こっそり抜け駆けでやっている鍛錬から戻って来ると、洗面所で幼馴染達と鉢合わせた。
いつの間に夏は終わったんだろう。 朝の廊下は静かで、きりりと冷えていた。
周りを見回すと他には誰もいない。言うなら今だと思った。
「あのさ」
訝しげな目を向けてくる高杉。それでいて、縋るような色も感じた。
「お前らさあ、結局どうしたいんだよ。一回はっきりさせよ、ほんと。俺も普通に困ったりすんだからさ」
俺だって、普通に苛つきもするのだ。
最近は特にとばっちり感が酷かった。なので思い切ってきつい声を出してみた。
実は僕達ホモくんで、愛し合っていて、付き合ってます。
自信を持って言えない。まだ、それと自覚できない恋心や独占欲の上に成り立つ関係なのは分かっている。俺も同じなのだ。
何時かはしれっと、互いに女の恋人を紹介し合うのかもしれない。
でももう少しだけ、今は。分かってる、分かってるんだ。
「昨夜また聞かれたんだって、辰馬に。他の奴もさあ、モヤモヤはしてると思うよ」
だって声たまに聞こえるもん実際。小声で付け足すと、高杉の肩がびくりと上がった。
「宣言しちゃえば。なあヅラは。…ドヤ顔うぜ」
嬉しそうな顔すんな。どうせ話題にされるのも一興、とでも思ってるんだろう。
「じゃ高杉。…嫌だよねえ」
みるみるうちに仏頂面になり、そっぽを向かれてしまった。
まあそうだわな。ヅラの神経がイカれているのだ。
お前の気持ちは間違っちゃいないと思うよ。
「付き合うも何も。実はいま重要なのは其処では無い。俺はな銀時、苦言を呈したい」
「何よ。てか俺ェ？！何で？！」
「お前の一物が立派すぎて、此奴のケツが少々我儘になってしまったのだ」
黒髪をぱさ、と振って勢い良く高杉は隣のヅラに顔を向けた。
「ヅラっ！」
そう、あの夜はとても善かった。
顔を真っ赤にしてヅラに掴みかかる姿に、俺まで頬が熱くなる。
それなら早く呼んでくれれば良いものを…遠慮してやっていたのに。
手段は変わったが、また三人で楽しめる遊びを知り俺は満足していた。
自分が倒れそうになったらヅラの胸に飛び込めば良いし、愛でたければ高杉を抱き締めれば良い。
あの夜のお陰で、何となくどちらからも決して拒否はされない確信を持っていた。
だから、二人の気持ちを見守るつもりだったのだ。
三人で遊んだ夜の話は、辰馬にはしていなかった。
「晋ちゃん。俺のちんこ、忘れらんなかったの？嬉しいな」
ヅラの襟首を掴んでさっさと場を去ろうとする背中に急いで手を伸ばす。
まともに会話出来る程に機嫌が戻るまでは日が掛かった。
やっと最近また喧嘩するようになった所だ。
俺の言葉に動揺したのか、難なく捕まえられた。
「ね。ヅラじゃ、足りない？」
甘く聞こえるよう精一杯お澄ましして、ゆっくりとその耳に囁く。
「失礼しちゃうわ、全くもう！」
高杉の手が外れて自由になったヅラは、引き摺られ掛けていた姿勢を直し腕組みをした。
言葉とは逆に何故か嬉しそうだ。
「気持ち悪ぃな」
「特に緩んだ訳でも無いがな、以前は俺が入れれば直ぐ蕩けていた奴が一丁前に、倒れなくなった。それなら締めて俺を喜ばせてみろと言えば、それは聞か…っぶ」
ヅラの言葉は、鬼の形相をした高杉の手に塞がれて止まった。
そう怖い顔されてもなあ。色々見ちゃってるから何とも。そりゃヅラの口も止まらんわな。
「笑うな銀時！」
「いてて、ごめんって」
「き、気合入れろっつうなら触るなってんだよ！いつもいつも手が煩え！気が散るんだよ！」
必死に吠える姿がクる。
その頬を両手で包み此方に向かせると驚いた目。間近で見る程に綺麗な顔しやがって。
見慣れているから好きなんだろうか。
俺には美男子の馴染みが二人もいて本当にありがたいことだ。
「ヅラ…もうちょっとさぁ、聞いてやった方が良いんじゃない、色々と」
「高杉にか」
「そうよ。頑張ってはいるんじゃない？一応さ。前までヅラとだけだったでしょ、んで俺としてから、何か変わっちゃったと」
「…その通り」
「やっぱさ、戸惑うもんなんじゃない。もしかしてさ、此奴が慣れない中で頑張ってる所をヅラお前、変なタイミングで急かしたりしてんじゃね？」
「……」
黙る高杉、目を丸くするヅラ。やっぱり。
「なあ。その、また皆でやってみねえ？」
