about 個人ファンサイト。 二次創作BL同人です。 原作者や出版社などとは一切関係ありません。 所謂オンラインブックマークはご遠慮ください。 検索避け済みです。 一部年齢制限を設けています。 サイト再構築完了 2023年11月、コンテンツ移行作業終了しました before: Gatsby Cloud after: Hugo + GitHub Pages


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2019年に妄想していたものを整理・拡張し、完結させました。 こちらが拡張分です。 素敵な御方 この喫茶店で働き始めて半年経つ。 今日も、俺が淹れるのは至高の一杯だ。 見ての通り今では凄腕チーフだが、実は記憶喪失の状態でオーナーに拾われ今に至る。 こう言うと悲劇的に聞こえるかもしれないが、真っ更な状態だった頃に音楽プロデューサーを名乗る怪しげな男と出会いギターを教わったりで、なかなか充実した日々だ。 最近では、自分の店を構えるか弾き語りに専念しようか内心で迷ってもいる。 それはそうとして、どこか心が満たされない。 「いらっしゃいませ」 アルバイトの女の子の声に、我に返る。 (あ。あの御方ッス!私行きます) 続けられる耳打ちに、こっそり下唇を噛む。 心が満たされない元凶が現れたという訳だ。 窓際の席に座ると同時に一服し始める若い男。 年齢は俺とさほど変わらないように見える。 今日も何処か儚げで、もみくちゃに撫で回したい顔をしている彼は、常連客だ。 初めて見たときは、派手な着物を身に纏い煙管を手にする妙な風貌の奴だと思った。 俺と目が合うと、何故か彼も酷く驚いていた。 あの瞬間に相思相愛のフラグは立っていた筈。なのに…。 「ブレンド1つ、ッス」 「相わかった」 すまし顔でカウンター内の会話をこなす俺。今日もまた、彼と一瞬目が合う。 しかし会話らしい会話は未だ一度も発生しない。何故なのか。 「…ーフ」 彼は眼鏡をしている。怪我か何かしたらしく片目の瞼は常に閉じているが、以前の包帯ぐるぐる巻きよりも良い。よく見れば、やはり色男だ。 あ。今、ため息をついたな。 「チーフ」 「かしこまりました」 「もう!聞いてないじゃないっスか」 「ふむ…」 目下気になるのは、彼がいつまで経っても腹を括らないことである。 俺に気がある癖に。俺を性的な目で見ている癖に。恐らく。 「だからチーフ!ブレンドひとつ。5番さまッス!」 「あっハイ」 「そんな怪しい目付きで影から見てる時点で今日も完敗ッス、チーフ」 「ん、おほん。なんの話かね」 彼の魅力が難解なら良かったが、生憎この金髪バイト娘には通じてしまっている。 つまり恋敵にも近いが、幸か不幸か、彼女は多少の勘違いをしている。彼女の目には、俺が何かしらの対抗心を燃やしていると映るらしい。 「あ、お待ち!たこ君」 「…また子なんスけど」 「それは俺が持ってゆこう」 「え。こっちの仕事なんスけど」 「いかん。どれ、貸しなさい」 「えー!」 バイト娘の小言は、健気にボリュームを落としながらも続けられる。 (せっかく来てくれてるんスから。妙なマネしないこと!) テイクアウト あくる日。 俺はとうとう、自分が出演するライブに彼を招待し存分にアピールした。 まず、意を決してライブチケットを渡してやった。あの時の俺は偉かった。 当社比ながら赤くなったり青くなったりして待ち侘びていた俺のもとへ、彼はきちんとやって来てくれた。 俺は張り切った。最高のパフォーマンスができて大満足である。 慣れない場に引き摺り出され、戸惑う様子の彼は可愛すぎて辛かった。 その流れで、何と畳敷きのワンルームにお持ち帰りまで成功し、現在に至る。 「いいのか…?」 室内に招き入れてすぐのこと。勢いで背後から抱きついても、彼は逃げなかった。 恐る恐る顔を覗き込むと、頬が真っ赤ながら挑むような眼差しが返ってきた。一つきりの瞳は潤んでいた。 俺は、了承と受け取り彼に身を寄せた。 彼の首元に顔を埋めると、予想よりも華奢な骨格だった。何かよい香りがする。 そのまま数度彼を吸っていると、喉元が震え低い声が絞り出された。 「…んとにおぼえてねェのか」 「…む?」 「俺を」 「………知っているとも!ずっと見ていたぞ」 彼は鼻を鳴らした。笑ったらしい。続けて深くため息をつかれてしまった。 「風呂借りて良いか」 「え。なっ、そんな」 「しっかり俺をここまで連れてきたのはアンタだろう」...
