大事なまた子の夢を叶えてやってくれ。お願いだ。ついでに拙者も物凄く興奮してるでござる」 こんなにぞっとする笑顔を見たのは初めてだ。絶句。頭おかしいんじゃないのか。怖い。若い奴って怖い。 パニックに陥る高杉をよそに、また子は小さな舌で高杉の中心を舐めた。びくりと腰が震える。こめかみと脇の下から冷や汗がだらだらと流れて来るのを感じる。後ろめたさで消え入りたかった。後ろから万斉の息が耳にかかってぞわりとする。かかったんじゃない、明らかな意図を持って注ぎ込まれたのだ。 「晋助…拙者のまた子は、可愛いだろう…?」 万斉は少しずつ腰を揺らし、頸動脈に沿って強く舌を這わせる。 その間にもまた子の舌はたどたどしくも全体を濡らし続け、遂に口の中にすっぽりと収めてしまった。 「離せ来島…ん、あっ。ふぁ…んん。っく…」 苦しそうだ、小さな口にそんなもの入れることないのに。可哀想に。ぼんやり思ったが体は言うことを聞かず、万斉の熱い舌の動きと、体の中心に収まりゆっくりと上下に動かされるものに対して素直に喘ぎ声を返すしか出来なかった。 酷い顔をしていることだろう。自然と目頭から流れるものを感じる。ついでに鼻からも少し。あぁ喉が、乾いた…。 このまま眠ってしまいたかったが、若い2人はまだまだ許してくれない。 「また子、そろそろしてみるか?」 万斉が低く囁くと、こくりと縦に揺れる金髪頭。働かない頭がそれでも何かを察して、高杉の目からいよいよ大粒の涙が流れ落ちた。 はにかみながら順にするりと着物を床に落とし、うっとりとした目で高杉を見つめながら腰を落としてくるまた子。 頬に白い両手を当てがい柔らかく口づけを一つ。いつの間にこんなに大人になってしまったのだろう。 どきりとするほど一丁前に大人の女の顔をして、自分の体に高杉のものをあてがい、飲み込んでいった。少女の体の中は熱く、キュッと良い締まりだった。 いよいよ言葉を失う高杉の胸元に万斉の手が伸び、両方の乳首をくすぐった。と思うと強めに指の腹で潰してくる。体の芯が震える。震えると体の中の万斉のものが弱い所に当たって更に強い震えを連れてくる。 「ん、晋助、様ァっ」 ぎこちないながらも自分で腰を上下に動かす姿がいじらしくて、あんなにいけないと思っていたのに、見つめてしまう。また子のテンポが早くなるにつれ、後ろの万斉もそれに合わせて下から突き上げてくる。 もう気持ちの良さは認めざるを得ない状況で、そう思う自分が浅ましくて。たくさんのピンに当って跳ね返って、いつまでもゴール出来ないピンボールのような気分だった。目の前がまた涙で滲んで、頭がくらくらした。 「そこまでだ」 突然、聴き馴染んだ凛とした声とともに襖がスパンと開けられる。 「貴様ら、何と破廉恥な。己が身の罪深さを知るが良い。行くぞ晋助、今夜は俺の部屋に来るんだ」 高杉は、少しずつ焦点が合ってきた目線の先に立つ桂の姿にいよいよ絶句した。 すかさずまた子が冷静さを手繰り寄せ、顔を上げて言い返す。 「…桂ァ。アタシ知ってたっス。喜んで聞いてたくせに。どうせ興奮してたんじゃないッスか」 顔から火が出るとはこのことだ。まさか襖の向こうで聞いていたのか?高杉は先程までの体の奥からの震えに加え、精神的に膝がガクガクしだすのを感じた。桂は無言でずんずんと目の前に進んでくる。こんな時でも姿勢が良い…。 また子を押しやり、高杉の前を陣取ってどすりと珍しくあぐらをかいた。全員が息を飲む中、当たり前のように高杉に口付けた。 それをしながら、高杉を挟み向かい合う万斉に向けてしてやったり顔を食らわせる。面白くない万斉はお前で終わらせるかと、再び腰を動かし始めた。桂も負けじと高杉の中心をしっかり握ると上下に擦りだす。舌を押し入れて文句も塞ぎ、あっという間にいかせてしまった。 「ヅラ、んむぅ。…は、や、いやだ…っん、むっ」 訳も分からないまま達し、恥ずかしいやら疲労困憊やらでとうとう高杉は気を失った。それを確認してから手早く後始末を行い浴衣を着せると、桂は高杉を背負って部屋を出て行った。毒にも薬にもならない捨て台詞を残して。...

