正直あいつらが疎ましい。
何くれと高杉に世話を焼く桂も、そんな存在がいかに有難いか分かっているのかいないのか、当たり前に桂の好意を受け取る高杉も。
二人の間には、自分には入り込めない血の繋がりのような何かを感じる時がある。
疎ましい以上に胸にある強い感情、これが何かと言われると難しい。
いま知る中で最も近い言葉で言うなら、羨ましくて、腹立たしかった。

ある晴れた夏の昼下がり、銀時はどうにも落ち着かなくて一人海を見に来た。
カモメに混じって白い鷺が水面すれすれを飛ぶ。
海面から一度離れて浅瀬に立ったと思うと、見ればその嘴には小魚が二匹挟まっていた。
上手く取るもんだ。一度に咥えて欲張りな奴…想像したら喉の奥が苦しくなった。

その夜。
軍議も良い具合にまとまり、その分きっちり疲れもした。のんびり酒でもと桂の部屋を訪れると中から掠れた声が聞こえる。
どきりとして障子に手を掛けたまま耳を澄ませ、ふと理解したのだった。
二人の空気から何となく、全くの寝耳に水という訳でもなかったが、やはり衝撃だ。
いよいよ置き去りではないかと寂しく思う自分と、これは大層面白いと胸を高鳴らせひっそり笑う自分。

何故笑うか?
兄弟の様な結び付きには負けるが、あの二人それぞれから自分に向けられる気持ちも確かに感じているからだ。
桂からは信頼、高杉からは普段の喧嘩腰で隠された羨望。そして淡い恋慕、のような。
それならそれで関わり方を考える余地がある。
能天気で好奇心旺盛で、銀時は十分に健全な少年だった。

 

桂に教えられた遊びは、正直嫌いじゃない。
ただ余り嵌ってしまうのも恐ろしくて、取り敢えず始めは嫌がって見せることにしている。

先月要所を奪ってからというもの、戦は落ち着いていた。
戦況の好転とは逆に体調を崩して暫く養生していたが、今朝からはすこぶる調子が良い。
そこで幼い子を持つ母親よろしく世話をしてくれた桂に、体慣らしをしたいと嘯き、初めてこちらから誘ったのだ。
驚いた顔をされ、高杉は内心慌てた。昨夜まで病人面の面倒見てやってた奴相手にそんな気分になれってのも酷だよなと苦笑し、冗談で終わらせるつもりだったのだが。

夜になり、軍議に顔を出して必要な事だけ伝えると後は銀時と桂に任せた。
向こうの交渉を待ってる暇があるなら彼処でもう一発やろうぜ。配置は任せる、まとまらなきゃたたき台で良いんだ、出来たら見せてくれ。

今なら勝てると思っていた。押せる時に押さなきゃ駄目なのだ。
広間を出て暫く縁側でぬるい風に当たった後、桂の部屋に勝手に布団を敷いて寝転んだ。

「確かにお前には才があるがな、いつも鬼の言いなりだと皆の肝っ玉は冷えまくりだ。たまにはあのように任せてくれると安心する。…臥せっている間に大人になってしまったか」
やれやれと肩を回しながら桂が部屋に戻ってきた。自分の拙い誘い文句に対し驚いたものの、そうか待っていたぞ、と優しく微笑んでくれた桂が。
「叩くと言っても、交渉はしてみるだろう?その時は頼むぞ、高杉」
「任せとけ」
楽しみだ。笑いを漏らしながら布団の上で膝立ちになり、桂に腕を伸ばした。
屈みこむ桂に抱き締められ、その滑らかな髪にこっそり頬ずりをする。

久しぶりだから、と何時にも増して優しく触れられ焦れた。
座したまま後ろから桂に抱かれ、肌蹴た夜着の隙間からやわやわと唇と指先で撫でられ小さく唸っていた。
裾から脚の間に差し入れられる手が冷たく感じる。太ももをなぞり上げ、やっと褌まで来たと思うと指先でそっとなぞるだけ。
仕方ないから後ろに首を傾けて唇を強請る。そこに桂のものが当たると同時に、褌の結び目が解かれる。やっと。