2019年に妄想していたものを整理・拡張し、完結させました。 素敵な御方 「おタバコお吸いですか?」 「あァ。ランチセット、食後にコーヒーを」 「少々お待ちください」 いつも変わらない、店員の仏頂面。 店の女の子の呼び方に倣い、高杉も専ら「チーフ」と認識している。本人にそう呼びかけたことはない。 彼の名前は知らない。幾つも違わないだろうが、歳上と踏んでいる。 事務所から歩いて3分、行きつけの喫茶店。 高杉が毎週ここに通うようになって半年が経つ。 彼は同じことしか言わない。高杉だって、そうだ。 しかし最近思うようになった。覚えて欲しい。 入り口のマガジンラックから経済新聞を掴み取り、窓際の席で煙草を咥える。 ビルの裏口で愛煙仲間と過ごすのも悪くないが、ゆっくり味わうのはずっと良い。 「お待たせいたしました」 運ばれてくる食事、チーフ直々とは光栄なことだ。 「こちらをどうぞ」 白く骨ばった手で仰々しく差し出されるのは紙コースターだった。短く切り揃えられた清潔そうな爪。 そう言えば、この店で高杉は冷たい飲み物を頼んだ事がない。 ランチセット目当てでばかり来るので、付属のホットコーヒーの味しか知らないのだった。 だから、この店の紙コースターは今初めて見たことになる。 「お待ちしております」 そう言う割にニコリともしない彼と目の前のコースターを見比べ、高杉はそれなりに混乱した。 店のロゴなど、何のプリントもない白地の紙コースターだった。 が、裏返して見れば青いボールペンで何か書き込まれているらしい。それは数字の羅列だった。 顔を上げると、チーフと目が合った。彼は微笑んでいた。 その薄い唇が弧を描くところを見るのも、初めてだった。 「私用です」 チーフは一言だけ発し、あとは踵を返して何の躊躇いもなくカウンターへ戻って行く。 括られた珍しい長髪が揺れるのを、高杉は黙って見送った。 彼の姿が厨房に消えたところで、手元を見返してみる。 「随分と…」 古風な手を使いやがる。 ため息をつき、食事に手を付ける。 朝に比べれば弱まったものの、外では春を待つ雨が降り続いていた。 深入りは危険、と感じた。 食後のコーヒーを運んできたのは女の子だった。 熱い液体を啜りながら窓から通りを見下ろす。地下鉄の駅に近い昼過ぎの商店街を歩く人々は、傘を差しながらも皆それぞれに急ぎ向かう先があるらしい。 そのあと高杉が店を出るまで、美しき黒髪の君はこちらに寄り付きもしなかった。 そうと知っているのは勿論、高杉が彼の動きを目で追っていたからに他ならない。 覚えて欲しい。 あわよくば触れたい。更に言うと他の表情も見てみたい。 臆面もなく言ってしまえば、つまり肌を合わせてみたい。 その週の最後、高杉は夜九時過ぎに事務所を出た。 一度ジャケットの胸ポケットに収まった秘密のコースターは、高杉が部屋に帰ると鍵置き場に横たわり、翌朝には迷った末の手に掴み上げられ、またその日の胸ポケットに収まる。 こうして高杉と共に部屋と職場を三往復したコースターは今、青白い街灯に照らされている。 