「ちょっと、どこ行くんスか先輩!」
慌てるまた子、呆れ顔の高杉。そんな仲間の姿もどこ吹く風、万斉は猫の後を追い路地裏の更に奥へと歩き出す。
どちらに付くか迷い、また子は地団駄を踏みたくなった。

最近、どうも調子が悪い。直近で三連続失敗している。
厳密に言うと、一発のヘッドショットで済ませたかった請け負い暗殺にて二発以上使ってしまった。そもそも普段のレベルが違いすぎる、と周囲は苦笑するばかりだったが、彼女のプライドはいたく傷付いていた。
そんな時に限って大将が出掛けると言うから堪らない。
行き先や目的をはっきり教えてくれないのは、それはそれで行き先や目的が絞られてしまうのに。
また子は面白くなかった。
斯くして、万斉も巻き込んでのお出掛けとなった次第である。

「また子も早くおいで。猫天国でござる。ねこてん」
「何言ってんスか先輩…」
「ほら聞こえるでしょ。あっちで集会してると見た」
「ぐぬぬ」
また子は丈の短い着物の裾を握りしめ、しかめっ面で四角い空を見上げる。
「置いてかれるでござる」
「うう…」
にゃあ。コンクリート塀の先から、確かに甲高い声が聞こえてくる。
「また子。あいつ、見ててやってくれねェか。俺の言うことなんざ何も聞きやしねえから」
「…早く帰ってくるッスね?」
「おう」
「ほらあ、また子お、早くう」
「本当に困った人たちッスね!」

名残惜しそうにこちらを何度か振り返りながら、また子は小走りで去って行った。
高杉の位置からは、野良猫と万斉の姿はもう見えなかった。
もちろん本人の趣味もあるだろうが、一言くらい万斉には礼を伝えても良いかもしれない。
「そうさなァ」
独り言を漏らし、高杉はきびすを返した。

 

「ねえマスター、まだ薄いって」
「ったく。皆んなおんなじ。皆んなこんくらい!」
今夜も賑やかだ。高杉が普段好む街とは大分趣が異なるが、雑多に明るくて、確かに気楽でもある。
人々の間を縫って歩きながら暖簾の先を覗くこと五軒目、やっと当たりだった。

「マスター、あのね、このハイボールは割られすぎてると銀さん思うわけ」
「俺だって忙しいの。勘弁してくれよ銀さん。水飲んだら帰ってもらうからね」
「ありゃ。大将、今夜はもう持ち帰ってあげた方が良いんじゃない」
「うはは、違いねえ!」
「やめてよデンさんゲンさん。この人、女関係よく拗らせるって他所で聞いたよ、俺」
「…そう、銀さんモテモテなので…」
「黙ってりゃあ色男なのになあ」
「ほんとほんと。くるくるパーマなんて気にしなくて良いのに」
「俺の若い頃にそっくりで」
「くるくるぱー、って頭の中の話じゃねえぞ」
「うるっさいよ、お前さんは」
「…俺、酒とパチンコ明日からやめるわ…」
「ほら見ろ」
「つうか女って言うか…クソガキの頃から…が拗れてて…」
「ん?」
「大将、こっち、ちゅうもーん!」
高杉は、顔が火照るのを感じた。

「…どしたの」
警戒、疑念、驚き。肩を叩かれ振り返った顔が、次々に表情を変える様子は大層愉快だった。
「遅えんだよ」
「な。こっちの台詞どぅあ」
「舌回ってねえ。出るぞ」
「だわー!」
「あ、銀さんが生き返った」
「お友達?」
「残念だったねえ大将、来たよー、銀さんお持ち帰るひとー」
「はい、はいはい。おたくは、良いの?」
「なんだ?」
「銀さんもっと酷い日あるからさ。おたくも飲む余裕あるんじゃない?」
「それも、そうだ」
掴んだ襟首から手を離す。追い出されないことに感謝し、高杉も席に着くことにした。
「お。改めて、いらっしゃい。だね」
言われるがままにウーロン茶を啜る銀時に安心したらしく、店主と常連たちは、あとは適度に放ってくれた。
が、間も無く銀時は頬杖を付いて船を漕ぎ出してしまう。
高杉は、彼の横顔と食べ残しを肴に一合だけ飲み、おしまいにすることにした。

