アンドスパイス

大学生パロディ銀高「サーズデイ」シリーズ 晋助の学部の授業に潜りで来てみたが、これはこれは。 面白くない。 文系なんて遊びまくリア充の掃き溜めかと思ってたけど、そうでもないのな。 隣のイケメン含め、テキストやら配布物やら、何事か書き込みをしている学生は多い。 早々に飽きた俺はざっとスレタイ見て、ゲーム攻略、ライン返信、ツイッター。 良さげな飲み会無し、シフトヘルプ無し、休講も無し。残念。 何回か行ったことあるテニスサークルの告知。明日、そうだよね、そうそう。ただ変に貰っちゃったらそれはそれでお返し面倒臭そうだし。いやでも欲しいし。迷う。 男祭りメンバーはチーズフォンデュするらしい。行こうかな。こいつ連れて。 しかし何でチョコ溶かさねえんだ。甘いのとろーりさせようぜ。 そう、明日はチョコの日なのだ。 待て待て、と俺はにやける。 別に抜け駆けで勝手に溶かしても良い訳だ。 我ながら素晴らしい企みにほくそ笑んでいると、ブ、と長机から振動が伝わった。 「ん…?」 怪訝な目をする晋助。横からスマホ画面を覗くと、俺にも見えるように傾けてくれる。 学生っぽいじゃないの。ジャンプもだけど、授業中にこそこそやんのがイチャつきの醍醐味だね。 顔を寄せ合うと、そのまま細い首筋に潜り込みたくなるから困る。 「めっずらし。知り合い?」 新しくフォローされました。 「知らねえ奴。フォロー10フォロワー0、怪しいな。絶佳、だとさ」 「どら。…宣伝だね」 あるある、よく分かんない起業家とかね。 「そういや今日、打ったな」 何、ツイートか。 「お前それ呟くって言うんだよ」 「おう。…ぼやいた」 嘘っ。 「見たい見たい、知らなかったんだけど。どれ?」 不穏な動きは見逃さない。さてはお前、消す気だな。 「させるか」 「離せっ馬鹿!」 「いや離すのお前、はい没収う、オフオフ」 眠りに落ちる画面。 「…別に良いけどな」 どれどれお手並み拝見。俺は自分のスマホから件のアイコンをタップ。 『辛いチョコなら食えるだろうか、若しくはパイプチョコ』 ぶはっ、ナニコレ! 「丸が点々に見えちゃった、やだもう高杉くん卑猥。若干ポエミーなのがまた。うわあ、無いわあ。っどぅふ」 脇腹に肘鉄を喰らい、取り敢えず黙る。 「ん」 仏頂面の高杉は、唐突にかばんをごそごそさせティッシュ箱ほどの小包を取り出した。 リボン?と包み紙をよく見るとチョウチョ柄。十字に掛けられた金色のリボン、全体的に若干ギャルっぽい。 顎でしゃくるので、まさかと思いながら丁寧に開けた。 薄いプラスチックの箱、の中に細長い… 「晋ちゃん!?」 「しぃ」 横目で咎められるがそれすら楽しい。 まさか。手作り男子の愛がたっぷりこもった、 「違うぞそれ。後輩のガトーショコラ」 はあ!? 晋助は腕組みをして目を閉じる。 「明日は忙しいってんで、今朝くれたんだ。悪いな。こういうのは俺には出来ねえよ」 そ、そうですか。 因みに参考文献ではですね…。マイク越しに、キレイ系おばさん教授の声が響く。長年のスモーカーだろうか、意外とガラガラ声だ。 ぎ、と椅子を軋ませて晋助が座り直した。 「銀時、今日バイト無いよな。食べ放題なら行くだろ」 怪しい話、気になる話。 晋助がフォローされたアカウントは、まだ関西に1店舗だけの、個人経営の洋菓子店だった。 ツイートを遡ると、宣伝にしては少々そっけない文章が続いていた。 頻度は週に一度か二度。新作のギモーヴは冬季限定、店頭ではチョコレートケーキ限定発売中、今月の季節のショートケーキは金柑です…。しかし辛いチョコを宣伝する訳でも無く。 何でフォローされたのかは、結局よく分からなかった。 『大江戸屋新宿本店にバレンタイン期間だけ出張出店中。お待ちしております。』 これが最新のツイート。 「デパートならどこでもチョコ売ってるからな。新宿、行くか」 甘いものが苦手なのは知っている。俺のために、で良いんですかね。 晋助が楽しそうで、俺は何だか物凄く嬉しかったのだ。 やって来た大江戸屋は、平日の夜だってのに結構な賑わいだ。 気の所為では無いと思う。入り口からして女の人の出入りが多い。 なるほどデパ地下ね!と思ったら何と、特設会場なるものがあるらしい。そんな文化、俺は今日はじめて知ったよ。...

