サーズデイ2
その朝は一緒に登校し、昼は学食に集合、と約束してそれぞれの学部棟に向かった。 昼になると揃って日替わり定食を注文し、スポーツの試合、銀時と桂が所属するほとんど飲み会だけのサークルの人間関係、互いの実家の話、と一気に仲良くなってしまった。 「ね、今夜の飲み来てみれば」 言いながら生協で買ったシュークリームを食後に頬張る銀時。 別れた女の子とふたり、喫茶店でコーヒーを挟んで旅行の計画を立てた日をふと思い出す。 人がたくさん集まる飲み会なんて苦手だったのに、銀時がいればどうにかなるかもと思った。 結果は上々で、ショートカットで首筋が綺麗な、感じのいい女の子とも知り合えた。 土曜の夜には銀時の部屋で宅飲み。 銀時の学部の友人たちに高杉も混ぜてもらう形になった。 高杉くんイケメンだからな。あ、俺知ってた。どんな子って思ってた。結構みんなでとか好きじゃないタイプでしょ? 男の子同士にだって色々あるのである。一種の妬みや不安も相まって最初は小さな棘を隠せなかった面々だが、酒が入って皆でゲームのコントローラを握ると一気に打ち解けた。 その頃には「高杉くん」も、ただの高杉である。 ゲームで最下位になったら一気飲み。5試合やって3度、高杉は3秒イッキでジョッキに注がれた安いビールを煽った。 そして出来上がるのはもれなく、まだ慣れないアルコールで悪乗りの若者たちである。 「次、最下位になった奴。これまでの女の子自慢な!」 右隣を陣取っていた銀時が、高杉の頭を鷲掴みして宣言した。 「気安く、触るんじゃ、ないっ」怒った顔を作って手を払いのけるが呂律が回っていない。誰が見ても、この場で一番酔っている人物は明らかだった。 内容が内容だけに本当は誰が最下位になっても別に良い。と言うかむしろ話したいぞ聞いてくれと全員がこっそり思った。 が、やはり最下位は高杉だった。 「はーい、では高杉くん。現在ガールフレンドは?」 「…冬に別れた」 「大学の子?写真残ってる?やりまくり?」 「黙秘権」 「俺見たことあるよ、一緒に歩いてるの。普通に可愛い。なに学科?」 「プライバシーの侵害ですー」 高杉は大の字に横になり、珍しくへらへらと笑った。 「滅びろイケメン!」 その上に銀時がダイブして脇をくすぐり始めた。 「足、そっち足くすぐって!」 ゲラゲラ笑いながら皆は調子に乗って高杉をくすぐった。 「高杉くんイケメンだからな!」 笑いながら高杉は更に酔った。ビクビクと体を反応させて必死に「やめい!」と笑っていたのが、少し気持ち悪くなってきて動きが鈍る。 「だいじょぶ?…どれどれ」 顔を覗き込んで心配そうな声を出しながら、1人が高杉のTシャツをまくり上げ小さな両方の乳首をつついた。 「んぁ!」 変な声が出てしまい、高杉は赤面する。 その場の皆が一瞬、妙な気分になった、はずだ。他の男の子が笑いながら再度つつく。 「あれあれぇ、感じちゃうのぉ、高杉くん。イケメンだからな!」 もし彼らがまだ中学生でここが校舎だったら、生活指導の教師がすっ飛んでくるだろう。 「や、ちょっ、ダメダメ、ヒヒ、ほんとダメ…っ」 必死に笑いで済ませようにも高杉の腕は力ない。なのにいちいち色っぽい反応を返す高杉が面白い。 面々はいけないと思いつつ止められなくて、「耳感じるでしょ?」「ぷっ。へそカワイー」とくすぐる手の意図がおかしな方向に進んでいた。 「どらっ!」 しかし銀時が突然むんずと股間を握ると、目にも留まらぬ速さで飛び起きた高杉にグーで頬を殴られた。 「暴力反対、チービ!」 「る、せえ、爆発頭!」 「ちょっと顔が良いからって調子乗んなや馬鹿!」 「変態!」 …突然始まった下らなすぎる喧嘩に唖然である。酒でヘニャヘニャだった癖に突然猛獣と化した高杉に皆は恐れを成した。 こいつ、キレるとやばい。 その内に隣の住人から苦情が来て、取り敢えず落ち着こうと、気まずい空気ながらも仲良く全員で水をがぶ飲みし、雑魚寝で眠った。 「高杉くんイケメンだからな」ネタは一夜限りで終わった。 高杉は、ショートカットの女の子と大学でよく会うようになった。 「今度、夜ごはん行かない?」 控えめに誘われて悪い気はしない。 これ上手くいったら後ろのひとり遊びは当分出来なくなるな、と不謹慎な事もちらりと考えた。 しかしそれはそれである。 「そんなら俺の友達のバイト先に行ってみようか?ちょっとおまけしてくれる。全部奢りは勘弁だけど、それでも良い?」 銀時のバイト先の気軽なバルに連れ立って出掛けた。 少し背伸びした金曜の夜。 高杉と女の子が店の席に着くと、知らずに澄まし顔で水を持ってきた銀時は驚いた。 「どしたの。いつの間に2人仲良し?まさか、そうなの?」 「違うよ、まだ!」 焦った女の子の声に高杉が赤面した。これはひとり遊びサヨウナラコース決定か。 「へいへい、面白くねえな!ご注文は!」 苦笑しながらオーダーを取ると銀時は厨房へ行ってしまった。 残された2人はぽつりぽつりと話す。授業のこと、好きな映画、漫画。楽しかった。運ばれてきた料理と少しずつの酒で、ゆっくり仲良くなった。 途中で代わりばんこにトイレに立った。 高杉が用を足し終わると、真剣な目をした銀時が手洗いの前に立っていた。その目線に熱いものを感じてどぎまぎする。 自分の良いように解釈しているだけだろうが、実は銀時は自分の秘密に気付いていて、それを打ち明けても良い相手なんじゃないかと、ふと思う。...