「一緒に、払う」
「じゃ、銀さんの分は、申し訳ないけどこんくらい。あんたのは、こんだけ」
「すげえ。安いなァ」
「ウチお通しやんないからね。それに銀さんの分、食べてたでしょ。いや違うよ、無駄になんなくて俺も助かったってこと」
「そうか。花…じゃねえな、席代は?」
「やだな。そんなん無いよ。いつでもふらっと来る店なの。安くて汚いけど良いとこだろ?あんたも、また来てね」
「世話、掛けた。美味かった」
「まいど。じゃあね。銀さん、気をつけてね」
「あれ、ん、あれ?」
「また来る」
「えっ。ちょっとマスター!まだ薄いもん!」
「帰ったらな…」
店を出るには無論、全長177センチ、重量66キログラムの荷物を抱えることにはなるのだが。

 

「風呂入ってきた?ウチのに入る?」
現金なことに、配送先に着くなり「荷物」は健全な成人男性に変身するのだった。
酔っ払いの相手をするのは骨が折れる。当該ストレスを取っ払うには、己も同じく酔ってしまうのが簡単だ。
そんなわけで、荷物に肩を貸し歩く道すがらひょうたん水筒から酒をちびちび飲んできた高杉は、少々素直なのだった。
昔、というほど昔でなかったかもしれないが、この流れには覚えがある気もする。

風呂は二人で一気に済ませた。その方が早く済むからだ。
冷めかけた湯船に、熱い湯を足して入った。押入れ上段の女王はとっくに夢の中だったらしい。
邪魔だ何だとの言い合いは、小声で行うよう気を遣ったつもりではある。
因みに、言い合い自体の我慢はどうしたって無理だった。

「包帯巻いてあげようか」
「要らねえよ、もう寝ちまうんだから」
「そう言わず。ま、なんか理由付けて触りたいだけよ」
「ヘッ。…んだってんだ」
口をへの字に曲げる割に、払い除けないし姿勢も変えない。銀時は満面の笑みで包帯を手に取った。

「あ。ほんとにやっちゃった」
「どう考えてもわざとだろうが」
「や、まじで。たまにどっちだっけって分かんなくなるけど、毎回結局当たりだしよ。とか思ってたらさ、がちで逆やってたわ」
「俺ァてっきり、」
「今日はそういうやつか、って思ってた?」
「…馬鹿だなと思ってな」
「そういうプレイにすることにします」

「っん、ふ。逆と思ったが」
「逆にしたからその逆の逆を付いて、ん?」
「口が留守だぜ」
見える方の目を隠されてしまい、いま高杉の視界は真っ暗だ。
本当に間違えたのか最初からそのつもりだったのか怪しいものだとも思う。
何をと身構えれば口での奉仕だったのだが、酔い加減も良い頃合いだ。諸々をすっ飛ばし、兎に角きつく抱き合いたいような焦れったさに密かに苦しむ。
はっきり言って、早く銀時のものを突っ込んで欲しくて仕方ないのだった。

「膝、もちっと優しくできませんか」
「あ、」
「気持ちいい?」
「は、あ。…うん」
「うん、だって。可愛い。俺の、要らねえから。っ何か、痛い、や、ほんとに」
「そうか?俺は、痛くねェよ」
「ふふっ」
「は、は、…。ってェ!あ、噛むな、嫌、だっ」
「この脚も、やめんだな?」
「お前だって、いつも滅茶苦茶、やってくるだろ」
「銀さん脚でなんか、やひはへんへほね、んむ」
「あ、もう、くちっ、はなせ、うあっ」

高杉は上体を少しだけ起こし、己に覆いかぶさる人物の中心を探し当て、膝でこねくり回してみた。
固くなっているのでごろごろする、などと可笑しく思っていると、猛反撃を受け呆気なく達してしまった。
不本意だ。こうなるのは、繋がっている時が良かったのに。
枕を握りしめて息を整えていると、ぱかりとプラスチック容器を開閉する音。これには正気に戻らざるを得ない。