相手への番号通知を考え、公衆電話を探した。 このご時世に電話ボックスなんて。…あるところにはあるものである。 番号をプッシュする前、多少は躊躇った。 「はいィ!亀山商事の坂本でございます!」 胡散臭さに満ち溢れた、明るい男の声。チーフではない。電話口の向こうはやけに騒がしい。 高杉は、無言で受話器を置いた。 思わず出た舌打ちが運良く拾われていない方に賭けたい。 「いつものランチセットでございますか」 翌週、何食わぬ顔で話し掛けてくるのが癪に障った。 しかもこのタイミングで「いつもの」とは恐れ入る。 因みに、のこのこ来る奴には何の非もない。 「海洋水を煮詰め南アルプスのマグマに一億年閉じ込めた後マイナスイオンドライヤーの冷風でヒンヤリさせたピュアなお水でございます」 満面の笑みでコップを置くチーフ。 いつもの窓際に座った高杉は、流石に絶句した。 他のテーブルから戻る途中であろう、これまたいつもの、店の女の子と目が合う。彼女の目からは、あまり好意的でない色が感じられた。 彼女からすれば、高杉も「ウチの変なチーフの、普通に見えるけど多分変な友達」か何かかもしれない。 ちょいちょい、と指先を泳がせて招くと、こちらの思惑を超えた近さまで顔が寄ってくる。 間近で見ても髭の剃り跡が目立たない。まるで少女の肌だ。 高杉は、舌打ちが抑えられなかった。 「チーフ、てめェ俺を何に引きずり込む気だった?」 「掛けてくれて、俺は大変嬉しい」 「な。…っクソが」 何のために公衆電話を探したのだったか。情けない。...
ふわふわと 「今夜、飲み行かねえか」 言われて心中舞い上がる。が、液晶画面を操作する姿に嫌な予感。 怖いもの見たさで、桂は手元でSNSアプリを開く。付き合いで登録したものの持て余し気味だが、存外役立つこともある。 『ヅラと飲む』 これに対し光の速さで『拙者も行きたい。どこでござるか?』と忌々しいコメントがぶら下がるのが見え、反射的に画面を閉じた。 桂は大きく肩を落とした。俺は二人で飲みたいのだ。お前と、二人きりで。 高杉との関係は小さな子どもの頃からだ。 高校生活後半はいかにも青春らしく進路選択に悩んだもので、一大決心の末に思いの丈を伝えた。 すると高杉は、逆に桂の進路希望を尋ねてきた。戸惑いつつ答えると「へェ、じゃ俺もそこだな」などと耳を疑う言葉があった。 結果、今がある。 幸せなキャンパスライフと満足すべきだろうが、正直とても物足りない。 堪らず「淡白なのか?、お前は本当に花の大学生か?」などと突付いても、 「お前のジジ臭さは別なのか…?」とうんざり顔を向けられるのみ。 特に何も起きない。ならばこちらから仕掛けるしかあるまいと息巻けど、具体的にどんな行動を起こせば良いのかが分からない。 それで桂は、2期生になった今、いよいよ悶々としていた。 政経研究会で仲間たちと連日「崇高な議論」を展開させる桂とは対象的に、高杉は軽音サークルの活動を楽しんでいる。 あそこはクサ過ぎて敵わん、と桂は思う。グラサン後輩?