雨に願う

友人が帰ってしばらく後、どんより雨空ながらも一応の朝の光に急かされて目覚めた。 「ん…。いま何時?」 「おはよ、あいつ帰ったよ。今ねえ、えっ7時。…ハイおやすみ」 「待て待て待て。俺夕方からバイトだからさ、ほどほどに起こして。…おやすみ」 「ちょ、そんなら1回シャワー浴びようよ」 「いやほんと無理、俺は眠ってしまったのだった…」 「晋助ケムリは?ずっと我慢してたでしょ、ほら、はい。おあがりよ」 1本吸えば、シャワーに行くくらいの元気は出るんでしょ? デスクの隅からタバコの箱を指先で何とか引き寄せ、1本取り出しお寝ぼけさんの口にぷすりと差し込む。 灰皿も取ってきて、どこの甲斐甲斐しい彼女なんだか。俺はジッポ使えないから自分で点けてね。 間近で吸われると煙がキツいのでベランダ全開。男祭り明けのショボ目の先には、重い雲と、しとしと雨。 友人は、雨に降られる前に帰り着けただろうか。 喫煙者における長い我慢の後のタバコは効果てきめんな切り替えスイッチ、と晋助と付き合ってから初めて知った。 俺はツルピカの肺で死にたいので絶対吸わないけどね。 晋助の機嫌がその前より悪くなる事は絶対に無いのでつい吸わせてしまうが、それ程ヤバい物って事で。 けだるい様子で煙を燻らせるほっそりした背中は、部屋着の赤いシャツを纏っている。くったりしていて今やほとんどえんじ色である。 部屋でよく着ているから以前「お気に入りだったの」と尋ねたら、「高校の頃よく着てた」との事。 ん?「私服校だったんだっけ?」と重ねて聞くと、言いにくそうに「いや…学ランの中に着てた」そうで。 晋助にしてはセンスのない冗談だ。 いや流石におかしいでしょ、そんな奴いないって。笑ったらちょっと不機嫌になってしまった。 本当にそうだとしたら校則破りにも程がある。 でも、例え妙に目立つ格好をしていたとしても、同じ校舎で当時の晋助と話してみたかった。 ぼーっとしながら1本吸い終わると晋助は大人しくシャワーへ向かった。 奴の指に挟まれ、赤い唇に細く煙を運んでいる間はあんなに素敵な物に見えるのに。 くしゃと火が消され彼から離れると、やっぱりただの吸い殻だ。 ざあざあとシャワーの音が聞こえてくる。 最初にするのは日曜と決めていたのに、俺たちはまだ最後まで出来てない。 晋助がしているらしい1人遊びについて、何となくは知っている。 どの位の頻度で、いつから、かは知らない。 物凄く気持ち良いとはネットから得た情報。俺もお年頃だし気にはなるけど、実際にすると考えるととんでもなく怖い。 あいつ…よくそんな事出来たな。 時に意外と行動力がある男で、感心してしまう。 あぁー。 1人で小さく呟いてごろりとベッドに寝転がる。 壁際のチェストの上には図書館の本が数冊。 手に取りめくってみると普通に面白い。けどこれについてあれこれ考えて何か書けなんて俺には到底無理な話だ。 違う勉強してんだな、とよく分からない納得。 手の爪は昨日バイト前にきっちり切りました。 切りたてじゃないからトゲトゲもしていない。これで安心して触れられる。取り敢えず、指は。 日常生活の中での自然研磨、と教えてくれたのは何故か国語の教師だった。記憶違いかな。 前にもこの部屋で晋助が借りてきた本を手に取り、自分の爪を確認した。今とは違う本だった。 晋助の本に触れたあと、彼自身に触れるまでは出来るのに、ね。 自分の指と穴を濡らし、小さな穴の中を慎重に解した夜の事だ。 女の子のより硬くてきついなと思った。 ごめんね…心の中で呟きながら晋助の顔を見ると真っ赤で、目をきつく瞑っている。 男にされる男の子って何でこんなにいやらしいんだろうと思った。それとも晋助限定なのかしらん。俺のズボンの中はぱんぱんに苦しかった。 「晋助…、晋助。大丈夫?」 「ん…」 大きく息を吐く裸の背骨が綺麗だ。 ベッドにうつ伏せて腰だけ上げた姿勢から赤い顔でこちらを見遣る様子が、電車でおじさんに触られていた時の姿を思い出させた。 中を弄る手を止めてゆっくり背中を撫でてやった。背中、腰、腹、胸。どこも熱い。 肌は風呂上がりの湿り気に加えて薄っすらと汗が滲み、しなやかなビロードのようだ。 胸元を撫でながらそっと突起に触れると、びくりと体が震えた。 そんな自分の反応に驚いた顔をする晋助と目が合う。 「あ、あ、ぎん…」 その目には怯えが潜んでいて、急に可哀想になった。 それで、何となく続けられなくなってしまったのだ。 しかし穴の中に指は入れたままで、急には俺も止まれない。 その体に自分の体を寄せて抱き締め、腰を擦り付け、そのまま。 「ごめん…いっちゃった…」 かっこ悪すぎる。 俺だけ履いたままのパンツの中が気持ち悪かった。 呆然としていた晋助は微笑った。 銀時が苦い気持ちにしょんぼりしている頃、高杉は浴室で同じ場面を別の思いで反芻していた。 壁に背を向け頭のてっぺんから湯を浴びつつ、くすりと思い出し笑いをしてしまう。 いい加減、最後までしてみたいなあ。 確かに、そういった意味でもって男に体を明け渡す事は想像を絶する恥ずかしさだった。 それでもやっぱり銀時で良かった。 遠慮なんか要らないのに。 あれから銀時は俺に触るのを我慢している様だ。...

