優しい手

そういう相手にマッサージして貰うのは良いものだ。 万斉の手は大きく、熱くて少し乾いている。その手の平で背中や腰を強めに押さえてくれるだけでも気持ちが良い。 どうにも朝が苦手で、目覚めたとしてもすぐには動きたくないし実際動けない。 ぼんやりする俺を置いてむくりと起き上がりテキパキとシャワーを浴びに行こうとする万斉を、必死のこの技で少しだけ引き留める。 「腰…してくんねえかな」 顔だけ向けて頼むと声が随分かすれていた。 静かに微笑う気配。 潰れた餅の気分でうつ伏せに伸びると、万斉はゆっくり首の付け根から腰にかけて押してくれる。 体が温まる。昨夜の意地悪さなんて全くの嘘だった様に、優しい手だ。 終わると今度こそ俺は置き去りにされる。 しかしそのお陰で、浴室が空くまで、二度寝ができる訳だ。ククッ。 温もりの残る布団の中に潜ってうつらうつらしていると、髪を拭いながら再度起こしに来る親切な可愛い男。 俺の、男。 「もう。行くでござるよ」 まだ裸の背中に赤い筋が見えた。あせもだろうか。 思い当たることがあった。 いや、そうか、これは爪痕だ…。 よく見ると幾筋もある。流血までいかないが地味に痛そうだ。 悪い事をした。 もそもそと布団から右手を出して自分の爪を見ると、特に伸びてはいない。ならそんなに強く掴んだろうか、それも記憶が無い。 「なぁ、背中。悪いな」 くすり。 「いつもの事でござろう。体、苦しかったか?」 いつも、とな。 そうでしたか全く気付きませんで。自分が酷い奴に思えてくる。 「体?俺?」 「そ。2度目以降によく爪を立てられるでござる。もう嫌とか、勘弁とか言いながら晋助はよく引っ掻く。猫みたいでござる」 2度目以降?それは俺も必死だった。 一度達すると急激に眠くなるのに、拙者はまだでござるだ何だと、人をひっくり返したりうつ伏せて布団に押し付けたりと好き勝手に。 こっちはいつも辛いでござると言いたい。 改めて昨夜の記憶を手繰り寄せようとしたが思った以上に寄ってこない。 手、俺の手。最中に何してた? 思い出すのは必死にしがみついていた目の前の枕とか、腰が逃げておる、と万斉に引き戻される時の、遠のく畳の目とかだ。 他には、あぁ、そんな顔も見たな。 もうおかしくなるから嫌だと言っているのに覆いかぶさって腰を突き上げてくる時の、珍しいしかめっ面。 この野郎。 軟膏でも塗ってやろうと思ったが、辞めだ。 「こいつは効くぜ」 渋々身体を起こし、部屋の隅にある漆塗りの戸棚を開けた。 中から薬箱を取り出し、押し付ける。 「おや」 返事は聞かず、後はさっさと布団に潜り込んだ。

