- R18
「白夜叉と子供たちに、お土産どうぞでござる」
「これ神楽も好きだし、また子ちゃん喜ぶんじゃない」
船を出るとき、万事屋を出るとき。
何処かで聞いた台詞だと思うことが続いた。
そして気付いた。
俺は、どうやら伝書鳩でもさせられているらしい。
確信を持たせてくれたのは万斉だった。
それはつまり、彼が鳩の遣い手の片方ということである。
「今夜はかぶき町でござるかな」
夕飯は要らない、と伝えて出掛ける間際のことだ。首の動きだけで肯定を伝えると、白い紙袋を持たされた。
「そんなに気を遣わなくて、良いんだぜ」
まさか銀時の機嫌を気にしているのだろうか。お前は何も悪くねえんだぞ。少なくとも俺はそう思っていた。
そんな俺の野暮をよそに、万斉は唇だけで笑うのだった。
「今日、また子と出掛けたついでにな。子供たちもお好きだろう」
子供たち、も。あいつの印象が強過ぎて、人が甘味で喜ぶ度合いが分からなくなるのは頷ける。俺も時々そうだ。
「喜ぶさ。悪いな」
ありがたく受け取ると、心底満足そうな顔。
「お前は優しい奴だ」
サングラスの奥がきらりと光る。
いや、つい。
後悔するも遅かった。
「そうだろう」
さっと伸ばされた手で首筋を撫で上げられ、慌てて身体を引く。
じゃあな。言いながらそそくさと外に出た。
万事屋に着いてから中身を開けると、たっぷりのクリームと季節の果物が乗ったショートケーキが四つ。
子供たちを差し置き、銀時の歓声が一番大きかった。
俺は一口だけ。銀時が殆ど二個食べたことになる。
翌朝「また子ちゃんに」と持たされたのは風呂敷包みで、船に帰って開けると手のひら大の白いまんじゅうが四つ転がり出てきた。
一緒に確認したのは万斉と来島で、後から武市にもやって、残った四つ目はまた来島のものになった。
初めこそ甘いものの遣り取りだったが、いつしかそれに限らなくなった。
流石に毎回ではない。行きだけの日もあれば、逆に帰りだけの日もあった。
白夜叉と子供たちに、と口にするのが万斉。
銀時は必ず、また子ちゃんに、と言うのだった。
船から万事屋へ、今日の定期便は銀杏である。
今回の献上品を選んだのは、他でもないこの俺だ。と言っても貰い物だが。
「堅そうアル」
神楽は不思議そうな顔をした。
小さな白い手の上に乗った殻付きの銀杏。
どちらも同じくらい白くすべすべしていて、溶け合ってしまいそうに見えた。
坂本の差出人名で小包が届いたときは、皆が警戒した。
揺すると中からざらざらと妙な音が響く。しかし近頃は武器を頼んだ覚えもない。
親切で新型を贈ってくれたとも考えられるが、武器が収まる箱としては小さ過ぎる。
武市に桶一杯の水を持って来させ、下がってろ、と幹部以外の隊員は離した。
総督総督と心配してくれる声も嬉しかったが、何でもこの手でやらないと気の済まない性分なもので。
万斉はまな板、来島はフライパン。頭を守れ、の結果に各々が持ち出したのは何故か食堂のものだった。
後になって思えば妙な光景だが、大まじめだったのだ。
かく言う俺の装備は、万斉の予備のサングラスと圧力鍋。
皆が息を呑む中でガムテープを慎重に剥がした。
その中身が、季節外れの銀杏だったのだ。
『取引先から沢山もらいましたのでおすそ分けです。たつま』
同封は紙切れが一枚だけ。
その文章を読み上げると、一呼吸置いて隊員たちの吹き出す声が聞こえた。
「最悪ッス」
来島を除いて。
船の整備用の金槌を数本借りてきて、皆で殻を割るのは楽しかった。
「それじゃ指打つ。貸してみろ」
口うるさいかと我慢していたが、的確に引き金を引く来島の指は唯一無二だ。怪我でもされたら隊にとって大損失であるので、と心で言い訳をした後に声に出した。