金髪のオンナノコ後輩?距離、近くないか?毎日居ても立っても居られない。留年だか助教だか知らないが平気で若人に混じるオジサン(ロリコンと気味の悪い噂も聞いた)とか、どう見てもアウトだ。全く。 「小言が増えたな。髪、縛ったらどうだ…汚れるだろう」 「俺がか?俺が誰の何だっ、ヒック、て?んん?」 有難いことに高杉の投稿はそこまで出回らなかった。桂には酒が回った。 俺に尻拭いばかりさせていたあの悪ガキが、すまし顔で、俺の向かいで酒を飲んでいる。 「何を笑ってやがる…」 「ふふっ、可愛いものだ、ふふっガッ!ハゥッ」 水の入ったグラスを掴んで口元に寄せたところ、勢い余って歯にぶつかった。 優しい慰めの言葉は?こちらを一瞥するだけで特に無い。いや、唇が少し動いたかもしれない。周波数が高すぎて人間には聞こえない愛情表現系の鳴き声か?そうかそうか。 「それでなァ」 「ん?」 「銀時の話の続きだが」 「あ、はいはい、そうね。はい」 「それで学長に呼ばれたらしいぜ」 「ハッ!情けないことだ、フフ、アハハハハ!」 これはアルコール入りで何かに乗ったか乗らないかで騒ぎを起こした同期の男の話。 「そりゃ、のれたらよかろうよ、」 ごつ、という鈍い音と共に、桂の視界はテーブルの木目に覆われた。額に衝撃を感じもしたが、痛みはよく分からなかった。 「ヅラ…。フッ、」 「たかすぎよ。お前、機嫌がいいんだ、な」 「…あァ、コレ旨い気がする」 それは俺と二人飲みという正しい判断をしたからに決まっている。 「ききずてならんな」 「起きたか…」 「俺にもちょうだい。んん、不味い!もう一杯!」 「うるせェな」 「ヅラ、帰れるか」 「ああ、カローラを呼ぼ、っ?!」 何気なく見た店の壁掛け時計が指す時刻に、一瞬で目が覚めた。小太郎一生の不覚。再度テーブルに突っ伏すと、首筋に熱いおしぼりが押し付けられた。 「アチッ」 顔を上げる。こちらに伸ばされる手の先に、高杉の苦笑があった。 「か、可愛い方がくれた」 「は?お前が?厨房でチンさせてもらったのか?」 「お前とは趣味が合わねェ、…いや話が通じない。なぁヅラ」 「はいヅラじゃないかつ」 「来るか?」 「ん?」 「送るのは御免だからな」 「お前は俺を誘っている。そうだな?貴様、どこでそんな真似を覚えてきたんだ」 「ハッ。顔色は悪くねェ…」 高杉は、額や目元を拭いてくれた。 「うぶ」もう少し優しく拭いてくれても良いのではないか? 「ふぅ。お前、見た目は気を付けろよ」 桂は耳を疑った。まさか今、照れ屋のお前がこの桂小太郎を褒めたか?いや正直他では良く言われるが。 「なんだ?」 「悪くはねェんだ」 「むむむ」 「俺ァ割と気に入ってる」 「アッ、え、えぅ。えええ?」 言う割に人の顔をかなり適当に拭き終わると、高杉は出された茶をゆっくり飲み干した。 好きだぜ?好き?桂の脳内ではただ一言がぐるぐる回り続ける。 お前に言われてしまったら萎えると思っていた。夢が叶ったら恋は終わると思っていた。 「そんな事、無かった!アハハハー!」...