January 22, 2017

holiday

もう、いやだ。 俺は朦朧としていた。 自分の身体が、熟れすぎて潰れていく果物みたいだ。 穴が疲れた。身も蓋もないだろうか。 しかし的確な表現だと思う。これ以外には考えられない。 ここ数ヶ月、会う頻度が多かった。寒いと会いたくなるのは仕方ない。その延長で抱き合うのも。 代償として少々身体を使い過ぎた感が否めない。 そろそろ休日が必要だとは思っていた。 「どうだ参ったか」 言い返す気力も無い。 手の動き、昔からあんま変わんねえのな。とか何とか口を滑らせたらこのざまだ。 先日の浣腸も酷いもんだったが、今日もなかなか酷い仕打ちである。ほんとのほんと、今日こそゆっくりじっとりしようね、と初めは上出来だったのに、途中から玩具を入れて放置ときた。 「細かい作業は少々不得意ですので工具を使いますね」 おい万事屋。アフターサービスの見直しが必要だな。 確かに万斉の手はずっと滑らかだったが、結局はそれだけの事。今は皆んな幸せじゃねえか、それだけでは許されないものだろうか。 あれは美味かった。しかし死ぬ前に必ずもう一度、と言う訳でもない。旅先の料理のようなものだ。因みにそうと口にしたことだって、別に無いのに。 例えば明日この身が消えるとしたら、慣れ親しんだ白飯が一番である。 しかし何を勝手に汲み取ったのか銀時はムキになっていた。 「取っちゃって良いよね。もう出なさそうね」 「参、らねえ」 「何よお」 あ、前、触んじゃねえ。 こちらが言う前に中心を握り込まれ、その手がゴムを引っ張る。 一部始終を見つめてしまい少し後悔した。もちろん若干の可笑しみを含むのだが。 そこが裸になる瞬間、先端がちゅるりと糸を引く。中に溜まっている量は少なかった。 どうせ何回か出すんなら、捨ててしまうのは勿体無い気もした。 「どれどれ。在庫の塩梅は如何ですか」 ひ。呑気な言葉と共に玉を揉まれ、つい飛び上がってしまった。いや別に良くもないんだが。 「な、あ。もうすっからかんなんだが」 「ほんとかなあ、銀さんはまだなんだけどなあ」 「あっ、や、もう十分だって」 「ふふ、ころころ」 「いた、銀時、痛え」 「じゃあこっち」 移動した手で棒を直に上下されると、頬に寒気が走る。ざっ、と霜に覆われるような感覚。 「っく、む、無理だって」 また奥が熱かった。 「お、乗ってきたんじゃないの」 勘弁してくれ。 「取れちまう」 「こんぐらいじゃないと満足できないでしょ。過激派」 割と本心からの弱音だったのだが。 「俺が悪かった。要らねえこと言った。早くこいよ。どんとこい」 重い体に鞭打って、うつ伏せから仰向けになり脚を開いて見せてやった。少し腰を上げて揺らす。 と、穴が引き攣って一瞬ひやりとした。深呼吸してそこを緩ませる。どうにか、いけるな。 あと少し、あと少しだ。これを切り抜ければ一段落。己の小さな場所をこっそり励ましながら銀時を見上げる。 「オットコマエえ」 そもそも俺を弄ってるだけじゃ気持ちよくないだろう。こっちにだって、満足させてやりたい面はあるのだ。 「銀さんが欲しいって、言わないの」 誰が言うか。 「るせえな。しつこいんだよ」 「今日は特別サービスデーでさ」 っあ、ああっ! 長い休みの前には大仕事が付き物だ。腹を据えて深く息を吸い込む。それを吐ききる前に突き入れられ、思わず悲鳴を上げた。 無我夢中で銀時の首に腕を回し、肩口に顔を埋める。唇で触れる肌が冷たく感じた。妙に思ったのも束の間で、激しい揺さぶりに身を任せる。 ただただ泣いて善がって、喘いだ。 「ポイントたんまり付けといた。嬉しいだろ。高杉、これで、ずうっとお得意さんだもんね」 耳元に熱い吐息をかけられ、また背筋が震える。 そんな遣り取りが昨夜遅く。疲れはするが正直なところ心からの文句など。 いいや、多分にあるな。 布団の中で並んでいると、次第にふわふわ頭が下へ下へと潜っていく。 それを自分の首元に引き寄せると温かいし愛おしいしで一石二鳥だ。 一度抱いてみた後に、感触次第ではこちらが上にずれる。仕方なく。 そうして鎖骨だろうか、落ち着いたところで、ようやく機嫌よく眠りに就ける。 銀時の頭は結構な存在感だ。時折また子の頭にふと触れる時など、その儚さに驚いてしまう。 「足ぃ、超さむいの」 起きてたのか。はみ出るんなら丸まりやがれ。 「ふがっ」 寝言か。下敷きにされている腕をそっと動かし、自由な方に引き寄せる。胸元にデカ頭を丸め込んだ。 確かな重み、首元に当たる湿った鼻息。...