February 14, 2017

あいさつ強化週間

ある日の万事屋での逢瀬のこと。 高杉が帰り支度を始める頃、鬼兵隊員の相性が話題になった。 「あの2人、案外仲良いよね」 「本人達は嫌がるが実際そうなんだよな。あれじゃ仕方ねえよ、船の奴らで一番喋ってんじゃねえか」 銀時の疑問は、あのロリコンのおっさんとまた子ちゃん、実際どうなの、だ。 「やっぱそうだよね。ぷ、そこ仲良いと総督ちょっと寂しいんじゃない」 「そうだな。クッ」 「上手い使い方とかあったりして」 「まあ、な。そうだな。あいつら、別々に見てると面白いぜ」 「親子みたいだよねえ」 下手に口にしたらどうなることやら。ずっとあった印象について、さらりと恋人の口から聞くと余計笑えた。 「たまに武市がくどくど言ってんなって思うと、その後の来島がむすくれてんだ」 「お説教かよ。してんのマジで」 「じゃねえかな」 「普通におっさんだね。また子ちゃん超反発しそう」 「と思うだろ、だがな。少し時間置くとケロッとしてよ、掃除やら挨拶やら随分キビキビし出すんだ」 「どんなこと話してんだろね」 「な。正直、助かってるんだ」 「ふうん。ロリコン氏もちゃんとおじさんだね。やばいじゃん、トップも日頃の行いを見直すべきじゃねえの、銀さんへの愛情表現とかさあ。ある日突然、さすが晋助様とは違って年の功ッス!とか言ってたらどうする。俺だったら立ち直れなくなっちゃいそう」 「武市はちゃんとしてるさ実際。じゃなきゃ一緒にやってねえ。しかし俺だって武市に呆れられたら困りもんだぜ。俺はどうすりゃ良い、挨拶でも見直すか」 どうだか。似合わない心配しちゃって可笑しいね。ほんの少し思案した後、銀時は思い出の中の師匠の真似をした。 「じゃあ高杉、さようなら。またね」 なるほど。 「おう。さようなら銀時。またな」 型にはまるのも楽しいもんだ。船に帰る高杉の足取りは、どことなく軽やかだった。 今日は月に一度の真面目な幹部会である。 トップの仏頂面には余念が無い。今回の議題については全て何かしら次の行動など決定したものの、まだ言いたいことがあるように見えた。 ただ、そう見えるだけで実際は特筆すべき考えごとで無いことも多い。まあ良いか、と万斉が「それでは、」と席を立ちかけたその時。 「お前ら最近、声を出してねえな」 はて。唐突な話題に皆は頭をひねった。心当たりが無いのは皆同じだ。 最近、変わった出来事などあったろうか。 「声とな」 万斉が顔を覗き込んだ。 「貴賎問わずとしたのはお主だろう。我々に至らぬ点があったら、率直に教えて欲しいでござる」 やさしく問われ、居心地悪そうに腕を組む姿。拗ねる子供のようだった。 「責めてる訳じゃねえんだ。挨拶を、だな。するべきだ」 誰しもが耳を疑った。そんな中でもおじさんは強い。 「高杉さん、わたし小さなお子さんに話しかける時は、お母様にもきちんとご挨拶しておりますよ。お側にいらっしゃる時に限りますけど」 「抜かりないのが益々気持ち悪いッスね」 ほら。武市は流石だ。動機を掘り下げるとまずい方向になるが。 「晋助に蛇が出ると怒られたから、夜中のハーモニカはやめたでござる」 高杉は顔をしかめた。したいのは、そんな話じゃないのだ。 「…俺がやめろっつったのは夜の口笛だろう。万斉お前、本当に音楽なら万能なんだな」 「滅相もないでござる」 「ハーモニカって」 「おや。さては晋助、実は吹きたいのだろう」 「いや要らねえ。珍しいな、新曲は郷愁系か」 「違う、違うでござる」 「新型兵器か」 「いや、思いついたメロディーをな。ササッと吹いてみるのにうってつけなのだ」 「河上さん、お部屋からハーモニカ、意外と聞こえますよ。中止は良い心掛けです」 「ほら万斉先輩、やめて大正解ッスよ」 さてどう言おうか。高杉は一度煙管を吸った。 それにしても来島はいつまで「先輩」呼びを続けるんだろう。自分を含め他の者の手前、気恥ずかしいからそう呼んでいるのかと思っていたが、どうやら違うらしいと気付いたのは最近だ。 「そうだな。他人の目線や迷惑を考えるのも勿論大切だ。しかしその前にもっと簡単で重要なもんがある。挨拶だ」 挨拶。 開いた口が塞がらない幹部の顔に照れ臭さを覚えたが、もう戻れない。 「とにかく。気分の入れ替えだと思え。今週は挨拶強化週間だ。何のとは逐一言わねえが、朝昼晩、出掛け、見送り、出迎え、食事。あとはそうだな、感謝か。どこか心に留めて生活するように。良いな」 「晋助、行ってきます」 「ただいまでござる」 人斬り前も新曲封切り前も、万斉は船の出入り時には同じ言葉を使った。 「お疲れ様っした」 また子は、倒れゆく先程までの敵にも軽く一声掛ける。 「お嬢ちゃん、お気をつけてお帰りなさいね」 元から余念が無かったものの、武市の一言は信用できる者のそれとして磨きがかかったようだ。 幹部のちょっとした変化が広がり、鬼兵隊では気持ちの良い声が多く飛び交うようになっていた。 「こんばんは」 つい癖で万事屋の引き戸を開けながらはきはきと声を掛けてしまった。 「こ、こんばんは高杉さん。どうぞ」 まだまだ緊張する相手である。出迎えた新八は、違和感を感じつつも反射で言葉を返した。...