「それ寄越せ」
「なんで」
「何されるか分かんねえからだろ!」
「バッ、いつもと一緒だよ。なに興奮してんだ変態はお前だわ」
「信用ならねえ。テメェでやるってんだ。良いから、…早く、したいんだよ」
「…言うねえ。できるもんならやってみな」
「いちいち煩えな。見てろよ!」

「もっと奥か…?う。…っく。ん?俺ァ、手、下手だな」
「暇だわ」
「だろうよ。あっ、ん。逆するぜ?口で、よ」
「お前さ、俺の街、探しに来んなよ」
「あァ?ふらふらしてる奴が悪い、だろ」
「いつだって来りゃ良いさ。ただな、言えよ。…人がどんだけ心配して待ってんのか」
「っクク。店主に持ち帰られたかったか。…っぁ」
「感じなかったか?今日の店だってな、実際何やってんだか分かんねえ奴ばっかだよ」
「してやらァ。なァ銀時、もう目のコレ取って良いだろ?」
「聞けよ!…そりゃあ、ああやって店で会うなら楽しいオヤジ共さ。だがな、俺らが知るよりずっと強かだよ」
「フン。鬼兵隊の俺の相手って知ったら、ろくでなしでも手ェ出してみようかって輩もあるかもな」
「逆!」
「当て馬は御免被るぜ」
「いや離れたわ」
「何だってんだ、面倒事か?」
「現実的にすぐどうこうって話じゃないけど。その世代なら何となく聞き覚えのある!あの伝説の白夜叉のアレって知ったら、ってこと」
「無ェな。あるなら、俺の方からいく話に決まってらァ」
「はあ。ったく、よ。…つうか手、結局止まってんじゃねえか」
「わっ、」

銀時は飛びかかり、相手を仰向けに押し倒す。そして高杉の中から彼自身の指を引き抜いた。代わりにさっと濡らした自分の指を忍び込ませ、勝手知ったると言わんばかりに中を攪拌してやる。
「あぁっ、な、深い」
「さては自分でやると怖いんだろ。銀さん、けっこうズップシ入れてんのよ」
「だめっ、やめろっ、」
銀時だって、飲み屋で肩を並べ馬鹿話をしたいに決まっている。
そうだ、今夜は「女関係を拗らせがち」との噂が広まっていると知れたのは良かった。
「そこっ、く、ぁううっ、つ、」
とは言え、である。目の包帯はもう暫くこのままにしてみる。

ここで銀時は一度指を抜いた。
案外、まだ指先はふやけていない。ぐう、ぱあ。もうひと仕事くらい全然余裕だ。
ティッシュ箱を引き寄せ無駄に垂れた分を拭ったのち、ボトルから「おくすり」を塗り足しておく。
ちょっとした悪戯だ。ぴんと伸ばした人差し指と中指を、ゆっくり差し込んでいく。
「なんだ…?」
大きく開かせておくため内ももを掴んでいる左手にも力が篭もる。
根本まで入った。無言のまま、指先を動かさずに手首を回転させてみる。
「ぐぁ、何入れてんだっ、あ、あ、…かはっ!ぁ」
逆回転。腰が逃げるので、股関節を押さえることにする。
立ち上がったものも一緒に揺れている。そこからも目尻からも、涙が滲んでいた。
「は、…はっ」
「随分嬉しそうだな。最初から任せときゃ良かったんだよ」
「見えない、やだ、ぁ」
「分かれよ。ちゃんと銀さんだろ。ほら。…」
これが今夜初めてのキスと気付き、高杉から二度三度と重ねた。
おっと、と銀時は思う。
そこでご褒美の答え合わせに、中の指をいきなり指らしくばらばらと暴れさせた。
「あ、が…っ!?」
下からくる衝撃を吸収するため、銀時はもう少し体重を掛けた。