January 11, 2017

サーズデイ2

その朝は一緒に登校し、昼は学食に集合、と約束してそれぞれの学部棟に向かった。 昼になると揃って日替わり定食を注文し、スポーツの試合、銀時と桂が所属するほとんど飲み会だけのサークルの人間関係、互いの実家の話、と一気に仲良くなってしまった。 「ね、今夜の飲み来てみれば」 言いながら生協で買ったシュークリームを食後に頬張る銀時。 別れた女の子とふたり、喫茶店でコーヒーを挟んで旅行の計画を立てた日をふと思い出す。 人がたくさん集まる飲み会なんて苦手だったのに、銀時がいればどうにかなるかもと思った。 結果は上々で、ショートカットで首筋が綺麗な、感じのいい女の子とも知り合えた。 土曜の夜には銀時の部屋で宅飲み。 銀時の学部の友人たちに高杉も混ぜてもらう形になった。 高杉くんイケメンだからな。あ、俺知ってた。どんな子って思ってた。結構みんなでとか好きじゃないタイプでしょ? 男の子同士にだって色々あるのである。一種の妬みや不安も相まって最初は小さな棘を隠せなかった面々だが、酒が入って皆でゲームのコントローラを握ると一気に打ち解けた。 その頃には「高杉くん」も、ただの高杉である。 ゲームで最下位になったら一気飲み。5試合やって3度、高杉は3秒イッキでジョッキに注がれた安いビールを煽った。 そして出来上がるのはもれなく、まだ慣れないアルコールで悪乗りの若者たちである。 「次、最下位になった奴。これまでの女の子自慢な!」 右隣を陣取っていた銀時が、高杉の頭を鷲掴みして宣言した。 「気安く、触るんじゃ、ないっ」怒った顔を作って手を払いのけるが呂律が回っていない。誰が見ても、この場で一番酔っている人物は明らかだった。 内容が内容だけに本当は誰が最下位になっても別に良い。と言うかむしろ話したいぞ聞いてくれと全員がこっそり思った。 が、やはり最下位は高杉だった。 「はーい、では高杉くん。現在ガールフレンドは?」 「…冬に別れた」 「大学の子?写真残ってる?やりまくり?」 「黙秘権」 「俺見たことあるよ、一緒に歩いてるの。普通に可愛い。なに学科?」 「プライバシーの侵害ですー」 高杉は大の字に横になり、珍しくへらへらと笑った。 「滅びろイケメン!」 その上に銀時がダイブして脇をくすぐり始めた。 「足、そっち足くすぐって!」 ゲラゲラ笑いながら皆は調子に乗って高杉をくすぐった。 「高杉くんイケメンだからな!」 笑いながら高杉は更に酔った。ビクビクと体を反応させて必死に「やめい!」と笑っていたのが、少し気持ち悪くなってきて動きが鈍る。 「だいじょぶ?…どれどれ」 顔を覗き込んで心配そうな声を出しながら、1人が高杉のTシャツをまくり上げ小さな両方の乳首をつついた。 「んぁ!」 変な声が出てしまい、高杉は赤面する。 その場の皆が一瞬、妙な気分になった、はずだ。他の男の子が笑いながら再度つつく。 「あれあれぇ、感じちゃうのぉ、高杉くん。イケメンだからな!」 もし彼らがまだ中学生でここが校舎だったら、生活指導の教師がすっ飛んでくるだろう。 「や、ちょっ、ダメダメ、ヒヒ、ほんとダメ…っ」 必死に笑いで済ませようにも高杉の腕は力ない。なのにいちいち色っぽい反応を返す高杉が面白い。 面々はいけないと思いつつ止められなくて、「耳感じるでしょ?」「ぷっ。へそカワイー」とくすぐる手の意図がおかしな方向に進んでいた。 「どらっ!」 しかし銀時が突然むんずと股間を握ると、目にも留まらぬ速さで飛び起きた高杉にグーで頬を殴られた。 「暴力反対、チービ!」 「る、せえ、爆発頭!」 「ちょっと顔が良いからって調子乗んなや馬鹿!」 「変態!」 …突然始まった下らなすぎる喧嘩に唖然である。酒でヘニャヘニャだった癖に突然猛獣と化した高杉に皆は恐れを成した。 こいつ、キレるとやばい。 その内に隣の住人から苦情が来て、取り敢えず落ち着こうと、気まずい空気ながらも仲良く全員で水をがぶ飲みし、雑魚寝で眠った。 「高杉くんイケメンだからな」ネタは一夜限りで終わった。 高杉は、ショートカットの女の子と大学でよく会うようになった。 「今度、夜ごはん行かない?」 控えめに誘われて悪い気はしない。 これ上手くいったら後ろのひとり遊びは当分出来なくなるな、と不謹慎な事もちらりと考えた。 しかしそれはそれである。 「そんなら俺の友達のバイト先に行ってみようか?ちょっとおまけしてくれる。全部奢りは勘弁だけど、それでも良い?」 銀時のバイト先の気軽なバルに連れ立って出掛けた。 少し背伸びした金曜の夜。 高杉と女の子が店の席に着くと、知らずに澄まし顔で水を持ってきた銀時は驚いた。 「どしたの。いつの間に2人仲良し?まさか、そうなの?」 「違うよ、まだ!」 焦った女の子の声に高杉が赤面した。これはひとり遊びサヨウナラコース決定か。 「へいへい、面白くねえな!ご注文は!」 苦笑しながらオーダーを取ると銀時は厨房へ行ってしまった。 残された2人はぽつりぽつりと話す。授業のこと、好きな映画、漫画。楽しかった。運ばれてきた料理と少しずつの酒で、ゆっくり仲良くなった。 途中で代わりばんこにトイレに立った。 高杉が用を足し終わると、真剣な目をした銀時が手洗いの前に立っていた。その目線に熱いものを感じてどぎまぎする。 自分の良いように解釈しているだけだろうが、実は銀時は自分の秘密に気付いていて、それを打ち明けても良い相手なんじゃないかと、ふと思う。...

