今朝、松陽にケツ叩かれた。キツめを5発。
同門なんてもんが出来、松陽が「親父」と呼ぶには若すぎるのは自ずと理解した。確かに綺麗だ。はたから見れば優しい人に見えるだろう。
そう意識してから、撫でられると変な気分になるのも覚えた。
俺は反抗期だ。きっとそうなんだ。早く松陽離れをしてやるんだ。
お客用の菓子をくすねてコツコツ溜めてたのがバレた、だけならまだ良かった。
それらの上に被せていたのが割ったまま黙ってた皿で、勿論これもまずいが、更にカムフラージュの仕上げにと包んでいたのが松陽の訪問着、これが決定打だったようだ。
ちぇ、箪笥の奥底に沈んで何かツンて変な臭いして多分腐ってるし、もう着ないけど捨てるのも忘れてる系かと思ったんだ。
あれは少年の気高い自尊心をズタズタにしてくれる。げんこつよりずっと酷い。
流石の俺も堪えたので優しい同門に慰めて貰おう。
我ながら良い閃きだと思った。
「ってぇなボケ!」
と言う訳で、高杉が1人になるのを見計らい、まずは背中に突進。
この瞬間が訪れたのが畳の部屋で本当にラッキーだ。思い切り行こう。
どさりと倒れる。俺の体当たりは完璧だったので、高杉は綺麗に吹っ飛んだ。
「組み手!しようぜ!」
負けられない戦いが、ここにはある。
手より脚の方が何かされたら嫌だなって思うから、そっちを重点的に押さえる作戦。
膝裏の窪みをロックできるように、急いでケツでどっかり乗り上げた。成功。
「こんの!野郎!」
はあ、良かった、上手いな俺。まずは優勢じゃね?へっ。
それでは。
「スペシャルしょーよーエクスカリバー張り手!」
ぺしぃ!凄く気持ちの良い手応えだった。右ケツに大当たり。
ケツが2個あるのって何でだろうね。
「いきなり何だ!今のでケツに穴開いたから、じゅう億万円で弁償だ!」
「穴もう普通にあんじゃん!うんこ!うんこ晋助!」
バーカ!そしたらこうだ!指はこうこう、こうで、発射!
「カンチョー!」
「いぁぁあっ!!!」
甲高い声を上げ、高杉の動きは止まった。
思いのほか、ぐいっと奥まで突き刺さる感触だった。あと柔らかい。
「ぎ、銀時てめえ…」
手を離しても高杉は動かない。横顔を覗き込むと、歯を食いしばり唸っていた。
「あ、大丈夫?ごめん、ねえ大丈夫…?」
顔色が悪い。
畳に突っ伏したまま悶ている高杉が心配になった。
そんなにか。そんなヤバいのか。
「大丈夫、じゃねえ!」
うわ、背筋やりよる!勢いよく高杉の背が海老反りするのを感心して見つめたのは一瞬で、ケツ下の脚がぐあっと持ち上がり、俺は後ろにすっ転んだ。
仰向けに伸び、やべえと思うも一歩遅かった。
ぐえ!今度は腹の上に乗られて変な声が出た。休む間もなく両頬を掴まれ、不可抗力でたこちゅうの顔になってしまう。
「てめぇは!不意打ちもうしねえっつったろ!」
股間を押さえながら怒鳴る姿に罪悪感を覚えた。涙目じゃねえか。
そんなに効くのかカンチョー。
「知りませ、むー!タンマ!無理もう無理!あっ今超最強バリア張った、かっ、ら!お前3秒後に吹っ、飛ぶから!」
がくんがくんと顔を左右に揺らされ、目が回りそうなので白目で回避。
「ぐっ。くくっ、う、嘘つく奴は侍も何もねえんだよ!」
イビルアイの効果は絶大だ。頬を掴む手が緩んだので喋りやすくなった。
「むあ、ぷぁっ、忘れましたー!いつ俺がそれ言ったか教えてくださいー!何年何月何日何時何分何十何万秒の、えっと、地球!が、何回転した日ですか!言わないとお前カスー!」
って、いでっ!