やっと入ってくる。焦燥が治まる。
が、それもつかの間のことで、すぐに別の場所から新たな欲が次から次へと湧き上がってくる。
頭がぼうっとする。
高杉は唇の端に滲む唾液を拭いたかったが、ぐ、と奥まで収められると更に訳が分からなくなって叶わなかった。
確かに、見えなくても銀時と分かると思った。

「まあ、店で囲まれたって俺らなら余裕なんだけどな」
「そ、だな」
強く抱きしめあい、二人は暫く黙って腰を動かした。
揃って無言のまま同じことに取り組むのは、この二人においては珍しい。

「あれ。…あれ?高杉もしかして入れてからはイッてないんだっけ」
「じゅうぶんだ」
「なあ、もっかいしよう」
「もう沢山でな、」
「やれたらポイですか」
「そうじゃねえよ。いや、そうなるか…?違う、…とにかく俺ァいっぱいだ」
「『そうか?出てねえか?イッたと思ったんだがな』」
「なっ!?」
「図星か。じゃあ良かったです」
「…寝るぞ、銀時」
「俺けっこうイッたな。酔ってたのに」
「だから、お前で一杯なんだよ…」
「なに。あ、腹?ごめんな。シャワーするか」
「ちがう、…満足してんだよ。もう、ねむい」
寝返りを打ってこちらに向き直った身体。布団の中でごそごそと腕が回される。
その温かさに、銀時も結局あっという間に夢の中だった。

 

「っは!」
「ぎん、…き?」
銀時は、幼馴染のまぶたからミルクが溢れ出す夢を見た。ぷしゅ、と飛び散ったそれは銀時の頬を濡らすのだった。
彼にとってそれは、特段悪夢でもなかった。
うわあ、やべえ、とただただ驚いた。少し笑っていたかもしれない。

目覚めると、隣は空っぽだった。
出掛けなどに、神楽とは顔を合わせたのだろうか。
見送りさえできないのは実際のところいつも悲しいが、律儀に落ち込むにしては、こういった流れに銀時たちは慣れすぎていた。
それにしても今朝は満たされていると言うか。ダメージが少ねえな、と銀時は思った。

「あ。そういうこと」
トランクスの腰ゴムと寝相のせいで腹に縦縞ができている。それを掻きながら歯を磨き、事務所兼居間に移動する。
そこには、ぱらぱらとファッション雑誌をめくる高杉がいた。
確か、製本屋の手伝いで貰ってきた乱丁本だ。銀時自身どこに置いていたか思い出せない。目敏い奴である。
つまらないのだろうと思いきや、めくるスピードが一定ではない。多少は中身も見ているらしい。
「昨夜は煩かったろ、って侘びたら、『いつ来たアル?』だとよ」
「おはよ。あれ、神楽どっか出てった?」
「どっか出てったみてェだ。車と真選組には気を付けるらしいぜ」

ヤカンを火にかけ、銀時もソファに座る。
「街角で素人つかまえて撮ったやつ?」
今のページになってから、暫く「ぱらり」が聞こえない。
覗き込むと、街を背景に笑う女性の小さな写真が並んでいる。「まちかど美女スナップ」と題された見開きページだった。
「俺こういうの、ときめかねえんだよな」
「ヘェ」
軽く身動ぎをする高杉。まだ、めくらない。
「嘘。まさかタイプ探してる?」
「っう。手ェ、冷てえな」
「心があれだから。で、どれ?」
「首締まるから、やめろ。ま、…来島に。着せるとしたらどれが良いか見てんだ」
「うわぁお前…。…ギャル系なら、コイツか?、お、この子なかなか素敵」
「そうかい」
「んだよ。失礼な野郎だな」
そも、こんなペラペラした女たちより三次元な俺を見れば良いだけの話、と銀時は文句の一つも言いたくなってくる。
これだけ近くにいるのに。匂いも体温も、熱さも。くれてやれるのは俺だけ。
「これは悪くねえな」
「まじでか!ちょっ見して見して見して、馬鹿、どれチビ」
「んとに煩えなテメェは。これ、これ、か、これ。だな」
銀時は横顔を隠す髪をかき上げてやろうかと伸ばした手を引っ込めた代わりに、立て続けに誌面を移動する骨張った指を大人しく見つめる。