August 7, 2016

咲かす梅

悪いな兄ちゃん、いつもバカの世話して貰っちゃって。 最近、時々そんな想いで高杉の褌に女物の香水をかけている。 高杉が万事屋から帰る朝。いつも身支度の前にシャワーを浴びるので、その隙にサっと拝借し内側にひと吹き。窓を開けて外の空気に軽く泳がせてから脱衣所に戻す。 風呂上り一番に身に着ける物に関しては、確かに嗅覚は上手く働かないかも知れない。 本人は気付かぬままにそれを身に付け出て行く。 短く別れを告げた後は、振り返らずに真っ直ぐ去って行く後ろ姿を見るのが無性に寂しい事がある。 奴の帰る場所は何やかんやで俺の懐、との自負はある。一応、いや当たり前だ。その筈なんだが。 そろそろ反撃してみても良いだろうと思っていた。 長らく俺は面白がりすぎた。 スパイスなんぞ無くとも愛しい事に変わりはない。 直近の逢瀬で数度試してはみたが、残念ながら状況はさほど変わらない様に思っていた。 今度の様子次第で次の手を考えよう。長期戦も辞さねえぞ俺は。と言ったところで具体案は特に無し…。 万事屋の社長椅子で1人、銀時が腕組みで難しい顔をしている頃。 高杉は真っ直ぐ船への帰路を歩いていた。これは彼にしては珍しい行動だった。 万事屋からの帰りは何となく物寂しくて、橋の上やら港場やらで一度のんびり煙管を蒸すのが常だが。 どうも最近、銀時の目が暗く光るように感じる。 「ほ。良い鈴を貰って帰ってきたものだな」 船に帰ると万斉の皮肉に迎え入れられた。何か具体的な物を指したのかと後ろめたい気がしたが、その筈はない。 風呂上がりにきちんと鏡で体を確認してきたのだ。何か、例えば赤い口吸いの跡なんかが残っているとしたら銀時の筈だ。 昨夜は大分ゆっくりとしたから、途中から意識は朦朧としていた。すぐ目の前にある肩口に唇を寄せた、と思う。しなやかに温い肌の感触は覚えている。 万斉の言葉は全て察した上での揶揄いだろうと思った。 笑って「本体が一級品だからな」と返し、彼の横を通り過ぎて自室に戻った。 隊内はちょうど朝食が済んだ後のようで、これから皆が動き出す活気があった。 「お前、仕事は」 「今日はあちらもこちらもオフでござる」 内心面倒に感じながらも自室を訪ねてきた万斉の相手をする。少し休んだら書を読みたかった。一人になりたかったのだ。 そろそろ本気で追い出すか、と膝上で甘える男をどかそうとしたら、何処からか甘い香りが漂った。 「万斉、香でも焚いたか?」 「…それはお主でござろう。ふむ、こうして嗅いでみると、首も、ふん、着物も、よく分からんが。ほ、腰から甘い香りがするような。 一体何の交渉だったのやら。花街にでも寄ってきたか?両刀と言うのは楽しみも倍で羨ましいものだ。この放蕩猫が」 随分な言い草だと思った。文句を言える身でもないのは重々承知だが、苛々した。 