January 9, 2017

バニラ

「酷えパニック映画だったな」 「…お前がそれ言っちゃう?銀さんが何回反対したか知ってる?正解はね、俺も知らねーよー!」 「ヤバいヤバいって話題だったからさ。よく頑張ったよ銀時」 「うっ、銀時くん、辛かったのお、うっ、でもどうしても観たいってお前言うから、うっ、…じゃねえよ!寝れるかなマジで」 「添い寝してやるよ」 「それはいつでもして下さい。はー、今夜とか俺うなされてたらすぐ起こしてね、んで抱きしめてチュッチュしてね!」 「ウダウダ言う奴は要らないんだな」 「何が」 「奢られる酒」 「えっ何で?要る要る、超要る。ねえ、でも何で?」 「たまにはデートっぽくやろうかなと。たまに」 「やった!彼氏最高!」 晋助大好き! 「重い。何気に2人だけで外飲み、初めて?」 「重くねえし。俺ら?てかまさかお前?」 「な訳が…う、エホン」 あっ察し、って言うか気にするのが逆に腹立たしいぜ。 「ここ!ここにしよう!」 「もっと学生向けのがあるだろうが!」 「いいやここだね、ここしか無いね!」 「銀時…くそ野郎…」 「逆セクだ?酷え言い草だ」 「自分は言わないで俺のだけ聞き出そうとかとんだ淫蕩罪ですう」 「実際人数って話じゃないと思う」 「じゃあ教えてよ」 ひょんなことから言い合いの気配。 過去のことなんて聞かなきゃ良かった。好奇心も仇になる。 「相手を増やしても鍛錬にはならない気がすんだよ」 「つまり取っ替え引っ替えしてみたけど実にはならなかった、とかでしょ、当たりじゃねえか!」 「してないって。つうか声でかいぞ銀時」 「ほらあ、どうしたお前、お前こそな、何か口数多いぞ」 「…次は」 「メニューの渡し方雑じゃね?」 「寄越せ」 「ちょっ!まだ見てるからあ!かーえーしーてえー!」 「お客様、お決まりの頃お呼び下さいね」 わっ、今の笑顔かわいい。けっ。 「俺ビール。ひたすらビール。てかさ、良いだろ、腹割ろうよ」 「ならメニュー最初から要らねえだろうが!」 「他も飲もっかな―とか思ったけどやめた。ごめん」 「あ、すみませんお願いします。ビールとジンハイ」 「…いま可愛い方が来るの待ってたろ。まだ女の子いける?いや許す許す」 「ああ、全然いける。けど…」 「「けどセックスは微妙かも」」 「被せてくんな」 「いやそっち。ハモんな」 「立場的に俺の方が全然ありそうだけど。銀時のは意外」 「ちょっと、んん、そうだね。いや分かんないけど」 「自分で言うのもアレだけど、俺とやるのは面倒だろ。物理的に」 「いやまあ。申し訳。怒んないで、ごめんって」 「良いって。まあ、逆の立場だったら俺も多分そう思うから、何とも」 ちらっと流し目を寄越しながら喉仏を上下させて酒を飲み込むのが綺麗。狡い。 「お前と話すの、普通に好きよ」 「気持ち悪」 「失敬すぎるだろ!」 「くくっ」 「ねぇ、話戻すけどさ。前の子とやってた?よね。普通に」 「…」 照れるんだ。腹立つ。って思ってるのバレませんように。 「1番良かったなあって話してよ、エロいやつ」 「お、男子会っぽい」 食いついたー!? お待たせしました、あっビール僕です、どうも、はい、うぃっす。 喉、撫でたい。冷えちゃったんじゃない。 「男子会…まあそうか。てかさあ何人?ほんとに」 「セクハラです」 「馬鹿じゃないの、ほんとに怒るよ!」 「何っつってもお前は笑うか馬鹿にするだろ。言うかよ」 「しないって、じゃあお前がグイグイ来てよ、銀時くんにもっと興味持ちなさいよ」 「お前の抱き心地、凄い好き」...