うっとりと続きを待ち侘びていると急に桂が声を出して驚いた。
「銀時、来ないのか」

「…良いのかよ」
耳を疑ったが、障子の向こうから返ってくるのは確かに銀時の不貞腐れ声だった。
「勿論だとも」
言いながら桂は夜着の中から取り出した手で顔を撫ぜてきた。その流れで髪を整えられ、逆に乱れかけの夜着は襟元を掴み一気に腰まで降ろされる。
いま気付いたが、首元が何箇所か、ちりりと微細に痛むのだった。
障子が開いたと思うと、不機嫌そうな目の銀時が立っていた。
羞恥心から目を逸らすと、彼はふっと笑った、気がした。

廊下の向こうをそっと確認してから障子を閉め、銀時は自分たちに身を寄せてくる。
なあ食える木の実ってこれだっけ、そんな会話をした幼い頃の日のように、ごく自然な仕草だった。

彼を待つ間、桂は高杉にしてやったのとは逆に、自分の夜着の襟元を直していた。そうして美しい髪も、大して乱れてなどいないが手櫛で片方に纏めて流した。
狡い奴。自分は清廉に見せながら、俺を弄ぶ。
お前が大切だと囁く割に、その俺をいつも乱れた存在に見せたがるのだ。

只ならぬ空気が耐えられず、目線を落とし畳のささくれを何となく見つめていた。
すると細い指に顎を掬われ、間近に迫った銀時の顔を見つめる事になる。

「これが自慢の秘蔵っ子って?まだまだお師匠さんには程遠いんじゃねえの」
低く話す銀時の目が冷たく感じて怖い。なに、何の話だ。

「ふ、侮られては困るぞ」

 

片方は優しく舐めながら、もう片方の乳首は指でぎりりと抓り上げる。
桂の白い手は存外容赦が無い。
暴れようにも、左手は正面に座り直した桂に指と指を絡められ、右手は桂と交代で己の背後にぴたりと張り付いた銀時に強く押さえ込まれている。

「成長したと、きちんと銀時に見せるんだぞ、でないとお前のここは千切り取ってしまうからな」
出来たらご褒美、との言い方も迷ったが、これだけ怯えている高杉は桂にとって珍しかった。
可哀想に。憐れみながらもぐしゃぐしゃに虐めたくて、胸が高鳴る。
微かに首を上げ、怯えた上目遣いでこちらを伺われると堪らない。

桂はさっと真横に伸ばした腕を振り、高杉の頬を掌で叩いた。ぱん、と良い音がした。
「早くしろ高杉。悪い子だ、それでは大きくなれん」
涙で滲んだ両目が見開かれる。ああまた、そんな目を俺に向けるな。
奥歯の向こうで唾液がきゅうっと溢れて、背中で髄液が沸き立つのが分かる。

自分の美しさが最大限に引き出せる様に、桂はゆっくりと笑いかけた。
愛しいお前に言われてしまったら興醒めだが、俺は各方面から美少年の名高いのだ。ほんの少しだけ知っておくが良い。

「高杉。分かるな?」
胸に当てた指先を緩めて安心させた後、もう一度小さな乳首を捻りあげる。
緩急を付け、それでも本当に怪我をさせない様に細心の注意を払う。斜め上へ摘み上げてから抓る、引っ張る、爪の先で鋭く潰す。
「いた、い、ああっ!嫌ぁっ!」
絡めた指に自然と力が篭り、甘えてしがみ付かれる様に感じた。よしよしと柔らかく握り返す。
観念したのか、虚ろな目で桂の胸に顔を寄せてくる。
そうだ、そのまま。上手くしゃぶれよ。銀時にも見せてやるのだ。これからは二人でもっともっと可愛がってやる。
興奮で喉が乾いた。

