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男の裸を撮ろう、それもとびきりエロいやつ。 毎年大賞を狙っている写真賞に出す作品の、今年度コンセプトが突然決まった。 今年こそはと意気込み過ぎるのが災いして煮詰まってしまい悩んでいた。 それでもじっとしてなど居られなくて、酒に逃げていたのだ。そんな、課題とバイトと酒をループする日々の中での、突然の啓示だった。 繁華街で飲んだくれて帰る中、同じく調度良い塩梅に出来上がった兄さんに抱きつかれ、朝まで飲んで帰ってきたり。一緒に馬鹿をやってくれる存在がいればそれだけで楽しい年頃。 たまに見るような、女が撮った赤裸々めな恋愛写真みたいな感じで。でもそれを男の俺が真面目ヅラして撮っているという可笑しみ。その作品を掲げる自分を、気取った審査員たちが二度見する光景が今から楽しみだ。 設備は学校のものを使えるとしても、印画紙、フィルム、と何かと入り用な貧乏学生のこと。 撮りたい構図も使いたいカメラも、時間帯も、果てはどこのギャラリーでどんなサイズで、全てが見えているのに形にする財力などどこにもない。 俺に裸を撮らせてくれる男が欲しい。野郎同士の出会い系サイトなんてどうだろう?四の五の言ってられない。 早速スマホのブラウザを立ち上げ検索してみると出てくる出てくる。所謂「ネコ」って奴が多いようだ。掘って欲しいってか。撮ってならやれるんだが。撮るだけなら。 はたと思いついた。…綺麗な男を探せば、男役なら出来ないことも無いかもしれない。掲示板を辿って見えてくる実態は、どいつもこいつも目的は驚くほど純粋で、恋の相手を探しているのだった。 これはイケると思った。もし困るようなことになったら、恋人として合わない、と伝えれば良いのだ。 大当たりに好都合じゃねえか。 これまでの乱れ気味の交友関係で培ってきたものも無い事はないので、恋愛関係には少々覚えがある。もちろん女相手に限るが。 それでも純粋に色恋と考えれば、性別など関係ないのではないか? 人間、目的に必死になると新しい物への恐れが無くなるのかも知れない。何故か同性愛への嫌悪感等は考えなかった。 人の良さそうな少年を演じきり、どうしてもと言われたら教えて貰って少しだけサービス。 後は「好きにはなれなかったごめんなさい」、それでいけるんじゃないか? サヨウナラをしても作品に使わせて貰えるような関係性を築けるだろうか、そこが一番重要である。 一晩かけて散々考え抜いたプロフィールがこれだ。 美術系の専門学生、初心者19歳です。 黒髪、細身筋肉質、170センチ。 僕の作品作りのモデル兼、まずはお友達からOKな方いませんか。 本当に初心者なので、あまり期待しないでください。 よろしくお願いします。 春風 この書き込みに対し、びっくりするほどすぐに返事が来た。3件も。 40代会社経営者バツイチ趣味はマウンテンバイク、30代サラリーマン「春風くんジョジョ好き?」、20代言えないくらい真面目系のお仕事してます。 どれも怪しく見えるし疑ったら申し訳ない気もする。 取り敢えず一番若い「真面目系」の彼に返事を送った。 なかなかの男前だが、微妙なドヤ顔のプロフィール写真に笑ってしまった。一言欄には「ギンと呼んでくださいね★」とあった。 約束は、おやつの時間に雑多な繁華街にほど近い駅前で。 北口を出てすぐの一段窪んだ広場。まずは安全な場所から相手をいち早く見付け観察してやろうと早めに来たが、そんな自分こそ、逆に高みの見物で観察されている可能性は充分にある。 正直ここに来て酷く尻込みしていたのだ。 しかし、約束した男は話の通りに目立つ銀髪でそこにいた。 事前のやり取りの中で事情は正直に話した。実は掘るも掘られるも専門外、できるのは撮るだけ。でも必ず美しく残すから作品にさせて欲しい。 それで良いと返してくれた。面白い、と。プロフィールも写真も本物だったようだ。植込みの街路樹を背に、俯き加減で立つ姿は色男に見えた。 二言三言、精一杯の笑顔で挨拶を交わす。 背は180まではいかないだろうががっしりした体つきだ。話すと少しだけ見上げる形になる。 脱色にしては触り心地の良さそうなふわふわした珍しい銀髪、細い銀縁メガネ、ぼんやりしがちな緩い表情、のんびりとした話し方。 面と向き合ってみると妙に親しみの持てる男だった。近くで見ても、良い顔をしている。 「初めまして、これがギンですよ。緊張してる?それは俺だよ、だって見せるんだから」 優しい笑顔の男だ。今日はテスト機だけ、と言っても色々重い。一番大切なカメラは本当に好きな物に使うと決めているから、取り敢えず今日は留守番。 俺の超大作はまだ始まったばかりなのだ。 撮らせて貰うのはこちらだから部屋に招いても良いんだが、と思ったが互いのプライバシーやらを考えると、結局ホテルが妥当だった。 「すぐ始めるの?」 わくわく、と言った様子でいきなり話を始められ尻込みした。 「一旦何か飲んでから行きませんか。はは、俺が、緊張してしまって」 「そうだね、それが良い」 ほっ。 良さそうな服、着てるな。厚手の白いTシャツにベージュの半ズボン、紺色のデッキシューズ。えらく飾り気がないが生地がしっかりしている。 その界隈に関する先入観から予想していたよりずっとシンプルで、それでいて雰囲気のある男だ。言えないけど真面目系、って何の仕事だろう。 「この路線よく使うの?」 ぎこちなくも並んで歩きながら彼の姿を盗み見ているとまた唐突に話しかけられてどぎまぎした。 「あ、いえ、今は引っ越しちゃったんですけど、よく通ってました」 「そ?俺も昔よく遊んでた」 「この辺で遊ぶ所ありますか?」 「あるよお、反対口のスーパーの向こうに玉突き屋、土日の午前中に行くとダーツ投げ放題できて、安いんだよ」 気さくな話し方に安心する。こんな先輩が欲しいと思った。玉突き屋?パチンコのことか? 「いんや、もちっと大きくて重い玉」 ? 「今の若い子には流行んないかな。ビリヤード」 今時そんな遊び本当にする人いるのかと驚いた。確かに自分よりは年上だろうが、このギンという男にだって古い気がする。 昔読んだ古い青春小説の中で、主人公が色んな女たちとビリヤード場に通っていた。暗くて煙草の煙に塗れていて、寂れて、いかがわしいイメージがある。 「…行ってみよっか?」 察しの良い男だ。 「あ、あの、普通の、人たちですよね」 失礼を言っただろうか。ギンは声を上げて笑った。 初めてのビリヤード場は、全然いかがわしくなかった。 むしろ黙々と見事に棒を操り玉を突いている「おひとりさま」なおじさんが何人かと、そこまで上手くもないが上品そうな50代くらいの夫婦が1組、と驚くほど健全に大人の空間だった。...