「偉そうな口を利くじゃねえか、え?」 穏やかに見下ろす姿勢から一変、その襟首を掴んで畳に押し付ける。睨み付けたが万斉はどこ吹く風。 「気付いていないのはお主だけでござる」 諭すように語り掛ける顔は笑っていたが、寂しげだった。思わず高杉は手を緩めた。 「そろそろ白夜叉の心を汲んでやれ」 起き上がり、万斉は両手で高杉の頬をそっと包んだ。額、包帯の無い方の裸の瞼、目尻、顎、口の端、と順に口付けを続け、迷ったがもう唇にはしなかった。 「何の話だ」 高杉には珍しく、本当に戸惑った顔を見せた。 「本当に気付いておらなんだか」 万斉が吹き出した。 「白夜叉のところから帰ってくるとすぐ分かるでござる。洗濯でもして貰って来るのか?その香りは洗剤か?お主、拙者は知らぬ甘い香りを纏っているぞ。 …今度奴に聞いてみると良い。拙者への言伝だというのは薄々感じていたが、何を使われているのやら。 それにしても今朝はよく香る。飼い主の顔がそこに見えるようだぞ」 思ってもみなかった事だ。万斉は本当に可笑しそうだった。 「本当は迷っていただろう。安心しろ、元より拙者は、お主の魂に惚れた身でござる。最後まで付いて行く。 …例えこれがあっても無くてもな」 笑って唇をとん、と長い指で叩かれた。 「それに、拙者も晋助から一人立ちせねばな」 目の前が真っ暗になった。最後まで付いて、なんて大嘘ではないか。それは、つまり。 「いやいや違うでござる。晋助には拙者の他にも優秀な部下がおろう。その、なんだ、今更隊内恋愛を禁ずるなど、ないだろう?大将」 はたと合点がいった。こいつも大概悪い男じゃねえか、笑ってしまう。 「仲良くしろよ」 立ち上がり、部屋を出かけた時。 「晋助、これを」 桐の小箱を差し出された。何だと思いながら受け取り、蓋を開けてみると中には青地焼の陶器の平たい壺。 更に陶器の小さな蓋をずらすと、高杉の好きな花の香りの、練り香水だった。 「誰と過ごすのかは知らんが。お主、誕生日は約束があるのでは?少し早いが拙者からの祝いだ」 あくる日。どう嗅ぎ付けたのか、「最近は物騒でござる」等と言って、どうしても供をさせろと聞かない。 仕方無しに万斉を連れてぶらぶらと船を出、夕暮れのかぶき町のはずれを歩いた。 夜、万事屋を訪ねようと思っていた日だった。 夏の夕暮れは如何にも平和で気怠い。 いよいよ上手いこと万斉を撒きたい、と焦れていた。 「おや、良い骨董屋でござる」 「刀の柄がシック」、などと肩を抱いて店の陰に引かれた。 万斉…もう良いだろう。獲物なら行きつけの店があるんじゃねえのか。 言いかけて隣の顔を覗き込むと口元が愉快そうだった。 全く何だってんだ、と溜息をついて顔を上げる。 と、後ろに立っている銀髪の男と、店のガラス越しに目が合った。 「銀時」...