「晋助様メッチャ早くないっスか」
「ああ、この繋ぎ目を狙うと一発だ」
言いながら新しい実を割って見せる。
ぱちん、と軽い音。
「さっきまでアタシの方が上手かったのに」
尖らせた唇は無意識か。近頃この娘は素直になった気がする。万斉は本当に素晴らしいプロデューサーらしい。
「年の功だろうな」
金髪頭にそっと手を伸ばし掛け、下ろした。
ほんの少し不機嫌な顔になってしまった彼女越しに、万斉と目が合う。
その生暖かい目をやめろ。
「晋助、拙者にも教えて」
伸びてきた手が横髪を一筋すくい、耳に掛けられる。
ふん。
ついでとばかりに耳たぶを撫でるから、思わず震える。
「お前は、自分でやれ」
舌打ちだ。
「気持ち悪いくらい上手いよね。格好付けるために練習してきたとかでしょ。ねえ高杉くん、恥ずかしいんですけどお」
左の握り拳で尻を狙うと、ボフッ、と良い音がした。
「っつう。アッ、この人、痴漢です!」
こっちの鳩飼はやかましくて困る。
「昨夜、隊で散々やったのさ」
この地味な作業をお前の隣でしたい。不思議とそう思ったのだ。
堅い殻の中に、頼りなげで柔らかな実が眠る不思議。
丁寧に炒ると美しい黄緑色に様変わりする様子。
その過程を一緒に見たいと、思ったのだ。
「免許皆伝ネ。ここを狙うのが、こつアル。私とんかち要らないネ」
ぱち。軽い音を立てて、白い指に挟まれた殻は簡単に開いた。
興味津々で近寄ってきたが、残念ながら定春はお預けである。
ごめんネ、と撫でる神楽にも教えてやった。
「俺ら人型にだって、食い過ぎると効くぜ」
毒と言っても確か、それほど食うのは難儀と思う数だったが。
毒アルか、と見開かれるくりくりの青い瞳に頷きを返す。食い過ぎね。そこで恐ろしい可能性に気付いてしまう。
「いくら美味くても、銀時に隠れて食い尽くすんじゃねえぞ」
「レディはそんなことしないアル」
目を合わせ、腹を探り合う。暫し無言。
「おい銀時」
面倒そうではあったが、聞く姿勢がこちらに向けられた。それでも一部始終を聞いていたのだろう、意地の悪い笑みを神楽に向けるのが微笑ましい。
「おう。しっかり見張っとくわ」
神楽は、ぷいと横を向いてしまった。
まず、塩で炒った分を四人でつまんだ。
「なんだか綺麗ですよね」
一粒手に取り蛍光灯の下に掲げる新八。
「お前の炒り方が、上手かったんだな」
「た、高杉さん。えへへ」
「武市がやったのは、もっと濁った色してたぜ」
本当に、今夜の銀杏の方が鮮やかな黄緑に見えた。
「神楽ちゃん、銀さんのこと呼んでみて」
「銀ちゃん」
「ふふっ、似てませんか」
「何アルか」
きょと、と固まる様子に小さく吹き出してしまう。新八の言いたいことが分かる気がした。
「これは」
「…ぎんなん」
神楽のイントネーションなら確かに、少し。
食べ物の名前は、覚えるのが上手いようだ。
銀ちゃん、ぎんなん。
これは、こっちは。
コレって何よ人を指差すんじゃありません。
交互に呼ばせては間にねじ込まれる銀時の文句を聞き、皆で笑った。
「おいゲス極ヤロー共、美少女で遊ぶなヨ」
さて、蒸し器の方はもう暫し待たれよ。
卵さえあればどうにかなるらしいがと来る道すがら考えていた代物も、予想以上にすんなり準備出来てしまった。
神楽を先頭にして全員で覗き込み、家中からかき集めた大小様々の湯呑みや茶碗を並べて蓋をし、火にかける。
ここの奴らは人の分まで一喜一憂してくれるから、黙って見ているだけでも楽しい。
船の面々だって負けてはいないが、こちらは更に軽やかに感じる。
よし、と揃ってソファに戻る。