January 21, 2017

サーズデイ

手にはマガジン、長袖の水色のシャツ、指先からは甘い香り。 肌を見ると意外と若い男、もしかしたら20代。 朝一の講義のために大学に向かう途中、高杉はラッシュで混み合う電車の中で痴漢に遭った。 一番の驚きは、よく高杉がターゲットに適していると分かった点だ。 男ばかり狙うタイプだろうか。 もしターゲットにされたのが全くその気がない奴だったら、その哀れな被害者の戸惑いを想像すると可哀相で仕方ない、と考えて気を紛らわせた。 何故続けやがった。 イケると思われる要因をどこで判断されたのか。 どこで拒否すれば良かったのか。 苛つきと冷や汗。 正直、かなりショックだった。 1車両分の端、連結部分。 向こうの車両に押し込まれた人たちをぼんやり見つめながら、高杉も大人しく詰め込まれていた。 いつも通り、周りに迷惑をかける事なく特に妙な動きもせず。 満員電車にはかなり適した姿勢だったと思う。 押されるがままに、窓に取り付けられた鉄製の手すりに体を押し付けていたら横から手が伸びてきたのだった。 右から左から、停車する度に人びとは圧縮されていく訳だから変だと思わなかった。 あと3駅。よろけたりしないように出来るだけ真っ直ぐ立って、大人しく圧縮されていれば良いだけ。 押されて流されて来たであろう誰かの手は、時折こっそり息をついて上下する高杉の体が凹んだ拍子に、腹と手すりとの間にずるずると潜り込んでしまった。 手すりやつり革にこだわらない方が実は楽だぜ。 足の力と言うかバランス感覚も鍛えられる…から俺は満員電車のお陰でスノボが上手くなった、と高杉は信じている。 教えてあげたいが、誰もが必死なこの密閉空間の中では仕方ない。 恐らくこの人は、必ず何かに掴まっておきたい派なのだ。そんな所に手があったら腹で潰してしまう。少しでも体をずらしてやりたいがそんな余裕もなく、電車の揺れで強く後ろから押されて更に動けなくなった。 手はもぞもぞと不満を訴えてくる。 手すりを頑として離さないつもりの様だ。そんな事言われても仕方ないじゃないか。諦めてそこから腕を抜いてくれ…。再度息をつくと、手は小さくグーパーを始めた。指が腹をくすぐり一瞬震えてしまって恥である。 俺は知らねぇからな。高杉は窓に額を押し付けて目を閉じた。 イヤホンから流れるラジオに耳を傾ける。 「昨日ほど暑くなりません。爽やかな晴れ間が気持ち良いですが夜は冷えますので上着を忘れずに…」 しまった、起きたら窓の外は爽やかな水色だったから、半袖シャツで出てきてしまった。 小さく深呼吸。電車が揺れてまた後ろから圧。手が動く。 流石に少し変だとは思った。 退け、といった攻撃的な意思を感じない動き。 掌を高杉の体側に返し、さわりと肋骨を撫でてきた。 …ように感じたが、ここで反応してしまうと本当に恥だ。こんなにぎゅうぎゅうなんだから。 勘弁してくれよ。 再び目を閉じると、更に1本、高杉の顔の真横に手が増えた。手の甲を窓に当てているから小指が頬をかする。 その小指から甘い香り。 カスタード?