逸る気持ちを抑えて高杉の乳首をまた抓って小さく鳴かせた後、頬に優しく手を当てた。
瞳を覗き込むと慌てた様子で逸らされる。しかし唇は従順に桂の乳首を弱く食む。

「上手だな…」
頬を撫で、薄い瞼にそっと指で触れてやった。
小さく出した舌先で必死にちろちろと舐める姿は子猫の様だ。たどたどしい舌の動きがくすぐったい。

「あ、高杉、もっと舌を。全体を、押し付けるんだ」
ん、ふふ、そうだ。
「そう。そのまま舐め上げろ…」
目を閉じて、必死に従う様にひたひたと心が満たされる。
「唇を俺の胸にぴたりと」
そうだ。
「…吸い上げろ」
ちぅ、ぺろ、ピチャ。
目尻に涙を溜めて小さな水音を立てて己の胸を吸う姿に、感覚そのものからの刺激よりも、桂は恍惚とさせられた。

 

少し前までは自分の股間を舐めさせ、逃げないように頭を押さえ付けていたのに。その手で、今度は優しく胸元に導き赤子の様に吸わせる。
慈愛に満ちた母の眼差し。男か女か、桂の美しさの方が余程怖い、と思うが高杉はいつも女役だ。
頭の芯がぼうっとしていた。
「可愛くなっちまってまぁ」
後ろから銀時の声がぼんやり聞こえる。

「そうだろう。此奴はな、少し厳しくした方が良いのだ。きちんと躾ければこれこの通り仔猫になる」
少し?いつもよりずっと厳しいのは気のせいだろうか。
「…こいつも可愛いけど。俺が言ってんのは、その母ちゃん」
銀時は背後から高杉の身体の前側を撫でつつ、桂の目を覗き込んだようだった。
首から胸、脇から腹へと手をねっとり移動され、びくと震えてしまった。

 

二人の様子を眺める銀時は「眼福」とにやける。
「あっ、ん。銀時、何を見ておる。役目はどうした」
表情を取り繕った桂に鋭く注意されると、任せておけと大きく頷き、高杉の身体を強引に引き寄せた。こうして膝上に載せ、奥まで飲み込ませるのだ。
力無く投げ出されていた高杉の膝下がびくりと跳ねる。
腰を掴み、円を描かせる。すると高杉は桂の胸から顔を離し、銀時に凭れて顔を天井に向けた。
「あ、んあ、あ」
半開きの唇から感じ入るような声が漏れる。すっかり蕩けてしまって、良い表情だ。そろそろ我慢の限界だった。

「なあ、俺どっちに入れれば良い?このまま高杉で良いの?」
「ふむ…」
真面目くさった声を漏らして桂が思案して見せる。

「良い機会だ。どうだ入れてみるか、俺に」
「いれる…?」
唇でどうにか桂の物の動きをなぞってはいるが、ただのおうむ返しだった。
「良いじゃん、それ」
間延びした声で銀時が賛同する。
「してみよっか、高杉くん」
厭らしく耳に吹き込まれて察した。
仲間とそんな事したくない、本当に。もういらない、沢山だ。怖い、お前ら、怖い。
「涙目で訴えられると苦しいが。仲間は、ずっとだぞ?」

心配する事ない、少し大人になるだけ。
二人に諭され、と言うか高杉に拒否権など始めから無かった。
中に銀時の物を収めたまま腰を抱え直され、目の前に四つん這いになった桂の穴に当てさせられた。
こちらを振り向く桂の目が何を心配しているかというと、明らかに自分自身の事では無い。
人が上手に出来るか、何処までも母親のつもりらしかった。

「ヅラ、そんな、お前。やめ、無理だろ」
上手く言葉にできない。
「だからあ、…ヅラはお前のお師匠さんだろ。大丈夫だって。知らなかったの」
お前ら何を。
「ほら、これの。な」
言いながら銀時が腰を深く前後させ、つい声を漏らしてしまう。

「は、あっ、きつっ。てっきり教えてるのかと思ってた」
そんな。お前ら。
「あっ…、っ、されて良かった事と、してやりたい事は不思議と違うものでな」
自分を間に挟んで揉みくちゃにしながら会話をしないで欲しい。
いくらでも抗議はしてやりたいが、意味のある言葉を発しようとする度に身体に与えられる刺激でそれらは直ぐ霧散する。
次第に視界はまた濡れ、酷い顔をしているだろうとは思いながら、喘ぐしかできない。

