山へ
明るいうす緑の、山道を征く。 山奥の寺で物言う生首が保管されているとの噂を得た。 美しい男の顔をしていて、色素の薄い頭髪が伸び続けている、とか。 とんだ眉唾ものと笑い合うも、本音は縋る思いだった。 「見ろ、そこにアオダイショウがぶら下がってないか?」 「てめェが黙ってりゃ何もしねえよ」 「俺たちを見ている」 「はぁ、っハ。放っとけ」 高杉は、相方を背負って山道を歩いていた。 道すがら古傷が痛むと呟くのを聞き、こうした。 やってみると辛かったが、下ろせと喚かれる度にあと半刻は余裕で歩ける気がし、実際そうだった。 下生えに埋もれながらも細い道はまだ先へ続いている。 寧ろ足下をよく見ると、先までと変わり岩石が多い。 中には人力で整形されたらしい長方形の岩も混じっているではないか。 新たな一歩に、また力が入った。 「っぐ」 「きちんと見ろ、ほら、どんぐりの木から」 ひんやりした手が顎下に這い寄り嫌な予感、と背ける間もなく無理矢理件の方角を向かされる。 見ると、蛇などでなく茶色く乾いた蔓だった。 「山葡萄だろ」 「そうか…?」 「てめェに教わった」 「そうだったか?」 「ああ。地面を這っている方はまた別だ、とか。…ふう。な」 「最高だ。良い子、お前は偉い」 「ん?…っぶ」 ぐりぐりと頬を擦り付けられ、高杉の頬も僅かに緩んでしまう。 が、そのまま身体に回された腕の締め付けがぎりぎりときつくなり、元から上がっていた息が更に苦しくなった。 桂は心配だった。 全くこの男は。気遣いされるほど意固地になるのだから。 「ぐ、テメェ…」 「休憩しないか高杉。なあ」 「平気、だ」 「やせ我慢は良くないぞ。息が上がっている。相当だ」 「させるか…っ」 「嫌だ!俺歩けるの!」 「く…ッソ」 「……っ」 「は、はぁっ、ふ、…っつ」 高杉は、いよいよ本気で暴れる背中の荷物にふらつきながらも歩を進めた。 また傾斜がきつくなる。流石に桂も口を噤んだ。 恐らく最後の大勝負と踏み、大股で着実に進む。 急に周囲の木々が拓ける。 次の一歩が平坦な場所に着地すると同時に、高杉は荷物を前方へ放り投げた。 寺の建つ地は、予想よりもう少しだけ切り拓かれていた。 おどろおどろしさまでもなく、老僧がひっそり寝食していそうな風情があった。 「立派だな。ちょうど銀時んちくらい?」 「あァ…」 高杉は、困ったら燃やして良しとしている隊の隠れ家を一つ思い出した。 まず、しんとした堂の周辺を手分けして探索した。 それらしき様子はなかった。 堂内に忍び込みもしたが、結果は然り。 こういう場面もあるので、怪しげな細い金属棒などといった桂の所持品に文句を付けられず、高杉は歯痒い思いをしたりする。 人の出入りはあるようだが、近隣の里から信心深い人々が時折訪れるだけだろう。 互いに、相方も大体同じことを考えているのが容易に想像できた。 ひと通りの罰当たりを済ませてしまった後で、手を合わせる高杉に桂も倣った。 特段落ち込むほどでもない。 取り越し苦労や無駄な努力には、慣れている。 「こんなモンだろうなァ」 「俺は、お前とハイキングできて楽しいぞ」 「…そうだな」 「ヘロヘロではないか。だから俺は何回も休もう休もうと」 「あァ」 「…水の音がする。川でも近いかな?」 「確かに、聞こえる」 「見てくる。そうだったら儲けものだ。飯ごうと米なら持ってきたんだぞ!」 鳥の綺麗な歌声が響いた。 細いが沢があった、魚が採れるかもしれない。 戻ってきた桂は興奮気味に教えてくれた。 「どうせだから、ここで煮炊きして食べてから帰ろう」...