February 5, 2017

holiday

もう、いやだ。 俺は朦朧としていた。 自分の身体が、熟れすぎて潰れていく果物みたいだ。 穴が疲れた。身も蓋もないだろうか。 しかし的確な表現だと思う。これ以外には考えられない。 ここ数ヶ月、会う頻度が多かった。寒いと会いたくなるのは仕方ない。その延長で抱き合うのも。 代償として少々身体を使い過ぎた感が否めない。 そろそろ休日が必要だとは思っていた。 「どうだ参ったか」 言い返す気力も無い。 手の動き、昔からあんま変わんねえのな。とか何とか口を滑らせたらこのざまだ。 先日の浣腸も酷いもんだったが、今日もなかなか酷い仕打ちである。ほんとのほんと、今日こそゆっくりじっとりしようね、と初めは上出来だったのに、途中から玩具を入れて放置ときた。 「細かい作業は少々不得意ですので工具を使いますね」 おい万事屋。アフターサービスの見直しが必要だな。 確かに万斉の手はずっと滑らかだったが、結局はそれだけの事。今は皆んな幸せじゃねえか、それだけでは許されないものだろうか。 あれは美味かった。しかし死ぬ前に必ずもう一度、と言う訳でもない。旅先の料理のようなものだ。因みにそうと口にしたことだって、別に無いのに。 例えば明日この身が消えるとしたら、慣れ親しんだ白飯が一番である。 しかし何を勝手に汲み取ったのか銀時はムキになっていた。 「取っちゃって良いよね。もう出なさそうね」 「参、らねえ」 「何よお」 あ、前、触んじゃねえ。 こちらが言う前に中心を握り込まれ、その手がゴムを引っ張る。 一部始終を見つめてしまい少し後悔した。もちろん若干の可笑しみを含むのだが。 そこが裸になる瞬間、先端がちゅるりと糸を引く。中に溜まっている量は少なかった。 どうせ何回か出すんなら、捨ててしまうのは勿体無い気もした。 「どれどれ。在庫の塩梅は如何ですか」 ひ。呑気な言葉と共に玉を揉まれ、つい飛び上がってしまった。いや別に良くもないんだが。 「な、あ。もうすっからかんなんだが」 「ほんとかなあ、銀さんはまだなんだけどなあ」 「あっ、や、もう十分だって」 「ふふ、ころころ」 「いた、銀時、痛え」 「じゃあこっち」 移動した手で棒を直に上下されると、頬に寒気が走る。ざっ、と霜に覆われるような感覚。 「っく、む、無理だって」 また奥が熱かった。 「お、乗ってきたんじゃないの」 勘弁してくれ。 「取れちまう」 「こんぐらいじゃないと満足できないでしょ。過激派」 割と本心からの弱音だったのだが。 「俺が悪かった。要らねえこと言った。早くこいよ。どんとこい」 重い体に鞭打って、うつ伏せから仰向けになり脚を開いて見せてやった。少し腰を上げて揺らす。 と、穴が引き攣って一瞬ひやりとした。深呼吸してそこを緩ませる。どうにか、いけるな。 あと少し、あと少しだ。これを切り抜ければ一段落。己の小さな場所をこっそり励ましながら銀時を見上げる。 「オットコマエえ」 そもそも俺を弄ってるだけじゃ気持ちよくないだろう。こっちにだって、満足させてやりたい面はあるのだ。 「銀さんが欲しいって、言わないの」 誰が言うか。 「るせえな。しつこいんだよ」 「今日は特別サービスデーでさ」 っあ、ああっ! 長い休みの前には大仕事が付き物だ。腹を据えて深く息を吸い込む。それを吐ききる前に突き入れられ、思わず悲鳴を上げた。 無我夢中で銀時の首に腕を回し、肩口に顔を埋める。唇で触れる肌が冷たく感じた。妙に思ったのも束の間で、激しい揺さぶりに身を任せる。 ただただ泣いて善がって、喘いだ。 「ポイントたんまり付けといた。嬉しいだろ。高杉、これで、ずうっとお得意さんだもんね」 耳元に熱い吐息をかけられ、また背筋が震える。 そんな遣り取りが昨夜遅く。疲れはするが正直なところ心からの文句など。 いいや、多分にあるな。 布団の中で並んでいると、次第にふわふわ頭が下へ下へと潜っていく。 それを自分の首元に引き寄せると温かいし愛おしいしで一石二鳥だ。 一度抱いてみた後に、感触次第ではこちらが上にずれる。仕方なく。 そうして鎖骨だろうか、落ち着いたところで、ようやく機嫌よく眠りに就ける。 銀時の頭は結構な存在感だ。時折また子の頭にふと触れる時など、その儚さに驚いてしまう。 「足ぃ、超さむいの」 起きてたのか。はみ出るんなら丸まりやがれ。 「ふがっ」 寝言か。下敷きにされている腕をそっと動かし、自由な方に引き寄せる。胸元にデカ頭を丸め込んだ。 確かな重み、首元に当たる湿った鼻息。...