いや邪魔なら別に良いんだけどさ。 ほんとほんと、気にしないで。
「なら俺は銀時にして欲しい」
「え。お、おお」
即答ってお前。今の一言はちょっと勇気が要ったんだぞ。
「ダメだ高杉、お前はまた贅沢になる」
「ヅラてめぇ…！」
ヒクヒクし始めるこめかみもどこ吹く風、そこにヅラから優しくキスが落とされた。
「気にするな銀時。お前を食うのはこの俺だからな」
「俺？」
「頼んだぞ」
「俺はヅラに入れれば良いの？今度は高杉、真ん中じゃないんだ」
「フン、ヅラにはまた俺が入れてやろうか」
「結構だ」
ちょっと、それはヅラ。
「ぷっ、酷ぇなあ」
「酷いって何の話だ」
「何でもないです、どうぞお気になさらず」
「分かるぜ銀時、マジでスキモンだからなこいつ。ヅラてめえ、俺に失礼だ」
「そっくりそのまま返してやる。しかしな、とんだ誤算だった。まさかこんなに気に入るとは」
「じゃあさあ、お前ら挿れ合えばいいじゃん」
「結構だ」
「ヅラてめえ！！」
襟元を掴んでガン飛ばしたって、もう俺らには効かないんだけどね。
「わ、高杉くうん、大丈夫？よしよし落ち着こうね。良い子だからね」
「此奴なあ、昔からこういうトコある奴なんだよ！腹立つんだよ！」
確かに。あの夜は高杉の初物喰って、満足そうだったけど。
手塩にかけられてオトコ役もプロ級になってるかと思ってたけど、あんま変わらないのね。
「銀時ィ、ジャッジしてくれよ」
「何を」
「まあ俺の勝ちだがな」
「何でヅラが照れてるの？」
いやマジで何を？俺は何をすれば良いの？
「銀時のが立派なのは分かった。しかしこの通り高杉はまだご機嫌斜めだ。後は分かるな？」
「いや何から何まで分かんねえ」
「今この場に、入ってない奴が一人だけ居る。俺とヅラを比べられんのはそいつだけだ」
何カッコつけてるの…密かにキュンとしてしまう。その自信は一体どこから湧き出て来るんだか。
散々泣かされてきたんだから、百歩譲ってその話を俺が受けたとしても勝ち目なんかありませんよ。
なんて口に出したらボコボコにされそう。おお怖い。
「ま、取り敢えずやってみよっか」
「頼むぜ銀時ィ」
なんて嬉しそうに笑うんだろう。馬鹿な子。
「俺の部屋、まだ布団上げてないよ」
抱いた高杉の肩は、こんなに細かったろうかと思った。
ヅラの顔色を伺うと全面からゴーサイン。
「朝イチも悪くない。…因みに俺も高杉も急ぎの予定は無い。オホン、午前中はな」
「顔洗ってからすんの怠いけどな」
俺の手をすり抜け、飄々と歩き出す背を追った。
ね、物を掴んでるとリラックスできるって聞かない？
ガム噛むと集中力が上がる類の話か？
ちょっと違うけどお、あ、でも体の連動的なアレか。そうかも。
ふむ。そんなものか。
「ってことで高杉、あんよちょっと失礼」
「は、何…」
崩れかけた四つん這い姿勢で、どうにか理性を保っている高杉。
ヅラにどいて貰って、今度は俺が入れる番だ。
もう少し脚を広げてくれないと俺にはやりづらかった。
最初に高杉が端っこ、その穴にヅラ、の穴に俺、でやった。
気持ちよかった。
人肌に触れてきちんとするセックスはそこそこ疲れると言うか、一回でもまあ満足だったりするが、ヅラだけ本当にケロッとしているのが不思議だった。
二人でしている時もどちらかと言うとそうだった。
持久力タイプかもしれない。マラソン系。 対する俺と高杉はパワー系。
そう言えば。あるAVで見て、気になっていたことがあった。
あれを試してみよう。ふと思い出し、わくわくした。
高杉に、両手足それぞれでバスタオルを握らせる。
そこからヅラと手分けして、その両手足の指の間にバスタオルの折り返しを挟ませる。
出来上がった姿は、ピンで張り付けられた蝶の標本に何処と無く似ていた。
握るものができて、高杉の身体から強張りが解けたようだった。
「高杉、分かる？タオルぎゅっと握って。そんで中も力、入れる。そう、ん、イイ…ね」
「締まるのか？」
「んー、ちょっとはね。はい、良いよ、落ち着いて」
「が、頑張れ…」
「ぶ。マジで母ちゃんじゃん」
「俺がついてるからな」
「ちょ、笑うから。高杉、ほら息吸って…お尻も吸い上げて…」
宥めるように、やさしく声を掛けてやる。
高杉の中は、埋めた指先におずおずと食い付いてきた。