桂の中は暖かかった。
後ろから支える銀時の手に腰の角度を付けられ、桂も自ら押し付けてくるから本当に手取り足取りである。
これで全部か。中に収まってしまうと、意外と心は冷静だった。
無意識に布団を握りしめていた自分の手の存在を思い出し、そっと桂の身体に回してみた。
「ん、おめでとう。大人になったな、高杉」
振り返る桂が妖艶に笑う。
「やっぱり?そっかそっかぁ、高杉くんおめでと」
後ろから強く抱き締められ、耳元に銀時からも祝福を受ける。
桂に入れておく為の体のバランスは、もう自分の立て膝で取れていた。

銀時にされるがままで自分ではほとんど出来ず何だか心配になったが、それでも桂は満足そうだった。
そんな事に気を回す時点で、もう立派に「楽しむ側」に仲間入りしてしまったのは分かっている、本当は分かっているが認めたくなかった。
桂の背に擦り寄ると、中を絞められてびっくりした。何だこれ。
「あ、ヅラ、あ」
必死に骨ばった背にしがみ付いていると、銀時からの刺激が妙な所に嵌った。

強く震えた。

「あれ、高杉くんいっちゃったんじゃね。そうだよなぁ、刺激強いよな」
「頑張ったもんな」
「…どうしよ。ヅラあ、高杉と場所交代する?足りないっしょ。俺まだ全然いけるけど」
あ、あ…。
自分の胸のどくどく言う音を聞きながらその意味を考えた。
繋がる相手を満足させられないのは男として恥とは知っている。ふいに、いたたまれない心地になった。

「いや、これで良い。お前がしたいだけ此奴を揺すってくれ。ふ、俺の中は良いか、高杉」
また。そんな愛おしそうな目でこっちを見るな。
「う、煩えっ、お前らっ」
かあっと顔に血が上り、二人の間から抜け出そうと腕を突っ張った。
しかし「ちょ、ダメダメ」と慌てた銀時に腰を持ち上げられ、途端に奥を抉る物の刺激で崩れ落ちる。
堪らずまた桂の背にしがみ付き、その後はもう銀時にお任せコースだった。
気付くと前も後ろもぐしゅぐしゅと湿っていて、気持ち悪かった。

 

全て終えた後、我に返った高杉はすこぶる機嫌が悪かった。
どうも刺激が強すぎた様である。二人は不憫に思い、それこそ小さな子に対する優しさを必死に向けたが、機嫌は一向に戻らない。
終いにはまあ仕方ないかと諦めてしまった。また昼間に喧嘩の一つや二つすれば直るだろう。

しかし本人の捉え方は少し違う。
「大丈夫か」「風呂、行くか」
優しい声を掛けられるが腹で何を考えているか分かったもんじゃない。完全な敗北と絶望だ。
俺には友も仲間も、最初から居なかったのだろうか。
あいつは何も知らないと二人で笑いながら、夜ごと楽しく遊んでいたに違いない。
罵詈雑言を浴びせたいが何を言うべきかが分からない。
「覚えてろ?」…それこそ真っ平だ。こんな夜など誰の頭からも消え去れ。

「何故分からんのだ、こんなに可愛がってやったのに…。お前も善かっただろう」
「減るもんじゃねえだろが。気持ち良いなら素直に楽しめば良いのに。カタイ奴」
慰めだか何だか知らないが、そんな言葉に俺は騙されない。暗い目で銀時と桂を睨むと、高杉はとぼとぼと部屋を出た。
残された二人は夜着を整えながらまあ良いかと笑い合う。

 

「ん、お前も行ってしまうのか銀時」
「あいつも大人になったことだしよ。良い仕事したんだ、散開散開。のびのび寝ようぜ?」
「ふん、それも良いか。おやすみ、銀時」
「おやすみ」

銀時とて名残惜しかった。
が、それぞれ一人になって余韻を楽しむのも大人びていて粋なんじゃないかと、そう思ったのだ。

ひとり布団に潜り込んでしまうと、妙な充実感があった。
深呼吸を、一つ。
誰が欲張りな鷺かは、よく分からない。
ただ、自分たちはとっくに二人と一人ではなかったのでは、と思った。
高杉の涙目と桂の妖艶な笑みを思い出し、にやける。

まあどっちも俺のもんだし、俺もどっちにもくれてやる。