水辺へ行こう ▲

いま金ないー。
はは、俺も。
晋助ってバイト代何に使ってんの。
普通に生活費の足しかな、あとジムたまに行く。
ジムぅ?!えっ高くない?
学割とか夜コースとか、案外払えるぞ。言ってもお前の財布は殆ど酒代だろ。
失礼なーレストランでパフェとか頼みますーあと余ってれば本買うかな?
それな。
金は無いんだけど、って言うか主題はそこじゃないんですよ晋助くん。あのさあ、どっか行きたくね?
どっかって銭湯?スパ銭?
悪くない!もう一声。
海とか?
無くはないけど日なたのリア充ぽくてしんどい。水量小さくしようよ、池!
ベンチで缶ビール飲めるしな。
ストップ、やめます。お出掛け的な!2人でお出掛けしたいの!
したいな。
だろ?ちょっと水増やして湖?
良いな。
デートっぽいじゃん、行こうよ湖。
どこ?
び、琵琶湖…?
髪と違って変なところでド直球だよな。
失礼じゃない?ねぇ一言多くない?俺そんなアウトドアじゃないんですよ、街ボーイですから。
湖じゃなくても良いけど、滝とか。水っぽいとこ行こう。
晋助攻めるな?
外に出るのは良いと思うんだよな。
意外だな晋ちゃん。いや…それさぁ、元カノとも結構どっか行ってたでしょ。
学割とか今しか使えないし。
はぁ、彼氏力…。免許取ってるんだっけ。
ん。そうだ、レンタカーは学割使えるとこあるぞ。
そろそろ腹立つな。いつ免許取ったの?
ええと去年の夏休み、合宿するやつで。
それでマジック起こしちゃう奴らいるよね腹立つ。
仕方ないさ。
え?
割と朝から晩まで一緒に頑張る訳だし。
え?元カノ?
行こうぜ水っぽいとこ。
え?…。魔法使いここにいたァ!くそっ。何だよ、行くなら教えてよ、もー、そうやって勝手にさあー。
まだ俺ら他人だったろ。

まあ、じゃあ取り敢えず湖ってんで良い?
おう。連休は外すか。
だね、夏休み中には収めたいけど。
俺は過ぎても全然良い。秋になってからでも良い。
暑いの苦手だよね、夏生まれなのにね。カルピスソーダ要る?
ん、悪い。
今飲む振りだけだったろ。バレバレだから。人の好意を無下にしやがって。失礼しちゃう。
お前のはいつも甘いんだよ。もっと澄んだもん飲まないと血液ドロドロになるからな。
それな。春の健康診断さ…尿検査ヤバかった…。
ほら見ろ、お前はこっちだな。
これそのまんま飲めるんだ。辛っ!炭酸きつっ!
それさ、俺好きでよく飲むんだけど。講義に遅れそうでリュックに入れて走って講堂に行った日があって。間に合ったんだけど。
2号館?
そう。で、後ろの席に着いて、キャップ開けたら。
スプラッシュ?
見事に。
…1番後ろ、凄い居そう。黒いオーラ出してそう。
あ?
実は良い奴だから声掛けろよ。
たまに何か放水ぶちかましてくるんでしょ。
マジで凄かった。
前にいた人かわいそ杉。
ちょっと掛かってたな。でも気付いてなかったし、俺よりは良いだろうと。
セルフスプラッシュ?
顔に直撃だったよな…。目に入ると痛いんだ、かなり。
うわあ。痛そ…。
無言で顔拭いたよな。結構なダメージを受けた。
んな危険物を飲ませんな。
で。そん時、斜め前に座ってた奴、銀パだったなって話。
ギンパ?俺か!
そう、銀パー。
何の授業、ってか今年?
去年の、後期の。
教養? あぁ、あー!知ってる、見てたわツンツン系ボーッとイケメン!
だから、良い奴だから声掛けろって。
いやそれこそ他人だったろうが。お前の声掛けづらさ伊達じゃないからね。後ろ振り返るだろ、顔綺麗だけど無表情、後ろ全面窓だから逆光でダークさ増、いけ好かないし超怖いからね。
ウィルキンソンの泡、銀パの頭に少し乗ってたぞ。
は?バカじゃないの?ちょっとやめてよお!予想だにしない着地点だったわイヤほんと。
ははっ。変な奴。
お前にだけは言われたくねぇ。