プリン?香水ではない気がした。 顔を上げればきっと自分も手の主も、窓に顔が映っているだろう。こわくて確認は出来なかった。 腹をくすぐる手は少し登って高杉の胸元へ移動し、粒を見つけて器用に摘んでくる。背筋が震えて、だめだった。 2つの手は、どちらも高杉の右側からやってきているのは間違いない。男をターゲットにするのにわざわざタッグを組んでというのも考えにくいから、1人の人間が両手を使っているんだろうが、その器用さには恐れ入る。 あと2駅になると、甘い指はどんどん大胆になって、小指だけではなく5本の指を使って顎や唇を擽ってきた。 胸元に置かれた方の手は、ペースはそのままだったが動きの種類を変え、粒を撫でたり、押しつぶしたり、つねったりし続けた。 ショックを感じながらも、手の感触を思い出してしまう自分が浅ましい。 今、高杉は駅構内トイレの個室に座っていた。 男子トイレで個室に入る時、一瞬周りの目を気にする自分に真っ只中の青臭さを自覚しながら、それでも手の主にとって何がお気に召したのだろうと思った。 最終駅に着くまでの間、いよいよ甘い手は大胆に唇を弄った。 人差し指が強く下唇をなぞり、口の中に突き入れられそうだった。 必死に首を振って拒否すると、やっと手は離れていった。 胸元の手もいつの間にか消えている。 恐る恐る窓伝いに視線を右にずらすと、木曜発売の週刊少年誌を持った手が素早く去って行くところだった。 満員電車が解放され「安全な」人混みの中に残されて初めて、黒く冷たい水を浴びせられた様なショックを受けている事と、下半身が酷く興奮している事に気付いたのだ。 胸を触る手も直接的でいやらしかったが、それよりずっと強く、唇をなぞられる感覚が腰に響いた。 甘い香りの手。 何故俺なんだ。見抜かれた。 前の女の子と別れて3ヶ月。 高杉は最近、興味本位で始めた、後ろの穴を使ったひとり遊びに夢中だった。 きちんとしたローションは学生にとっては大いに値が張る。グーグル先生から、ワセリンや医療用ゼリー、昔ながらのミントバームを代用することを教えて貰い、明日は帰りに薬局に寄って見繕おうとわくわくして眠ったのが昨夜である。 もともと素質があったのか、高杉が1人遊びでしっかり楽しめるようになるのは早かった。 そちらを覚えると最終的に男を求める体になってしまうと言うが。 高杉個人に関して言うと、実際その通りになってしまった。 もっと太いもので、人肌に突いて欲しい。 腰を強く掴んで引き上げて。 手の主に何処からか自分の若い好奇心を見られていたのでは、とぞっとする。 悔しい、恥、苛立ち。一緒くたになって情けなくも涙が出そうだったが、結局トイレの個室の中でひとり、抜いた。 パンツを下ろすと透明な液で湿っていた。 息を整えて個室を出て手を入念に洗う。まだ講義には間に合うとホームの時計を確認してベンチにへたり込んだ。ため息ばかりだ。 ふいに隣に甘い香りと人の気配を感じた。さっきの甘さじゃない。黒い瓶の、男物の香水。 「高杉クン?」 大学敷地内の喫煙所で1度見た銀髪だった。...

