大学生パロディ銀高「サーズデイ」シリーズ

広くてボロい方の学食で、何となく落ち合った。

『出入り口から一番遠い壁際です。すみっコ。』

見渡すと、確かに。
銀時は、隅にある長机の、これまた端を四人ぶん陣取っていた。
広げた紙束や教材に向ける真剣な面持ちが珍しい。
延ばし延ばしにしている課題が云々、と聞いたのは先週だった気がする。
察するに、いよいよ差し迫った状況らしい。

「よ」
「良い店、広げてるな」
「どうぞどうぞ。そちらにお座り下さいお客様」
「眉毛と目が近いな」
「通常運転ですが何か」
「そうかよ」
「じゃあ注入すっかなあ」
「珍しいな」
「これ?」

よくぞ聞いてくれたとばかりに、ずいと差し出されるペットボトル。
腕を戻すと、こき、と音を立てて銀時は蓋を開けた。

「それ、どうした」
「買ったの。ん、一口あげる」
「あ、おう。そりゃ買うだろうよ。…どうしてまた」
「やる気を出すためです」
「それ、甘くないと思うが」
「知ってる」
「飲めるのか?」
「分かってます。ここ、ね」
「ちゃんと見て買ったんだな」
「無糖ってほら、知ってるから。れっきとした合意プレイです。…ん。みなぎる気がする」
「銀時」
「ん?」
「大人になったんだな」
「元々そうなんですけど。一緒に大人なことしてるじゃな…っぐ」

実は、今夜したい気分だった。見抜かれたようで恥ずかしい。

「…見直したぜ銀時。なら他所行く。邪魔したな」
「待って、良いよ居てよ、そんで何か真面目なこと一緒にやろうよ」
「あったかな…ああ、そうか。あった」
「くずし字?崩れすぎじゃね?ガチじゃん」
「くずれ髪」
「指差すな」
「やわらかい」
「ふふ。俺のは、みだれ髪。って乱れてるわけじゃ」
「上手いな」
「だろ。てか何になるつもりだよお前。くず…くず餅って良いよね」
「ほら見ろ。お前のガソリンは砂糖だろ。無理すんな」
「良いんです。いや、たださあ、俺最近夜眠れなくて。カフェイン弱いかもしんねえ」

した後、ぐっすりじゃねえか。
下世話なことを思ったが、一人で眠る夜のことかもしれない。

「そんな飲んでたか?」
「え、っと。いや、紙コップのをね、あったかいやつをね、ちょいちょい」
「最近自販機行く回数減ったと思ってた」
「実はそんなことなくて」
「ホールの方の自販機?」
「そう。寒いからねえ。お前の喫煙所んとこの裏、あったかいやつ種類少ないんだよねえ」
「なるほど」
「何であんな寒い思いしてまで吸い続けんだよ、頭おかしいだろ」
「…そういうもんだ」
「いま一瞬、自分でも疑問持ったろ」
「いや、違う」
「止めちまえ、あそこでぶすっと煙ふかす五分があるんならさあ、銀時くんに会いに来いよ」
「お前だって、ホールの自販機行ってんだろ」
「ちょいちょいよ、ほんと」
「はは。見せて。…確かに、あそこの自販機で見ないな」
「えっとね、これね、生協でしか売ってない」
「へえ」
「でもさ、デカフェなら夜眠れるよね?と思って」
「で、それにしたのか」
「うん。微糖とかは、カフェイン少なめ!とか書いてなくてよ。我慢我慢。…ふう。じゃ、やるぜ俺は!」

ん?

「銀時」
「お前もやれよな、くずし字。はいスタート!」
「待て銀時」
「なにさ」
「味が好きな訳でもないのか」
「そりゃ苦いからね」
「それ、敢えてコーヒー飲む理由って」
「なんで?」
「本当に好きなモン飲むべきなんじゃねえか?」
「いやあ、やる時はコーヒーって、感じするでしょ?」
「出るのか、やる気」
「個人的に、メガシャキよりは飲める味だし」
「…お前がそう言うなら、まあそれで」

どうもすっきりしない。が、言葉にして伝えるのも億劫なので、特に続けない。
ごく。「うん…甘いのあれば解決なんだけどね。確かに」
尤もらしく頷き、もう一口と飲み込む真面目くさった表情が、可愛いと思った。

斜め後ろの席。賑やかだった男女の混合グループが、がたがたと帰り支度を始めた。
ちか、と古い蛍光灯が瞬く。
俺は周囲の騒々しさに便乗して立ち上がり、その唇にそっと触れて、すぐ身体を離す。

「え。な。…あ、はは…、え?」
「やるか」
「お、おう。えっと、はい」

不自然な機敏さで準備を始めた銀時を見倣い、席に戻ってカバンを漁る。
おかしい。
お前の唇は、興奮剤まみれじゃないか。