で、やっぱ泊まりだよな。
ハイハイ本題ですね。畳でちょっとボロくて、旅館!って感じでも良いよな。あと安さ。
そこ重要だからな。 こう言う都心からもどうにか行きやすい自然系ら辺ってラブホも多いけどな。
そっちの選択肢か。確かにね、ビジネスホテルより安いしね。あぁ…そうか…悪くないよね。
温泉も良い。
良いね艶っぽいね。もっかい調べてみよっか。
ん。
因みに?
温泉で。
ぷぷ、まだ若いのに。
温泉良いだろう。ダラッとして酒飲んで、な。
あ、湖からもーちょい先だけど洞窟あるって。
探検?
こっち地方で1番ヤバいって。
クマでも出んのか。
じゃないけど。いやどっちかと言うと人が勝手にヤバい。
ん?
階段が、200段。
行こうぜ。
流石の切り込み隊長だな。見てよこの人のブログ。これ上からドッスンとか落ちてきたらサヨナラだよほんと。
ヤバいな。 よくここに人呼んで商売する気になったって話だよな。 足場とか…作る為にいくつの命が…確実にあったな、色々。
ちょま、勘弁、ほんと。ストップ!

後ほど生協で ▲

また寝てんの、置いてくよ。
シャワーから戻るとベッドに真っ直ぐ伸びた足。上半身に被ったタオルケットを剥ぐと、ぱっちり目は開いていた。
「うぉ怖、人形みたい」
「驚け銀時。俺は今日、午後からだ」
「はああ?ちぇ、憎たらしい嫁人形だわ」

伸びをしながら高杉は自分でタンクトップを捲り上げ、白い脇腹を掻いた。
寝巻きにしてる白いワッフル生地のタンクトップ。これは俺のお下がりで、もう要らねえかな、とその内まとめて捨てようと思っていた物を我がボロアパートで掘り出した後、しれっと部屋着にしやがっている。
微妙に悲しい話で、こうして彼が着ているのを見ると、まだ全然着れる良い服じゃないのと思ったり。

首を仰け反らせて欠伸している姿が動物っぽい。
ねえ、ちょっと見えてるそのおっぱい。触って欲しいの?
「良いから。今そういうんじゃねえから。…てか、筋肉付いたと思わねえ?」
何だ、その自慢げな顔は。
誘惑に負けて細い身体の上にダイブ。
へそ横らへん、肋骨が目立たない部分がほんのり柔らかくて気持ち良い。

寝起きの身体は熱い。子供かお前は。
脇腹からへそ下を撫で回して掌でじっくり味わって、首筋に鼻を埋める。
「重いって。コーヒーくれたら起きるから」
くぐもった声が何だかもう砂糖入り。
ああ行きたくねえ、が流石に時間。
「…銀時ぃ」
離れて立ち上がると、また欠伸しながら両の掌で自分の薄い胸を撫でていた。

俺の置きパンツどこだっけ。
寝返りを打ちながら伸びをする脚の片方がベッドの側面に沿ってずり落ちる。
いけ、そのまま…小さく祈ったら本当に、どさ、と落ちた。脚に引きづられて体ごと。
「うっ」
小さく呻くのが可笑しい。近寄ってその上に立ち、太ももと尻の境界に足を乗せた。指で揉んでみたり。

「汚ねぇな」
可愛げのない反論も抜け目ない。
お前と違ってもう銀さん綺麗キレイしましたー寂しいから起きろバカ。
足の指って、意外と器用なんだよな。ぐー、ぱー、上手く肉を掴めると面白い。
パンツの裾から親指を差し込んで擽る。外に出ている部分より湿って、もう少しだけ、熱い。

そのままパンツに挟まれて突き進め俺。
ふよん、と柔らかいものを後ろから撫でる。
無言。あら感じませんか。
可能な限り優しく、ぎゅ、と趾の関節を折り曲げると薄い皮をつねる形になってしまった。