January 19, 2017

雨に願う

友人が帰ってしばらく後、どんより雨空ながらも一応の朝の光に急かされて目覚めた。 「ん…。いま何時?」 「おはよ、あいつ帰ったよ。今ねえ、えっ7時。…ハイおやすみ」 「待て待て待て。俺夕方からバイトだからさ、ほどほどに起こして。…おやすみ」 「ちょ、そんなら1回シャワー浴びようよ」 「いやほんと無理、俺は眠ってしまったのだった…」 「晋助ケムリは?ずっと我慢してたでしょ、ほら、はい。おあがりよ」 1本吸えば、シャワーに行くくらいの元気は出るんでしょ? デスクの隅からタバコの箱を指先で何とか引き寄せ、1本取り出しお寝ぼけさんの口にぷすりと差し込む。 灰皿も取ってきて、どこの甲斐甲斐しい彼女なんだか。俺はジッポ使えないから自分で点けてね。 間近で吸われると煙がキツいのでベランダ全開。男祭り明けのショボ目の先には、重い雲と、しとしと雨。 友人は、雨に降られる前に帰り着けただろうか。 喫煙者における長い我慢の後のタバコは効果てきめんな切り替えスイッチ、と晋助と付き合ってから初めて知った。 俺はツルピカの肺で死にたいので絶対吸わないけどね。 晋助の機嫌がその前より悪くなる事は絶対に無いのでつい吸わせてしまうが、それ程ヤバい物って事で。 けだるい様子で煙を燻らせるほっそりした背中は、部屋着の赤いシャツを纏っている。くったりしていて今やほとんどえんじ色である。 部屋でよく着ているから以前「お気に入りだったの」と尋ねたら、「高校の頃よく着てた」との事。 ん?「私服校だったんだっけ?」と重ねて聞くと、言いにくそうに「いや…学ランの中に着てた」そうで。 晋助にしてはセンスのない冗談だ。 いや流石におかしいでしょ、そんな奴いないって。笑ったらちょっと不機嫌になってしまった。 本当にそうだとしたら校則破りにも程がある。 でも、例え妙に目立つ格好をしていたとしても、同じ校舎で当時の晋助と話してみたかった。 ぼーっとしながら1本吸い終わると晋助は大人しくシャワーへ向かった。 奴の指に挟まれ、赤い唇に細く煙を運んでいる間はあんなに素敵な物に見えるのに。 くしゃと火が消され彼から離れると、やっぱりただの吸い殻だ。 ざあざあとシャワーの音が聞こえてくる。 最初にするのは日曜と決めていたのに、俺たちはまだ最後まで出来てない。 晋助がしているらしい1人遊びについて、何となくは知っている。 どの位の頻度で、いつから、かは知らない。 物凄く気持ち良いとはネットから得た情報。俺もお年頃だし気にはなるけど、実際にすると考えるととんでもなく怖い。 あいつ…よくそんな事出来たな。 時に意外と行動力がある男で、感心してしまう。 あぁー。 1人で小さく呟いてごろりとベッドに寝転がる。 壁際のチェストの上には図書館の本が数冊。 手に取りめくってみると普通に面白い。けどこれについてあれこれ考えて何か書けなんて俺には到底無理な話だ。 違う勉強してんだな、とよく分からない納得。 手の爪は昨日バイト前にきっちり切りました。 切りたてじゃないからトゲトゲもしていない。これで安心して触れられる。取り敢えず、指は。 日常生活の中での自然研磨、と教えてくれたのは何故か国語の教師だった。記憶違いかな。 前にもこの部屋で晋助が借りてきた本を手に取り、自分の爪を確認した。今とは違う本だった。 晋助の本に触れたあと、彼自身に触れるまでは出来るのに、ね。 自分の指と穴を濡らし、小さな穴の中を慎重に解した夜の事だ。 女の子のより硬くてきついなと思った。 ごめんね…心の中で呟きながら晋助の顔を見ると真っ赤で、目をきつく瞑っている。 男にされる男の子って何でこんなにいやらしいんだろうと思った。それとも晋助限定なのかしらん。俺のズボンの中はぱんぱんに苦しかった。 「晋助…、晋助。大丈夫?」 「ん…」 大きく息を吐く裸の背骨が綺麗だ。 ベッドにうつ伏せて腰だけ上げた姿勢から赤い顔でこちらを見遣る様子が、電車でおじさんに触られていた時の姿を思い出させた。 中を弄る手を止めてゆっくり背中を撫でてやった。背中、腰、腹、胸。どこも熱い。 肌は風呂上がりの湿り気に加えて薄っすらと汗が滲み、しなやかなビロードのようだ。 胸元を撫でながらそっと突起に触れると、びくりと体が震えた。 そんな自分の反応に驚いた顔をする晋助と目が合う。 「あ、あ、ぎん…」 その目には怯えが潜んでいて、急に可哀想になった。 それで、何となく続けられなくなってしまったのだ。 しかし穴の中に指は入れたままで、急には俺も止まれない。 その体に自分の体を寄せて抱き締め、腰を擦り付け、そのまま。 「ごめん…いっちゃった…」 かっこ悪すぎる。 俺だけ履いたままのパンツの中が気持ち悪かった。 呆然としていた晋助は微笑った。 銀時が苦い気持ちにしょんぼりしている頃、高杉は浴室で同じ場面を別の思いで反芻していた。 壁に背を向け頭のてっぺんから湯を浴びつつ、くすりと思い出し笑いをしてしまう。 いい加減、最後までしてみたいなあ。 確かに、そういった意味でもって男に体を明け渡す事は想像を絶する恥ずかしさだった。 それでもやっぱり銀時で良かった。 遠慮なんか要らないのに。 あれから銀時は俺に触るのを我慢している様だ。...