August 2, 2016

ラブキャッスル

ラブホが好きだ。あれは純粋に楽しい場所だと思う。 だって何と言うか、きらきらしい。非日常で、夢の城みたいだ。 随分お高くついてしまうのが難点ではあるが。 ウキウキしたいってんなら、ナイトなんちゃらみたいな区分でも狙って遊園地…流石にそういう話ではないのである。 やりたいのはそれはそうなんだけど、だからね、普通に心踊る何かがあるよね。 ひと気のない公園、神妙な表情でブランコに揺られる男が一人。 日が随分短くなった。辺りはうす青いが、時計の文字盤が指す時刻はまだ五時前だ。 つい先程、倍にしようとしたものがゼロになった。 銀時は、ぼんやり現実逃避をしていた。 だから後ろから頭をわし掴みにされても、圧に従い大人しく下を向くだけだった。 「よお」 「ごめんね…」 後ろから吹き付けてくる木枯らしに乗り、紫煙がほんのり香った。 何がごめんって、いつでも来いと言ってはいるが、実際いつでも準備万端とは限らない。 今日だって、そうだ。 「先のひと月は、もうしねえな」 「ん」 「守れるな」 「っせえ、…はいしません」 頭上の重みがすっと離れていった。 煙の混じらない純粋なため息が聞こえた気がして顔を上げると、唐草模様の背中が公園の出口に向かい小さくなっていくところだった。 「ちょちょちょ待て!もうしませんー!っおい!」 行こうと宣言がある訳でもなかったが来るなとも言われない。 はじめ銀時の斜め前にあった肩は、いつの間にか隣で揺れていた。 銀時が気まぐれに指した道が、そのまま進行方向に採用されたりもした。 だが途中から「やめとけ」が多くなった。 どうやら、それなりに目的地もあるらしい。 「銀時、行くぞ」 「ご宿泊六千円からってさ」 「そろそろお前に出して貰っても良いな」 「いいえ見てただけです」 「そんなに行きたいか」 「いや…」 そう聞かれると返答に困る。正確には、同じく行きたいと言ってくれる相手と行きたい。 「高杉くんは興味ないの」 「ふた月お前が無駄遣いしなかったら、興味が湧くな」 「そですか」 空は濃紺にきっちり染まり、銀時の目を引くネオンが輝き始めていた。 しかし、一文無しに発言権は与えられないのであった。 そうして二人がラストオーダーぎりぎりに滑り込んだのは、老舗の団子屋だった。 二人掛けテーブルに着き、こしあんの掛かった柔らかい団子を銀時だけが頬張る。 銀時の知る団子とは次元が違う。何と言うか、あんこが、物凄く滑らかだ。 向かいには湯気の上がる分厚い湯呑みだけ。白い手が持ち上げ、ぼってりと分厚い縁を紅い唇が包み込む。 妙に美味そうだった。団子には熱い茶が一番ですなあ。 自分の目の前にも同じ湯呑みがあるのをすっかり忘れ、銀時は物欲しそうな顔をしてしまった。 「ひと月も我慢できるのか」 「にゃにが」 「お前、他の楽しみは」 「…ラブホ行きたい」 「やめとけ」 「っぐ、む、…っっは」 すっと差し出される湯呑みを受け取り、喉に流し込む。同じものがこっちにもあるのに。当たり前のように。 「ッアツー!!!!」 「悪い」 「っはあ、あ。何が?やめとけって、おかしいでしょ。何が悪いか考えてねえだろ!」 俺も考えてないけど。無性におかしくて、くつくつ笑いが込み上げる。 ふん、と高杉も笑った。 「まあ…うん。だって銀さん別に宇宙行きまくったりしないしね。もともと刺激は要らねえんだよ。ないならないで構わねえのさ」 「玉転がるの見てて何が楽しいんだか、分からねえな」 刺激、とかちょっと格好いい話ふうに持っていこうとしたが上手くいかなかった。 もうこの話は止めにして貰いたい。 「他の刺激はどうだ」 「え、いや、お気遣いなく」 「非日常は好きだろう」 優しい声を出すなあ、と思った。 ただ、「妙に」と捉える頭がすっぽり抜けていたのだ。 翌朝は、すこーんと高い冬晴だった。 港に停泊する怪しげな巨大船の前に、銀時は一人で立っていた。 「っすう。障子の張替えで伺いましたっす」 意を決し、入り口に立つ見張りに名刺を差し出す。まだ若い、恐らく二十歳前後の男だ。りんごのような頬をしている。...