瞬時に額に激痛。今度は自動でイビルアイ発動。無駄に発射するとエネルギーを消耗するので急いでリセット。
歪む視界の中で、高杉も自分の額を押さえていた。
寝転んだまま右足を振り上げキックを繰り出したら、高杉が体制を崩した。
ギリ金玉に当たりそうになってて、それは回避したものの腹で受けてよろめいたみたいだ。
当たってたら俺の負けだったのでオッケー。最後の最後の反則技だからね!
すると、ぐあ、と両足を掴まれ、畳の上を引き摺られる。
まさか、その技は。
「へ、へへ、チビにゃジャイアントスイングは、」
頭が!浮いた!此奴いつの間に会得しやがっ、
「どぅへ!」
と思ったら落とされた。
「はぁ、お前、重い。腐れカボチャ…」
いやでもマジで持ち上げられるとは思わなかったから俺はお前を賞賛する。
「参った」
「っは、俺の178勝目、これで同点だな。ふう」
な、何?ならもう終わりで良いだろうが、
「あんだよ、来んな!こっち来んな!」
ちょっと後頭部がすり切れた感あるから!
「うらあ!ケツで仕返しだ!」
何、なに何なに、
「ギャー!」
ジャンプして思いっ切りのし掛かられると思って目を瞑ったら、俺を跨いだ状態で上手く四つん這いで着地した高杉に、凄い力で身体をひっくり返され俯せになった。
ぐへ、顎ちょっと畳で擦ったあ!
「だから勘弁って!馬鹿!!!」
「食らえ!」
ぺしん!
良い音がしたが、それはただの高杉ビンタだった。
して、されて分かった。喧嘩でも使う技だな、うん。
大人が子供を叱る以外にも需要あるね。普通だよね。
朝からのモヤモヤがスッキリした。
よし、この野郎!
「こらぁ!」
元気に俺もやり返そうとしたその時に松陽登場。
残念極まりない。
2人揃ってげんこつを食らい、全て終わりになった。
うん、やっぱ、げんこつの方がマシだわ。
「ごめん高杉」
「絶交な」
「謝ってんの!」
縁側に腰掛け、仲直りの語らいタイム。
「お前のケツ、ぶったらブタにーよく似てたー。…クソが。そんな痛くなかったけど腹立つな」
「だろ?プライドずたずたになるよな?」
「んなもんしてくんなよ」
「お願い、一生のお願い。許して、そんで愚痴らして」
「何だよ。いやまだ許してねえが」
と言いつつ聞いてくれるっていう。
「今朝、松陽にお尻ペンペンされて超凹んだ」
ため息。
「…ちょっと許す。ああ。分かるぜ、俺もされた事ある」
「流石ー!」
「松陽先生のは痛そうだ」
「超いてえよ。受けてみろって」
「腹いせに人のケツ叩くなよ」
「お陰で慰められた」
「ふん」
「ねえケツってさ、何で2個あるか知ってる?」
「1個だろ」
「右と、左と、ほら2個じゃね?」
「ううん、そうか」
「分かった、カンチョーから守るため」
「重要だ」
高杉が急に真面目な顔をしたので内心慌てた。
「痛かった?」
「怒るぞ」
ヤバい。やめよ。
「金玉らへんとは別で、ケツも反則無しってので良い人?」
「フン。はい」
ふてぶてしくも挙手。
「カンチョーはどうする?」
「反則だろ」
「メチャクチャ痛そうだったから俺も嫌だな。反則で決定だな」
「待て、体験した奴同士で決めなきゃダメだろう」
「え、良いよ」
「俺だけの弱点かもしれないだろ。お前が平気だったら、…あ?くそ。はあ」
「ヤダ、反則で良いよ、ごめん。高杉ごめんね」
怒らせるの嫌だし。
ま、ほんとにほんとの必殺技って事で。
高杉の涙目を見た時のムズムズも一緒に、何か怖いから、取り敢えず封印しておく。
さよならカンチョー。