自分は体験したことが無いが、それでも理解しようと努めるのは大事だ。
何と言っても俺達を愉しませてくれる極上の身体、もとい大切な仲間なのだから。
厭らしくて可哀想で、堪らなく愛らしい。
その表情を舐めるように観察しながら、想像力を最大限に掻き立てて応援してやるのだ。
ヅラに代わって高杉の中に押し入ると、慣れたものとは別の感触に焦っているように感じた。
「んっ、あっ、や。…ひぁっ！」
ゆっくり抜き差しを始めると、変に硬直する。
「おい！」
小声ながらもつい苛ついた声を出してしまう。
犯人はもちろんヅラだ。もう少しだけ見守って欲しかったのに。
高杉の股間から離れ、わざとらしく両手を広げて見せる澄まし顔にイラッとしつつ、キスをした。
「だから。タイミング考えたげてよ」
断続的に小さく震えていた高杉の身体が、一際強くぶるっ！と短く震えた。
「すまん、ついな。高杉、これではダメか？安心してお尻の運動をするには、どうして欲しいんだ？」
「このままで、い、い」
顔を撫で回すヅラの指に甘えるように自分から顔を寄せる高杉は猫みたいだった。
ヅラだけ狡い。俺も、俺ももっと懐かれたい。
四つん這いからぺしゃと潰れ、ずるずると左右に広がり始める脚。
まんべんなく目を滑らせると、その足指はいじらしくタオルを握リ続けていた。
なんて可愛いんだろう。舌の奥がじんわり熱く感じる。
「ゆび、握っててね。頑張って」
俺を、もっと吸って。
素直に拳が握られ、タオルに皺が寄る。
ゆっくり吐かれる息に合わせて上下する背骨。
タオルを握り締める拳がぷるぷる震えている。
きし。小さく布が擦れる音に耳を澄ませていると、ぎこちないながらも中が、締まった。
「あ…上手。それな？」
今のこの感じ。ぴったり高杉に吸い付かれている。
それがふと緩んだ。
「高杉？」
耳元に息を吹きこんでみた。ん、あっ。
ゆっくり、また絞り上げられる。熱い。気持ちい…。
あれ、もう完全にマスターしたんじゃないの。
「ふふ。流石だね、晋ちゃん…」
後ろから抱き締めると、また一つ熱い息を漏らした高杉の身体はいよいよ潰れて突っ伏した。
仕方無いからその上にぴったり乗る形になってしまう。
うつ伏せる高杉の頬を撫で、その正面に座したヅラは太ももで小さな顔を挟み込む。
「んう！っぐ。む…う、ん」
一体何を喰わせているのやら。
布団との隙間に手を差し入れて脇腹から鳩尾を撫で擦る。
そっと触れた乳首を強めに捏ねると、また中が程よく締まるのだった。
終わった後、高杉の指の隙間は擦れて赤くなり、ちょっとカサついていた。
「なんだよ」
文句は垂れるが、もう抵抗は無い。
その右手を取ると大人しい。それなりに疲れたのか、されるがままに腕を預けてきた。
指の間の小さな空間が急に愛おしく思えた。なんて可愛い隙間だろう。
そこに俺はキスをした。
尖らせた舌をそっと差し込みひと舐めずつ。優しく愛撫してやる。しょっぱかった。
顔を見上げると、口をひき結び仏頂面をしていた。もちろん真っ赤である。
ついくすりと漏らしてしまうと、自由な左手が持ち上がるのが目の端に映った。
ヤベッと怯んだ瞬間、その手はヅラに捕らえられる。
ぽす、と音がして、さほど威力も込められていなかったことを知る。
慈しむように高杉を見つめるヅラもまた、何だか愛しかった。
捕らえられた左手はヅラの口元へ。
ヅラは、隙間には触れなかった。代わりに手の甲へ、唇で優しく触れた。
そうして高杉の左手を解放し、滑らせる手は脇腹を降りて股間を撫でる。
身体を起こすと、続けて太ももの内側をなぞり、くるぶしをくすぐった。
俺の手の中にある高杉の右手から、ぴくりぴくりと断続的に震えが伝わってきて胸が熱くなる。
息を呑んでヅラの手の動きを見守った。
そうして行き着く先は、足の指の間。
「ふ、っう。や」
始めに親指と人差し指の間を白い指がそうっと厭らしくなぞると、高杉は小さく鳴いた。
右手を握り直し、また俺もゆっくりひと舐めずつ。
俺は俺で、埋めてゆく。
もう少し、ほんの少し、俺達の心の距離。
本当にすっかり埋まってしまったら。
きっと、それは幸せなことだ。
余す所なく可愛がられ、また高杉は股間を透明な涙で濡らし始めるのだった。