January 21, 2017

サーズデイ

手にはマガジン、長袖の水色のシャツ、指先からは甘い香り。 肌を見ると意外と若い男、もしかしたら20代。 朝一の講義のために大学に向かう途中、高杉はラッシュで混み合う電車の中で痴漢に遭った。 一番の驚きは、よく高杉がターゲットに適していると分かった点だ。 男ばかり狙うタイプだろうか。 もしターゲットにされたのが全くその気がない奴だったら、その哀れな被害者の戸惑いを想像すると可哀相で仕方ない、と考えて気を紛らわせた。 何故続けやがった。 イケると思われる要因をどこで判断されたのか。 どこで拒否すれば良かったのか。 苛つきと冷や汗。 正直、かなりショックだった。 1車両分の端、連結部分。 向こうの車両に押し込まれた人たちをぼんやり見つめながら、高杉も大人しく詰め込まれていた。 いつも通り、周りに迷惑をかける事なく特に妙な動きもせず。 満員電車にはかなり適した姿勢だったと思う。 押されるがままに、窓に取り付けられた鉄製の手すりに体を押し付けていたら横から手が伸びてきたのだった。 右から左から、停車する度に人びとは圧縮されていく訳だから変だと思わなかった。 あと3駅。よろけたりしないように出来るだけ真っ直ぐ立って、大人しく圧縮されていれば良いだけ。 押されて流されて来たであろう誰かの手は、時折こっそり息をついて上下する高杉の体が凹んだ拍子に、腹と手すりとの間にずるずると潜り込んでしまった。 手すりやつり革にこだわらない方が実は楽だぜ。 足の力と言うかバランス感覚も鍛えられる…から俺は満員電車のお陰でスノボが上手くなった、と高杉は信じている。 教えてあげたいが、誰もが必死なこの密閉空間の中では仕方ない。 恐らくこの人は、必ず何かに掴まっておきたい派なのだ。そんな所に手があったら腹で潰してしまう。少しでも体をずらしてやりたいがそんな余裕もなく、電車の揺れで強く後ろから押されて更に動けなくなった。 手はもぞもぞと不満を訴えてくる。 手すりを頑として離さないつもりの様だ。そんな事言われても仕方ないじゃないか。諦めてそこから腕を抜いてくれ…。再度息をつくと、手は小さくグーパーを始めた。指が腹をくすぐり一瞬震えてしまって恥である。 俺は知らねぇからな。高杉は窓に額を押し付けて目を閉じた。 イヤホンから流れるラジオに耳を傾ける。 「昨日ほど暑くなりません。爽やかな晴れ間が気持ち良いですが夜は冷えますので上着を忘れずに…」 しまった、起きたら窓の外は爽やかな水色だったから、半袖シャツで出てきてしまった。 小さく深呼吸。電車が揺れてまた後ろから圧。手が動く。 流石に少し変だとは思った。 退け、といった攻撃的な意思を感じない動き。 掌を高杉の体側に返し、さわりと肋骨を撫でてきた。 …ように感じたが、ここで反応してしまうと本当に恥だ。こんなにぎゅうぎゅうなんだから。 勘弁してくれよ。 再び目を閉じると、更に1本、高杉の顔の真横に手が増えた。手の甲を窓に当てているから小指が頬をかする。 その小指から甘い香り。 カスタード?