「いっ!」
床に落ちた姿勢のまま体を丸めて悲鳴。わ、わ、ちょっと、今のはマジでごめん。
「良いから、コーヒー!」
下からの鋭い足蹴りに、俺は声も出ない。

「淹れたからな、もう知らないからな!自分で起きろよ!?午後、学食な!」
優しい俺は怒鳴ってから高杉の部屋を出る。

今日は、生協でレンタカーと学生旅行のチラシを漁るんだぜ。

お気に召すまま ▲

2日間カーをレンターして?都心から3時間、運転はずっと晋助。
意外と安定した走りだった。高速を走る間はバイトの出来事とか地元の友達の笑い話とか、ぽつぽつ話していたがやはり眠くなってしまった。
アクセルを踏む脚、ハーフパンツから覗く白い腿。

「銀時、トイレは」
目覚めると森の中に突然現れた遺跡みたいなだだっ広いパーキングエリア。
車の埋まり具合は半分くらい、連休にこんなんでやってけるんだろうか。
落ち着いて運転しているように見えたが、聞くと晋助は「緊張したさ」と苦笑い。

トイレね、行く行く、言われてみたら超行きたい。
車を降り連れ立ってトイレして、物産コーナーを冷やかす。
こんにゃく?びわ?卵巻き?…懐かしいと見せ掛けて見慣れない物が溢れているような、この感じ。俺は面白いと思う。
晋助が手にしているのはレモンワイン…って飲酒!
「しないさ、これは夜にな」
あら嬉しそう?

ラブホも迷ったけれど、結局安さで決めた宿を取っている。
ホテルと名乗っているがほとんど民宿。
晋助はあるだろうが、誰か他人と一対一で宿泊だなんて、実を言うと俺は初めてだ。
正直どこでも良くて、例えどんなにボロ旅館が出て来たとしても浮かれ続けると思う。
俺も伸びをして、再出発。

さて。もう寝ないぞ。
いずれ免許を取る日の為にも、こいつのハンドル捌きを穴が開くほど見てやる。
決意して15分後には曲がりくねった山道に差し掛かり、今度は見事に酔ってしまってダウンだった。
「頑張れー」
ぼそりと呟き白い太ももを揺らし続ける晋助。
辛うじて呻きを返すと、俺の側の窓が開き風が吹き抜ける。
見上げた空は、覆い被さってくるような木々に縁取られていた。
とポエミーな事を考えかけて、やはり具合は宜しくない。
いつにも増して死んだ表情の俺の目に冷たい手が載せられた。
「目、閉じてろ」
はい。銀時くん良い子にします。うえ。
本当は、離れていく手に縋りたかった。

目を閉じても分かる、揺れる揺れる。意識するから辛いんだ。
何も考えないように、瞼の向こうに映る世界が真っ白いスクリーンになるよう努力した。
大きさは、晋助の部屋の、ベッド側の壁いっぱいくらい。
俺の部屋は安さ重視の畳御殿だから無理だ、壁がざりざりしている。
そのスクリーンには誰かさんのお尻が浮かぶ。

フロントガラスから降り注ぐ葉っぱ越しの光は、俺のまぶた映画館で、小さな浴室の湯気に変換される。
その向こうから、晋助の白いからだ。
…これじゃあ全然落ち着けねえ。
車は長めのカーブに差し掛かったようだ。
傾きに合わせて隣の太ももに手を伸ばした。冷んやりすべすべ、薄い腿の毛の感触。

「うう。晋助ぇ、まだ?」
指先で肌に小さな円を描きながら尋ねると、思ったよりも情けない声が出た。
それでも何だかマシになったような気がする。
勢いを付けて体をシートから少し起こし、シートベルトの金具越しに顔も寄せようとしたが、ぐいと左手でシートに押し戻された。
「危ねえだろ。次を…右折、するまで、あと10キロ。よし寝ろ」

実際の所まだ気持ち悪くてシートに伸びた。
何度か深く深呼吸をして、運転の合間に冷たい手にこめかみの辺りを撫でて貰って。後は浅い夢の中。
「オラ、到着」

また低い声に起こされると案外良い宿だ。
老舗故の賞賛と、清潔さや今風を求める人々からの文句、ネットではどちらも伺えたが、さて恋人の感想は。
「ってぇ、痛っ!」
「最高だな銀時!」
嬉しいのは分かったけど、人のお尻で喜びのリズムを奏でないで下さい。