January 9, 2017

坂田に続け

今日も今日とて、講義の後は特に約束もしないのに結局いつものメンツで集う。と思っていたのはどうやら俺だけだったようで今日はぼっちだ。 こんな日もある。 授業と課題と各々の部活やサークルにバイトと、色事とは無縁でありながらも俺たちは十分楽しい学生生活を送っている。はず。 男の多い学部だから別段気にしない。 せっかくの大学生活なのに俺らこんなんで良いのかな、と週に一度は誰かしらが口に出すが、果たして本気で心配している奴が俺たちの中にいるだろうか。 坂田は安定の遅刻、だけに留まらず午後からパターンの香り、平賀はゼミのプレゼン資料が未完成、喫煙所で山縣を探したが見当たらない。誰も捕まらないと寂しいものだ。 学食裏の喫煙所から図書館に向かう途中で「お、久しぶり」と低い声で控えめに呼び止められた。 高杉、学部は違うがこいつは最近加わった俺ら男祭りの仲間だ。まだベンチ要員だけど。 もちろんまた男、結局男。しかもクール系イケメンで喧嘩強くて普段は優しいと言う、最高にたちの悪い男だ。 「昼食べた?」 聞かれ素直に首を横に振る。 「ラーメン食べたい気分なんだがすぐ授業?」 高杉の提案に乗り、2人で大学から最寄り駅までの間にある評判のラーメン屋に行ってみた。 調子に乗って特盛りを頼んだ結果、自分の限界を知る。俺としたことがライスおかわり自由の張り紙を見落としていた。完全にそっちだった。 痩せているのに高杉はよく食べる。ペースの落ちた俺を見遣って「残り貰おうか?」と助け舟を出してくれた。 妹たちとそこそこ仲良しだとか、彼女と別れて少し経つとか、男祭りメンバーに迎え入れるには解せぬ前情報があったが、こうして目の当たりにすると何だか。流石だなぁ違うなぁと感心してしまった。 本人が友達を作る事に対し若干の苦手意識を持っている様でよく誤解されているが、実際良い奴なのである。 「お前よく食うな」 「これの為に朝から何も食ってない。準備してた」 「いやさっき決めて突然来たでしょ」 「そうだったかも知れない」 カウンター席に2人並んでこんなやり取りをしている俺たち、ちょっと悲しいかもしれない。 高杉の反対隣に座っている若いサラリーマンと一瞬目が合った。どんぶりを滑らせて高杉に託す俺を慰め半分からかい半分の目で見たのはバレているぞ。 更に、彼は流れで高杉の横顔を盗み見ている。なんだ男か。あそこの学生か、ただのイケメンか。高杉を初めて見ると舌打ちをしたくなるその気持ちはよく分かる。 高杉のお陰で、俺はイケメンの友達を持つ醍醐味を初めて実感できた。 大学構内から出て高杉と2人で歩いていると、世間の目がいつもより優しく感じる。ラーメン屋のおねえちゃんの笑顔も絶好調、大学に戻る道すがら前からゆっくり歩いてくるばあちゃんを先に通してやっただけで「お兄ちゃん、ありがとうね」 高杉。こいつは使い倒すしかない。そして俺ももっとずっと良い男になってやるのだ。 本音を言って良いですか、やはり彼女は欲しいです。 大学構内に戻り、それぞれの学部棟へ向かう前に思い切ってみた。 「高杉、相談がある」 「…どしたん」 「他のみんなには取り敢えず内緒で頼む。