プリン?香水ではない気がした。 顔を上げればきっと自分も手の主も、窓に顔が映っているだろう。こわくて確認は出来なかった。 腹をくすぐる手は少し登って高杉の胸元へ移動し、粒を見つけて器用に摘んでくる。背筋が震えて、だめだった。 2つの手は、どちらも高杉の右側からやってきているのは間違いない。男をターゲットにするのにわざわざタッグを組んでというのも考えにくいから、1人の人間が両手を使っているんだろうが、その器用さには恐れ入る。 あと2駅になると、甘い指はどんどん大胆になって、小指だけではなく5本の指を使って顎や唇を擽ってきた。 胸元に置かれた方の手は、ペースはそのままだったが動きの種類を変え、粒を撫でたり、押しつぶしたり、つねったりし続けた。 ショックを感じながらも、手の感触を思い出してしまう自分が浅ましい。 今、高杉は駅構内トイレの個室に座っていた。 男子トイレで個室に入る時、一瞬周りの目を気にする自分に真っ只中の青臭さを自覚しながら、それでも手の主にとって何がお気に召したのだろうと思った。 最終駅に着くまでの間、いよいよ甘い手は大胆に唇を弄った。 人差し指が強く下唇をなぞり、口の中に突き入れられそうだった。 必死に首を振って拒否すると、やっと手は離れていった。 胸元の手もいつの間にか消えている。 恐る恐る窓伝いに視線を右にずらすと、木曜発売の週刊少年誌を持った手が素早く去って行くところだった。 満員電車が解放され「安全な」人混みの中に残されて初めて、黒く冷たい水を浴びせられた様なショックを受けている事と、下半身が酷く興奮している事に気付いたのだ。 胸を触る手も直接的でいやらしかったが、それよりずっと強く、唇をなぞられる感覚が腰に響いた。 甘い香りの手。 何故俺なんだ。見抜かれた。 前の女の子と別れて3ヶ月。 高杉は最近、興味本位で始めた、後ろの穴を使ったひとり遊びに夢中だった。 きちんとしたローションは学生にとっては大いに値が張る。グーグル先生から、ワセリンや医療用ゼリー、昔ながらのミントバームを代用することを教えて貰い、明日は帰りに薬局に寄って見繕おうとわくわくして眠ったのが昨夜である。 もともと素質があったのか、高杉が1人遊びでしっかり楽しめるようになるのは早かった。 そちらを覚えると最終的に男を求める体になってしまうと言うが。 高杉個人に関して言うと、実際その通りになってしまった。 もっと太いもので、人肌に突いて欲しい。 腰を強く掴んで引き上げて。 手の主に何処からか自分の若い好奇心を見られていたのでは、とぞっとする。 悔しい、恥、苛立ち。一緒くたになって情けなくも涙が出そうだったが、結局トイレの個室の中でひとり、抜いた。 パンツを下ろすと透明な液で湿っていた。 息を整えて個室を出て手を入念に洗う。まだ講義には間に合うとホームの時計を確認してベンチにへたり込んだ。ため息ばかりだ。 ふいに隣に甘い香りと人の気配を感じた。さっきの甘さじゃない。黒い瓶の、男物の香水。 「高杉クン?」 大学敷地内の喫煙所で1度見た銀髪だった。...