そうして各々が好きに待つ空気の中、ふいに限界がやってきたのだった。
「クソっ」
いきなり横から抱き締められた神楽が固まるのが分かった。本当に申し訳ないと思う。
しかし俺は違う、武市とは違うぞ。許せ。
「悪い。寝る」
せめて表情を隠そうと俯き、よろよろと情けない足取りで勝手に寝室に向かった。俺は必死だった。
え。
残された万事屋三人は高杉の不可解な行動に首を傾げた。
「どうしたんです急に」
呆気にとられてその背中を見送っていた新八が、あれ、と人差し指を立てた。
「銀杏届いたし銀さん会えたし。安心したんだろ。よくは知らねえが、最近疲れてたっぽいよ」
これでまんじゅう一個の貸しだな高杉よ。
「そうなんですか?」
心配そうな新八に、まあ気にすんなと苦笑いが向けられる。
「大丈夫でしょ。あいつ、ああいう所たまにあんの。ちょっと昼寝ってか、もう夕寝じゃねえか、まあな、何か寝すりゃ元気なるから。今夜ぐっすり眠るのが一番だけどな。やっぱね、お前ら少年少女は無論、過激派も夜の睡眠がミソな訳よ。はは」
急にべらべら喋るなあ。
うんざりしながらも、社員たちは彼の本意を想像する。
「じゃあ銀ちゃんも夜だけ寝れば良いネ。私よりも寝てるアル」
「てっ」
神楽の手から放たれた殻付きが、銀時のおでこに命中する。
「ほんとですよ」
「いたっ。新八くんまで酷い。ちょっと」
固定の問題は解決されたが、慣れたら慣れたで歯痒くて仕方なかった。
任せっきりもつまらない話で、自分で好きに楽しんでみたい日もある。
今日がそうだった。
ここは皆いないから昼からだいじょぶ、と聞いたと思ったが。
前回会った帰りだ。ホテルの壁掛けカレンダーで、銀時は確かにこの日を指していた筈だが。
玄関を開けるとまず神楽が顔を出し、その後ろから、頭部がやたらと大きく見える人影。
光量の変化に目が慣れた数秒後、口の動きだけで伝えられる銀時の言葉に気付く。
『ご、め、ん』
顔の前で合わせられる両手に、苦笑するしかなかった。
俺だって馬鹿な真似をしたものだ。
自分で玩具を仕込んだまま、のこのこやって来るなんて。
実は、妙に疼く一人寝の夜などに時折使うものがあった。はてさて実際問題これを入れて歩けるものだろうか、などと。
挿したまま起き上がっても抜け落ちてしまう。勿論これは自室での話である。感覚よりは物理的な問題だ。これでは歩くどころではない。
そこで俺は考えた。考えた結果、単に普段の褌で事足りる話だったのだ。
「よ。調子は」
す、すとん。襖が開け閉めされる音がした。
助かったと思う反面、諦める覚悟もしておく。
早く突いて欲しいものだが、それはどうせ夜更けまでお預けだろうから。
「お前にゃ負けるが俺も阿呆だな」
抜き差ししていた手を止め、布団から顔を上げる。取り繕うも何も今更だが、なけなしの理性が働いた。
「そんな謙遜しなくたって」
予定変わっちゃったって早く言わなきゃだったね、あっという間でさ、ごめんね。話しながら銀時は近寄ってくる。
素足がとすとす畳を擦る音。そうして目前に付かれた膝をぼんやり見つめた。
「…そうかよ」
返される頷き。疑わしいったらありゃしない。
「して欲しいことあるなら素直に言えば良いのにねえ」
布団越しに腰を擦られ、息を呑んだ。
如何にも物足りない様子で自らゆっくり腰を振っていたと知る。
とっくに俺は、素直に強請る犬だったのだ。
髪を撫でてくる厚い掌を取り、自分の身体と敷布団との間に導く。
こちらからも逆の手を伸ばし、彼の唇を親指でなぞった。
「しかしよく気付いてくれたぜ」
ううん、まあ。のんびり返しながら着流しを滑り落とす様子に胸が高鳴る。