金曜、俺は合コンに行ってくる」 「マジでか。でかしたな」 「だから、良い服屋か古着屋、連れてって欲しいです」 「…狙ってる子がいるのか?」 「そう、実はいる。話したこともある。という訳で俺は全力で臨みたい。力を貸してくれますね?」 「そんなら勝負パンツも見るか。薬屋で武器調達はしなくて良いのか?部屋にちゃんと在庫あるか?」 「いや早い早い、早いよ!流石にそれはまだでしょー」 え、そんな素敵な事あるかな? 「無いとは言い切れない」との高杉の呟きに胸を踊らせ、土曜の午後に決戦準備という名目で彼と2人で遊んだ。 高杉が好きだというアウトドアブランドの店に行ったが上下揃えるとなると財布が苦しい。なので場所を変え古着屋に向かったら、カワイイTシャツを見つけた。上が安く済んだため、アウトドアブランドの店に戻って、気になっていたハーフパンツを購入。 何故か高杉も満足そうだ。 「休憩するか」 コンビニで買ったチューハイをそれぞれ片手に、公園のベンチで休んだ。公園のメインとも言える広い池は夕陽を受けてとろとろと柔らかく光っていた。 好みの子探そうぜ。あれは? …おれ黒髪が良いな。 じゃああの子。 あー、うんカワイイ。結構気ぃ強そうじゃない?高校の同級生でああいう子いた、いま同級会の幹事やっててさ、あ、お盆の同窓会の返事しなきゃ。 のんびり仲良さそうに話している男2人がいたら大概下らない話だ。ゲスくてごめんなさい。 「来週だっけ。金曜はほどほどに頑張れ。な」 飲み干したチューハイの空き缶を弄びながら高杉がにっと笑った。 どうやら俺は友として完全に受け入れられたようだ。試しに部屋に遊びに行っても良いか聞いてみた。 「今日のお礼に酒とか惣菜とか買いに行ったら俺出すから。突撃すぎるけど今夜なんかダメ?」 すると今日はバイトも無いし良いという。 「あ」 高杉が呟きを付け足す。 「そうだ、今夜は銀時も来るとか言ってた」 これは迷わずプチ・男祭りナイトだね! 俺ら仲間内にとって、高杉とのファーストインパクトは黒歴史と言うか地雷話になっていた。 「高杉クン、イケメンだからな!」 なかなか良いイジり文句だったと思うが、高杉を怒らせてボコボコにされるのは絶対にゴメンだ。あの事件の翌朝、可哀想な坂田は顔に青あざを作っていた。それに綺麗な顔と華奢な体をしているだけあり、少なからず変な気分にさせられるので何やかんやで高杉はけしからん。 電車をひとつ乗り継いで、高杉の部屋にやって来た。 鍵を開けて中に入る前に「ちょっとだけごめん」と外で待たされた。 高杉も人に見られたくないレンタル品を散らかしていたりするんだろうかと楽しくなった。 逆の立場で詮索されたら誰だって嫌なので(特に初回訪問だしね)大人しく待ったが。 案外すぐに出てきた高杉に迎え入れられた部屋は片付いていた。ほんのりタバコの臭いが染み付いている。それと新鮮なミントの香り。 「お客さんだからファブった」 照れる高杉、この一連のテクもいただきだ。 遊びとは言え課題もある。一発集中で2時間ほどかけて各々の仕事を片付けた。ひと仕事したらその後の一杯は更に美味いってもんだ。 「お。銀時、バイト早番終わったから直行で来るって」...