January 11, 2017

サーズデイ2

その朝は一緒に登校し、昼は学食に集合、と約束してそれぞれの学部棟に向かった。 昼になると揃って日替わり定食を注文し、スポーツの試合、銀時と桂が所属するほとんど飲み会だけのサークルの人間関係、互いの実家の話、と一気に仲良くなってしまった。 「ね、今夜の飲み来てみれば」 言いながら生協で買ったシュークリームを食後に頬張る銀時。 別れた女の子とふたり、喫茶店でコーヒーを挟んで旅行の計画を立てた日をふと思い出す。 人がたくさん集まる飲み会なんて苦手だったのに、銀時がいればどうにかなるかもと思った。 結果は上々で、ショートカットで首筋が綺麗な、感じのいい女の子とも知り合えた。 土曜の夜には銀時の部屋で宅飲み。 銀時の学部の友人たちに高杉も混ぜてもらう形になった。 高杉くんイケメンだからな。あ、俺知ってた。どんな子って思ってた。結構みんなでとか好きじゃないタイプでしょ? 男の子同士にだって色々あるのである。一種の妬みや不安も相まって最初は小さな棘を隠せなかった面々だが、酒が入って皆でゲームのコントローラを握ると一気に打ち解けた。 その頃には「高杉くん」も、ただの高杉である。 ゲームで最下位になったら一気飲み。5試合やって3度、高杉は3秒イッキでジョッキに注がれた安いビールを煽った。 そして出来上がるのはもれなく、まだ慣れないアルコールで悪乗りの若者たちである。 「次、最下位になった奴。これまでの女の子自慢な!」 右隣を陣取っていた銀時が、高杉の頭を鷲掴みして宣言した。 「気安く、触るんじゃ、ないっ」怒った顔を作って手を払いのけるが呂律が回っていない。誰が見ても、この場で一番酔っている人物は明らかだった。 内容が内容だけに本当は誰が最下位になっても別に良い。と言うかむしろ話したいぞ聞いてくれと全員がこっそり思った。 が、やはり最下位は高杉だった。 「はーい、では高杉くん。現在ガールフレンドは?」 「…冬に別れた」 「大学の子?写真残ってる?やりまくり?」 「黙秘権」 「俺見たことあるよ、一緒に歩いてるの。普通に可愛い。なに学科?」 「プライバシーの侵害ですー」 高杉は大の字に横になり、珍しくへらへらと笑った。 「滅びろイケメン!」 その上に銀時がダイブして脇をくすぐり始めた。 「足、そっち足くすぐって!」 ゲラゲラ笑いながら皆は調子に乗って高杉をくすぐった。 「高杉くんイケメンだからな!」 笑いながら高杉は更に酔った。ビクビクと体を反応させて必死に「やめい!」と笑っていたのが、少し気持ち悪くなってきて動きが鈍る。 「だいじょぶ?…どれどれ」 顔を覗き込んで心配そうな声を出しながら、1人が高杉のTシャツをまくり上げ小さな両方の乳首をつついた。 「んぁ!」 変な声が出てしまい、高杉は赤面する。 その場の皆が一瞬、妙な気分になった、はずだ。他の男の子が笑いながら再度つつく。 「あれあれぇ、感じちゃうのぉ、高杉くん。イケメンだからな!」 もし彼らがまだ中学生でここが校舎だったら、生活指導の教師がすっ飛んでくるだろう。 「や、ちょっ、ダメダメ、ヒヒ、ほんとダメ…っ」 必死に笑いで済ませようにも高杉の腕は力ない。なのにいちいち色っぽい反応を返す高杉が面白い。 面々はいけないと思いつつ止められなくて、「耳感じるでしょ?」「ぷっ。へそカワイー」とくすぐる手の意図がおかしな方向に進んでいた。 「どらっ!」 しかし銀時が突然むんずと股間を握ると、目にも留まらぬ速さで飛び起きた高杉にグーで頬を殴られた。 「暴力反対、チービ!」 「る、せえ、爆発頭!」 「ちょっと顔が良いからって調子乗んなや馬鹿!」 「変態!」 …突然始まった下らなすぎる喧嘩に唖然である。酒でヘニャヘニャだった癖に突然猛獣と化した高杉に皆は恐れを成した。 こいつ、キレるとやばい。 その内に隣の住人から苦情が来て、取り敢えず落ち着こうと、気まずい空気ながらも仲良く全員で水をがぶ飲みし、雑魚寝で眠った。 「高杉くんイケメンだからな」ネタは一夜限りで終わった。 高杉は、ショートカットの女の子と大学でよく会うようになった。 「今度、夜ごはん行かない?」 控えめに誘われて悪い気はしない。 これ上手くいったら後ろのひとり遊びは当分出来なくなるな、と不謹慎な事もちらりと考えた。 しかしそれはそれである。 「そんなら俺の友達のバイト先に行ってみようか?ちょっとおまけしてくれる。全部奢りは勘弁だけど、それでも良い?」 銀時のバイト先の気軽なバルに連れ立って出掛けた。 少し背伸びした金曜の夜。 高杉と女の子が店の席に着くと、知らずに澄まし顔で水を持ってきた銀時は驚いた。 「どしたの。いつの間に2人仲良し?まさか、そうなの?」 「違うよ、まだ!」 焦った女の子の声に高杉が赤面した。これはひとり遊びサヨウナラコース決定か。 「へいへい、面白くねえな!ご注文は!」 苦笑しながらオーダーを取ると銀時は厨房へ行ってしまった。 残された2人はぽつりぽつりと話す。授業のこと、好きな映画、漫画。楽しかった。運ばれてきた料理と少しずつの酒で、ゆっくり仲良くなった。 途中で代わりばんこにトイレに立った。 高杉が用を足し終わると、真剣な目をした銀時が手洗いの前に立っていた。その目線に熱いものを感じてどぎまぎする。 自分の良いように解釈しているだけだろうが、実は銀時は自分の秘密に気付いていて、それを打ち明けても良い相手なんじゃないかと、ふと思う。...

January 9, 2017