待ちに待った餌の時間だ。
「こんなことあったら楽しいなってのは常日頃あったけどさあ。今日叶っちゃうとは夢にも思わなかったね」
布団の端から、隣に滑り込んでくる身体。そのたくましさに惚れ惚れする。
やっと熱から解放されると思うと、一層身体が熱くなった。
「殻、剥いちゃったの。やりたかったのに」
充分やっただろうと思うのは俺だけか。何せ昨夜もかなり割ったのだ。
「まだまだあるぜ」
銀時は肩をすくめて見せる。
「じゃなくてさあ、誰かさんのこと、みたいな」
俺はあの小さな緑の実か。笑ってしまう。
「手軽なのも良いだろう」
「ひと手間が楽しい、って持ってきたのは誰でしょうか。一緒にやりたかったなあ、準備。丁寧に剥いて、炒ってさ」
胸の奥がむず痒い。
「どうだかな」
間近で見開かれる目。意外と良い造りをしているのに、勿体ない。
「うわ失敗。濁っちゃったみたい。また新しい実、丁寧に剥かなきゃだわ」
「わ、待て」
失礼なことばかりほざきながら、銀時は布団をめくり上げる。
お陰で、自分で慰めていた場所が顕になった。
まじまじ見つめられると流石に恥ずかしい。
押し退けようと突っ張った腕を逆に捉えられ、獣のようなにんまり笑いに、見惚れた。その間に、ずぶ、と抜けかけていた玩具を押し込まれる。
「ん。っふ、あ」
無駄に声を出すのが嫌で、唇を寄せ蓋をねだった。
しかし与えられるのは唇ではなく、ひと舐め。
「む」
くすぐったい。
「美味しく美味しくいただきます。ま、今は味見程度だけど」
座したのが良くなかった。
誰に対してか、高杉は言い訳めいたことを考えていた。
始めから良い所に収まっていたとしても、それはそれで困ったかも知らん。
当たりどころが悪く痛くて仕方なかったのだが、それをどうにかしようとして墓穴を掘ったのだった。
実は、彼がびくりと肩を震わせる様子に銀時は気付いていた。そうと知らない当人は打開策を考えるのに必死だった訳だが。
それらしく腕組みをして左右に身体を揺らし、効果なしと知ると次は前後で試みる。と、その揺れが見事に掘り当ててしまったのだ。
本当に馬鹿なことをしたものだと高杉は冷や汗をかいた。しかし戻した所でまた痛くなるのも癪だ。
そうこうしている内に、やっと銀時の薄ら笑いに気付いたのだった。
後はもう、早くどうにかしてくれと願うのみ。銀時の目線を意識すればするほど腰が強く疼く。
助けてくれ。もう立ち上がれないんだ。
はやく。いきたい。畜生。
溢れるキスときつい抱擁と体温。匂い。それで充分か問われると難しいが、やはりそれらは幸せを引き連れて来る。
改めて濡らした穴を可愛がって貰うお返しに、銀時のものを手で慰めてやった。
「ひとまずこれで勘弁な」
勿論。夜更けが楽しみだ。そんな意味を込め、宥めてくれた銀時に腕枕をしてやる。ふわふわした毛にくすぐられる鼻先を横にずらした後、恥ずかしい事の経緯を白状した。
「それでウチの姫にセクハラしてくれたと」
「悪かった」
「まさかイキそうとか夢にも思わないよね」
酷え奴。
「随分と虐めるじゃねえか」
「嘘お。蝶よ花よと可愛がってるじゃない。それこそ泣いて喜べっつうの」
側頭部に爪を立ててやると、て、と呟いて銀時は身じろぎをした。
「覚えとけよ。俺の恩返しは夜中だ。むせび泣くぞお前」
おお怖、と一層強く抱き付いてくる彼の髪を、そっと撫でた。
「夜兎ってのは甘え上手だな」
無言で向けられる疑わしげな目。お前も下手ではないが。
「俺も面倒見るなら姫っ子の方が良かったぜ」
素直で愛らしい。付け加えると、けっ、と銀時は嫌そうな顔を作った。
「あれ猫かぶってるもん、まだ」