January 9, 2017

ポッチがキュートで

「お前さあ、今寒い?」 何だろう。最近たまに晋助に聞かれる。それも唐突に。 「そんなでも。快適って感じ」 胸を張って見せると彼は小さく吹き出して顔を背ける。 何よ。銀さん可愛いなって照れちゃった?ってデジャブ。 まだ暑い時だ。 『逆上せたか?』 そう、確かそうだ。 そりゃ暑いけどそこまでじゃないでしょ、と。逆に不安になったものだ。 元気と思っているのは自分だけで、本当は酷い顔をしてるのかと。 しかし今日も俺は正真正銘の元気くん。 「おかしくね?何でそんな心配してくれんの?」 何だってばよ。 「いや。そのシャツ、良いな」 ああこれ。 「セールだからここの買えたよね。大当たり。って思わね?」 「うん、良い」 あれ、本当に銀さんに萌えてた? 「可愛いでしょ」 「と思う。今度貸してくれ」 「えー。もう少し銀さん着古してからね!」 彼シャツ的な。的っていうかマジにそうか。同性カップルの良点だわ。 「でもさ」 サイズ気になるってんなら大きめ着てるって言えば全然良いと思うよ… 「乳首立ってる」 へっ。 「何?」 「乳首」 目が点。 「んなアホな!」 咄嗟に両手をクロスさせて胸に当てた。 「やめてよエッチ!」 「ぶ、ククッ、銀時の下着、薄いもんな。絶妙なテロン具合っつうかで、よく出てるんだよ、ふはっ、プチって」 「そそそそそんな!」 「鳥肌立つ的な状況でなってんのかと思ってた」 「お前、そんな目で銀さんをいつも見てたの!」 「主張してるから」 クックッと拳を顎に当てて笑う様子につられて笑顔になる。じゃなくて。 「それ言ったらお前だってさあ!」 た、立つだろ、いつだっけ、一昨日か。ペロペロしたもん。 「俺か。流石に昼間は慎み深いぞ」 げっバレてる。 「…銀さんのとか誰も見てねえし」 「そうか?それは夜にする話だな」 何よそのニヤリ。 「土日、店ぶらつきたい。服とか」 自分から街行きたいなんて珍しくね? 「街ボーイやん」 「デートしようぜ」 あ、はい。赤面…。 週末の予定を確認しあい、土曜の朝から俺たちは出掛けた。 楽しいデートの後、可哀想な俺はぶつくさ言いながらバイトへ向かうって流れだ。 逆ならなあ。バイト終えてから遊びたかったけど、まあ仕方ない。 午前の街はまだ空いていて歩きやすかった。 「セーターって、中に着るシャツ着た上に一枚で着て良いかしら?」 これ好きだな。駅ビルのメンズ階にて。 ちょっと覗いては止めて、で3軒目。ここなら学生のお財布に優しいし程々にきれい系。と思われる。 ふか緑と薄い灰色の、太いしましまのセーター。ちょっと珍しい色の組み合わせが気になった。 「首とか痒くね?」 「多分。…ちょっと着てみて良い?」 「お、行け行け」 どや。 「成る程。セーターならアレ目立たないしな。良いと思う」 似合うかどうか言えよ。ってことは微妙ですか。 肌に当たってもチクチクしないし、かなり似合ってる気もするけど。 「銀さん可愛くない?」 「まずまず」 ちぇ。 腰に手を当て右足をちょっと突き出し。 「良くない?」...

December 24, 2016