January 19, 2017

雨に願う

友人が帰ってしばらく後、どんより雨空ながらも一応の朝の光に急かされて目覚めた。 「ん…。いま何時?」 「おはよ、あいつ帰ったよ。今ねえ、えっ7時。…ハイおやすみ」 「待て待て待て。俺夕方からバイトだからさ、ほどほどに起こして。…おやすみ」 「ちょ、そんなら1回シャワー浴びようよ」 「いやほんと無理、俺は眠ってしまったのだった…」 「晋助ケムリは?ずっと我慢してたでしょ、ほら、はい。おあがりよ」 1本吸えば、シャワーに行くくらいの元気は出るんでしょ? デスクの隅からタバコの箱を指先で何とか引き寄せ、1本取り出しお寝ぼけさんの口にぷすりと差し込む。 灰皿も取ってきて、どこの甲斐甲斐しい彼女なんだか。俺はジッポ使えないから自分で点けてね。 間近で吸われると煙がキツいのでベランダ全開。男祭り明けのショボ目の先には、重い雲と、しとしと雨。 友人は、雨に降られる前に帰り着けただろうか。 喫煙者における長い我慢の後のタバコは効果てきめんな切り替えスイッチ、と晋助と付き合ってから初めて知った。 俺はツルピカの肺で死にたいので絶対吸わないけどね。 晋助の機嫌がその前より悪くなる事は絶対に無いのでつい吸わせてしまうが、それ程ヤバい物って事で。 けだるい様子で煙を燻らせるほっそりした背中は、部屋着の赤いシャツを纏っている。くったりしていて今やほとんどえんじ色である。 部屋でよく着ているから以前「お気に入りだったの」と尋ねたら、「高校の頃よく着てた」との事。 ん?「私服校だったんだっけ?」と重ねて聞くと、言いにくそうに「いや…学ランの中に着てた」そうで。 晋助にしてはセンスのない冗談だ。 いや流石におかしいでしょ、そんな奴いないって。笑ったらちょっと不機嫌になってしまった。 本当にそうだとしたら校則破りにも程がある。 でも、例え妙に目立つ格好をしていたとしても、同じ校舎で当時の晋助と話してみたかった。 ぼーっとしながら1本吸い終わると晋助は大人しくシャワーへ向かった。 奴の指に挟まれ、赤い唇に細く煙を運んでいる間はあんなに素敵な物に見えるのに。 くしゃと火が消され彼から離れると、やっぱりただの吸い殻だ。 ざあざあとシャワーの音が聞こえてくる。 最初にするのは日曜と決めていたのに、俺たちはまだ最後まで出来てない。 晋助がしているらしい1人遊びについて、何となくは知っている。 どの位の頻度で、いつから、かは知らない。 物凄く気持ち良いとはネットから得た情報。俺もお年頃だし気にはなるけど、実際にすると考えるととんでもなく怖い。 あいつ…よくそんな事出来たな。 