つうか、と彼は続ける。
「普通に照れてたわ神楽。思春期の女の子に何してくれてんだって話」
「兄貴は平気でベタベタしてくるがな」
言いながら自分でも分かった。これは何の言い訳にもならない。
「ちょっと。それ、違うよね」
ねえさ。あいつはあれで無邪気な寂しがりなのだ。
「姫っ子は、兄貴の話なんかしねえか」
「全然だわ」
そうか。
「ワオ、ほんとに茶碗蒸し出来たアル!」
「まだ早いって神楽ちゃん、ちょっと。って、うわあ凄い」
大きな頭をもうひと撫でしていると、台所から歓声が聞こえてきた。
「銀ちゃん、出来たアル。見てよオ」
呼んでるぜ。慌てて着物を掴み立ち上がる。湿り気で引っ付いていたティッシュを剥がし、丸めて銀時に投げた。
「続きは夜中だなあ」
上のインナーを着たままの銀時が気楽で、羨ましい。
翌朝は、卵かけご飯を馳走になってから万事屋を後にした。
「たまには良いじゃねえか。美味いな」
げんなり顔の銀時と新八の肩を叩き、ご馳走様、と手を合わせて立ち上がる。
どうにかしてやっても構わないが、これはこれで今のお前らの幸せだろうからな。
「今すぐどうにかしても良いんだよ高杉くん。ねえ」
恨めしげな声を背で聞きながら玄関に向かい、草履を履いた。
どう言い訳したのか、見送りは銀時だけだった。悪いな、と編笠を受け取る。
「甘いもんじゃなくて、今度から食材を強請るか」
軽い調子で口にしながら振り返ると、いやに真面目な顔があった。
言葉に詰まり目をそらす。含みなどないつもりだったが、彼にだってまだまだ思う所があるのかも知れない。
ふと罪悪感が胸をよぎった。
「銀時、お前が一等大切だぜ。本当だ」
「だろうな」
意外な思いで顔を上げると、頭への小突きと共に風呂敷包みを持たされた。
「船の奴らと一緒に、ありがたく食べなさいよ」
船の。
また子ちゃん、と宛先についてはずっと頑なだった癖に急にどうしたことだろう。
中身の予想はついた。何やら炊飯器と重箱をいじくっていたのを知っている。
「結局あっちはあっちで大切なんだろ。知ってるわ」
まとめて可愛がってやれ。付け足される呟き。
いま自分の手にある包みが、急に愛おしい生き物のように感じた。
こいつ。
随分と甘ったるいもんを寄越しやがる。そう、毒になるほど。
無理しなくて良いんだぜ、とからかっても良かったが、一呼吸置くと素直な言葉が出てしまった。
「手間暇かけて殻むいて、炒ってくれたな」
この俺まで、な。
今じゃこうして、お前の懐の深さが良く分かる。
「そりゃあな」
にっと銀時が笑った。そうして俺が持つ包みを指差した。
「綺麗なエメラルドグリーンの銀ちゃん、ころころ入ってます」
味見したけどかなり美味いよ。
「因みに、愛と手間暇かけて殻むいて、炊き込んだパターンね。それ」
どうやら予想は大当たりだ。俺は大いに満足した。
「そりゃ楽しみだ」
白夜叉は庶民風の美味しい使い方知ってるかもっス、聞いて来て下さいね、と言われていたのを思い出す。
「っつっても他にも色々さ、牽制の意味なんかも混ぜたからな。普通に」
分かった、分かった。
俺は笑った。
それじゃあなと片手を上げ、万事屋を後にした。
通りの賑やかさに紛れ込んでから、そっと編笠をずらしてみる。
そこには万事屋の窓から手を振る三人の姿があった。
彼らに応えた片手を懐に突っ込み、取り出した煙管に火を点ける。
歩きながら、ふと思う。
それなら料理上手なのは俺の方じゃねえか。なあ。
銀時、お前こそ随分と良い色に仕上がったもんだ。
こんな考えに行き着く時点で大概だ。
もうとっくに、毒になるほど食い合っていたらしい。
-toxin-