茶屋で武市変平太と遭遇したときは、内心ひやひやした。 結果あちらは赤子を得て、桂は記憶喪失の少年を連れ帰った。 少年は、枯れ草の茂みに蹲っていた。 その姿形は十かそこらの頃の彼そのものではあったが、不思議と、まっさらで美しい未知の生き物に見えた。 「大丈夫か、生きてるか童」 「ん…」 「怪我は。ないか。…貴様は善良なただの迷子か?」 「おれ?おれは……。俺は、なんだろう」 瞬間、胸に湧き上がった使命感、喜び、高揚感、自分でもよく分からないが熱くて仕方ない妙な諸々に突き動かされ、桂は少年を抱き締めていた。 唐突にも「養子に来い」と詰め寄る長髪の男を前に少年は勿論困惑したが、それはそうだろう、自身が何者かも朧気な幼い身では他に為す術もないらしく、ためらいがちにも桂の背に手を回した。 「あの。あなたの」 「あっハイ」 遠慮がちな声に、桂は緊張した。彼の一挙手一投足はいちいち刺さる。 身元に関しても心当たりがないと困惑する少年は、その割に礼儀正しい振る舞いをする子どもだった。 「…貴方のことは何とお呼びすれば良いでしょうか」 「んんッ」 「……すみません、お加減が優れませんか」 「ハァッ、ハァッ、貴様…ブハァッ!すまんあまりの尊さに取り乱してしまった、俺はこの通りどこも悪くないぞハハッ」 桂さん?…小太郎くん?…いやせっかくだからおかあ…ッフ。んんっ、おほん。 「お世話になるなら必要かと」 「と、取り敢えず一ヶ月ほど時間をくれ。熟考する」 「あの、何か気に障ることがあったでしょうか」 「それは断じて違う!良いか、お前が気にするようなことは何もない。分かったな」 「…。呼び方を決めるのに、ひと月も必要ですか」 「当たり前だ!」 思わず大きな声が出る。少年が怯む素振りを見せるのと、桂の両手が少年を捉えて腕の中に閉じ込めるのはほとんど同時になった。 「ぐ!」 「俺は、…俺はな。…っか、かわいいいすぎるうぅぅ…」 「ぐえ。カワイ…?」 「桂先生」 「んふッ」 桂の実名はカワイスグル、との誤解を解くためにも一旦彼の提案通りに呼ばせることで落ち着いたが、未だ慣れない。 数日間、少年にはのんびり過ごさせた。 部屋の本を手に取ってみたり、近所を散歩したり。時には桂の「仕事」を覗き込んでもきた。 しかし自身の身の上については、ほとんど思い出せないままだった。 桂は、次第に「これはこれで」とほくそ笑むようになっていた。 もしも。この少年が完全なる他人の空似だったら? この子は可愛い。聡明だ。大事に育てていずれは。あわよくばだが、恐らく俺の後継者としてこの国を背負って立つに相応しい。そうはならなくとも愛おしい。俺より先に死ぬのは許さん。 もし、この少年がアレの子株か何かだったら? この子は可愛い。アレはアレで可愛かったが憎たらしさも有り余るほどだったので、二の舞にはならぬよう気をつけよう。大事に育てて以下略。 もし、この少年がアレに関係あったりなかったり。それはどちらでも良いとして。 アレがどこかで生きていたら良いのに。 それはもう最高のトゥルーエンドであるからして、奴をとっ捕まえてきて共に穏やかに暮らせば良かろう。それはそうとしてこの子は可愛い以下略。 うん、それはそれで。 「先生」 どれもこれも、俺はなかなかに幸せ者ではないか。 「桂先生、聞けよ!」 「………グス。な、なあに?」 「明日の、有料おんらいんさろん生配信とやらの準備はもう完璧なのですか?」 「ん。えっと、まあそんな感じだな」 「先生、」 少年の指先がこちらに伸びてくる。 「悲しいことがありましたか」 間近に迫る少年の瞳から目を離せない中で、桂は初めて気付いた。自分の頬には涙が伝っていた。 「…うん。今、その。イメトレをしていたんだ。それがな、っグス、マサカリ飛んできたら嫌だなぁとか、解像度が凄すぎて。さすが俺」 「休憩しましょう。茶を淹れます」 「…ああ、頼む」 頼まれごとが嫌でもないのか、少年は嬉々として立ち上がるように見えた。 「晋助」 桂は呼びかけた。字は分からないが音は確実だと思う、と教えてくれた唯一の情報、彼が「何となく覚えている誰かの名」を、勝手に脳内変換している。その字で、彼を呼んでしまっている。 「?はい」 「一服したら、リハに付き合ってくれ」 「リハ?」 「リハーサルだ。知ってる?」 「はぁ。知ってますよ。俺なんかで良ければな」 少年の態度は、順調にくだけてゆく。 まずい。 これではいつか煙管とか酒とか、悪いものを覚えてしまうのでは。妙な呼び名で俺を呼ぶようになるんじゃないか?いかん。非常にまずい。 「桂先生」 (ヅラ、) 「リハより、今日はもう休んだほうが良い。な?」...