時に意外と行動力がある男で、感心してしまう。 あぁー。 1人で小さく呟いてごろりとベッドに寝転がる。 壁際のチェストの上には図書館の本が数冊。 手に取りめくってみると普通に面白い。けどこれについてあれこれ考えて何か書けなんて俺には到底無理な話だ。 違う勉強してんだな、とよく分からない納得。 手の爪は昨日バイト前にきっちり切りました。 切りたてじゃないからトゲトゲもしていない。これで安心して触れられる。取り敢えず、指は。 日常生活の中での自然研磨、と教えてくれたのは何故か国語の教師だった。記憶違いかな。 前にもこの部屋で晋助が借りてきた本を手に取り、自分の爪を確認した。今とは違う本だった。 晋助の本に触れたあと、彼自身に触れるまでは出来るのに、ね。 自分の指と穴を濡らし、小さな穴の中を慎重に解した夜の事だ。 女の子のより硬くてきついなと思った。 ごめんね…心の中で呟きながら晋助の顔を見ると真っ赤で、目をきつく瞑っている。 男にされる男の子って何でこんなにいやらしいんだろうと思った。それとも晋助限定なのかしらん。俺のズボンの中はぱんぱんに苦しかった。 「晋助…、晋助。大丈夫?」 「ん…」 大きく息を吐く裸の背骨が綺麗だ。 ベッドにうつ伏せて腰だけ上げた姿勢から赤い顔でこちらを見遣る様子が、電車でおじさんに触られていた時の姿を思い出させた。 中を弄る手を止めてゆっくり背中を撫でてやった。背中、腰、腹、胸。どこも熱い。 肌は風呂上がりの湿り気に加えて薄っすらと汗が滲み、しなやかなビロードのようだ。 胸元を撫でながらそっと突起に触れると、びくりと体が震えた。 そんな自分の反応に驚いた顔をする晋助と目が合う。 「あ、あ、ぎん…」 その目には怯えが潜んでいて、急に可哀想になった。 それで、何となく続けられなくなってしまったのだ。 しかし穴の中に指は入れたままで、急には俺も止まれない。 その体に自分の体を寄せて抱き締め、腰を擦り付け、そのまま。 「ごめん…いっちゃった…」 かっこ悪すぎる。 俺だけ履いたままのパンツの中が気持ち悪かった。 呆然としていた晋助は微笑った。 銀時が苦い気持ちにしょんぼりしている頃、高杉は浴室で同じ場面を別の思いで反芻していた。 壁に背を向け頭のてっぺんから湯を浴びつつ、くすりと思い出し笑いをしてしまう。 いい加減、最後までしてみたいなあ。 確かに、そういった意味でもって男に体を明け渡す事は想像を絶する恥ずかしさだった。 それでもやっぱり銀時で良かった。 遠慮なんか要らないのに。 あれから銀時は俺に触るのを我慢している様だ。...

January 11, 2017