犬派が立つ説

犬猫どちらが好きか。 当たり障りのない会話の常套手段だろう。 桂率いる攘夷党でもご多分に漏れず持ち出され、そこそこの盛り上がりを見せてくれる話題となった。 新しい面子が増え、今夜は歓迎会が開かれた。 「して、シバ田さんはどちらか?」 「私は…やっぱり犬派ですかねえ」 「そうか。エリザベス派が少なくて寂しいですよ俺は」 「エリザベス?」 「頭に入れておくように。そう言えば、猫派の方がビジネスに強い、なんてどこかで聞いたが、シバ田さんの意見や如何に」 「如何に、と言われましても。そんな話あるんですか?いや、やっぱ犬は可愛いですよ。遊ぼう?仲良くしよう?って顔してきますもん」 「ああ、確かに」 「どうですかね、振り回されるのが楽しめるっていうか、そんな感じが、猫派は仕事に、みたいな話なんじゃないですか?」 「むむう、確かに」 「桂さん、飽きてます?」 「俺はエリザベス派なんだ」 「……」 「では諸君、改めて乾杯だ!桂一派へようこそ!」 「「「シバ田さん、ようこそー!」」」 「よろしくお願いシマス…」 その後、数人ずつ宵闇に紛れての解散となった。 二次会に向かう者は、店を決めてから別の道を行くことになる。 桂は、ではよろしくとエリザベスに任せて皆と別れた。 ろくろく人の話も聞かない男なのに何を以て判断するのかと周囲は頭を捻るが、そうやって迎え入れられた人間は不思議と「仲間」になってくれる。 新しいシバ田さんも、いつの間にか桂一派のかけがえのない一人になっていることだろう。 月の明るい夜だ。 良い人が来てくれた、と桂は道々ひとり上機嫌だ。 桂は、動物全般が好きだ。モフモフ、肉球、愛すべき温もりたち。 但しエリザベス以外に飼ったことがないので、どちら派ですかと聞かれても困る。本当のことだった。 「お」 街灯の光から外れた場所、橋の向こう側に見慣れた後ろ姿を見付けた。 「と思ったらオジャマムシまで」 思わず悪態が漏れるも、自然と歩みは早まった。 「いい夜だな、オジャマタクシ君」 「だから、」 振り向くスピードが既に気に食わない。立てた髪が癪に障る。やれやれ、と雰囲気に出してくるのがいけない。 「拙者は出してないでござる。そんな安っぽい結びつきではないからして」 「間男」は相も変わらず夜でもサングラスだ。 此奴は強いからお主なぞ不要…いやいや本当にそうか?一番良い装備を頼む、で戻ってくる事態になってからでは遅い。 いやしかし、こんな夜更けに二人きりで、だがしかし …で、ぼそりと口にする言葉は「ご苦労だった」となる。 「桂殿に言われる筋合いは微塵もござらん」 「可愛げのない部下だな。お主、若くてシュッとしているからと言ってな…」 「ヅラ。早かったじゃねえか」 呆れ顔で肩を小突かれ、桂は口をつぐんだ。 細く吐き出された煙の行方を何となく目で追う。ぽちゃ、と川で魚の跳ねる音がした。 「火、いま入れたんだぜ。…空気読め」 酷い言い分だ。しかし裏を返せば一服してここで待つつもりだった、ということだ。 猫然とした奴だ。なら俺は猫派だろうか。 「万斉、また船でな」 「後でな」 本当は知っているのだ。 優秀な「間男」である。高杉は高杉で、良い仲間を持っている。 見送りこそしなかったが、川面に目線をやりながら桂も呟いた。 「…バイビー」 暗い川に映る街の煌めきに、高杉は足を止めた。 風を受けて水が揺れる。とろりとろりと粘ついて見える。 ターミナルの赤い光が点滅するのを三つ数えたところで、満足した。 前を見ると、桂は速度を落とすこともなく歩き続けている。笑った。 「満足したのか」 小走りになって追い付いてみると、見計らったように白い顔がこちらを振り返る。 ただ放置された訳でも無いらしい。 分かってやがる。また、笑えた。 だから俺は自由に歩ける。 「あと五秒遅ければアウトだったぞ」 「置いてくなんざ出来ねえ癖に」 「減らず口も大概にしろ。…慣れたものだからな」 走る、早歩き、再びのんびり。 桂の歩調は案外気まぐれだ。だが高杉は大人しく後を追った。 従っていたほうが得策である。それなりに信頼なんかもある。 それまで小走りだったのが、一度こちらを振り返った後に安定してゆっくりになった。...