一人目、うん、ギャル。とは言えミニ着物とニーソは何故か否定できないものである。
二人目、なんだか吉原で腕っぷしを披露してそう。文字通りの意味で。
三人目、顔立ちは綺麗だが、ふてぶてしい目つきがいけない。無造作を狙ったのか本物の寝癖なのか、少なくとも銀時には区別つかない髪型も好きになれない。他のカットは撮らなかったのだろうか。
銀時の目は自然と半目になり、小指が鼻の穴へ伸びる。
また子に着せる服、とか何とか言っていた気がするが、服装なんて全く頭に入ってこないチョイスだった。

「ソウデスカ」
「失礼はてめェだろうが」
「高杉くんさ、また子に似合う、じゃなくて『また子みたいな子』に反応してるだけだろ」
「言うじゃねえか」
「お前のことはどうでも良いけど、あの子が困るんじゃないの。この先」
「構やしねェよ。あいつは、やってけるさ」
「涙目なってますけど」
「なってねェ」
「ほんと?」
「よく見やがれ、ほら。チッ。誰が。…見ろ、三番目は違うだろ」
「なに?ああ、スナップ?」
「んなこと言うなら、コイツは誰に似てんだろうな」
「可愛くないと思うよその子」
「髪、床屋でやったのか元からなのか分かりゃしねェな?」
「だから言ってんじゃないの。…ん?待てよ、妙な既視感が」

ばしゅ。
銀時が違和感を受けた旨を口に出そうとしたその時、どこかでくぐもった破裂音がした。
同時に宙を舞う銀糸。ぱらぱらと軽い音を立て、それらは万事屋の床に落ちた。
「はん?」
「どうした、それ。…フ、っはは」
前髪が斜めに刈り取られている。そんな銀時の変化に気付き、高杉は吹き出してしまった。

細く開けていた障子の隙間から風が吹き込んでいる。
これは勘でしかないのだが、そうそう慌てる状況ではないのでは、と高杉は思う。
ソファから立ち上がり障子を大きく開け、通りを見下ろす。
注意深く見渡すうち、視界のどこかで鮮やかな桃色が閃いた。じりじりと、いま目線がきた軌跡を後戻りしていく。建物の間で立ち上がる人影。目が合った、のだと思う。
何か信じられない奇跡を見たような顔で、そいつはふらふらと往来に這い出てくる。
仁王立ちになったまた子が、握った拳を青空に突き上げた。

「じゃねえから!」
何の落ち度もないまま狙撃されたのだから、至極真っ当な反論だ。
銀時は、感慨深げに腕組みをしてしきりに頷いて見せている高杉の肩を掴み、窓辺から引き剥がした。
そうして現れた銀時の姿に、また子は感無量といった様子で両手で口もとを押さえる。
「何アレどゆこと!どこに感動してんだ!ちょっと高杉お前どういう教育してんですか」
「許せ銀時。それ、俺が揃える」
「は?いつの間にんな高度な技を。って絶対それヤバいやつ!」
「今なら大サービスで無料だ」
「元から掛かるクオリティじゃないんじゃない!ちょ、要らない要らない、それより三回キスしよう、アッツイやつ!」
「そりゃかなり掛かるだろうなァ。となると、俺はそれに礼をしなきゃならねえ」

スナックお登勢の脇に素早く移動し聞き耳を立てていたまた子は、肩を落とした。この調子ではもう暫く帰ってこないだろう。
しかし、今のまた子は寛容だ。なぜかは知らないがスランプは脱したらしい。
その瞬間をあの人にもしっかり見届けて貰えたのも非常に喜ばしい。

「アタシの晋助様ゲージはすっからかんなんスけどねえ」
先ほど銀時の前髪を吹っ飛ばした拳銃を指先でくるりと回し、また子はかぶき町を後に、してあげることにする。